alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

海の恵みがもたらされる仕組み (5)

昨夕(11/1)は稲光と雷鳴に驚かされましたが、幸いにも植木鉢がいくつか倒れる程度のことですみました。「気象庁アメダス」のページから函館の観測データを拝借です。

11月1日 函館の毎時データ

昼まで庭で木材加工の作業をしていたのですが、風が強くなってきて、暗くなってきたところで片付けて屋内に入りました。その後、17時を過ぎたころから雷雲が次々に接近してきたようです。18時から21時までの右端の欄をご覧ください:

 雷の音が聞こえたのなら、こちらの「雷鳴 Thunder」で、

 光ったのが見えただけなら、こちらの「電光」(稲光 Lightning かな)。

 これが合わせ技の「雷電」で、雷鳴と電光 Thunder and lightning、両方があったのですね。

 

今日は黒潮親潮、潮目から漁場の条件まで。

 

最近、黒潮水の北上が著しい・・・親潮は流れていない・・・

黒潮 Kuroshio は、東シナ海を北上して、九州と奄美大島の間のトカラ(吐噶喇)海峡から太平洋に入り、日本の南岸に沿って流れて房総半島沖に達する海流です。その先の流れは、黒潮続流 Kuroshio Extension と呼ばれます。

親潮 Oyashio は、千島列島沿いに南下して、北海道南方から日本の東方まで達する海流です(i)。その後東に流れ去る部分を、親潮続流 Oyashio Extension と呼ぶ人もいます。

お気づきでしょうが、黒潮親潮 も、そのまま英語として通用します。どちらも海流としての名前であると同時に、その広がりに属する海域を代表する水塊 Water Mass の表現にもなります(黒潮水、親潮水と書けばよりはっきりします)。

(i) うるさいことを言いますと・・・カムチャッカ半島方面から南下する東カムチャッカ海流の一部がオホーツク海流入します。それがオホーツク海の内部で変質した後に太平洋側に流出して、東カムチャッカ海流と合流して混じり合った状態になったところから先が親潮です。オホーツク海への流入と太平洋側への流出は、東経151度付近のブッソル海峡 Bussol Strait(北ウルップ水道)で生じるとされているので、親潮について語りたいのなら、東経150度線よりも西の海域の現象に注目するべきだと思います。

 

海洋の現象についての観測データは、地上の気象現象の観測データに比べると、空間的密度だけみても圧倒的にまばらです。衛星からの観測などにより、海面水温のデータだけは飛躍的に増加していますが、塩分をはじめとする海水に溶けている物質に関する情報がそれほど増えているとは考えられません(空間的にも時間的にも、です)。黒潮親潮の動向は、やはり水温で追跡するほかないでしょうね。ある意味、元・水の分析屋さんが観測の現場にデビューした当時と本質的な進歩は・・・。

ともかく、海面水温場を観察するところから始めましょう。今年4月の月平均海面水温の図がこちら(位置関係を見やすくするため、緯度経度5度ごとの線を入れておきました):

ここ最近、黒潮水の北上が著しいのですが・・・

さて、16~18℃あたりの色分布をよぉくご覧ください。等温線を引いてみたいけれど、ムリそうですよね。自然現象によくみられるフラクタル的な様相です。これじゃ、手に負えません。滑らかな等値線を引いてある図がほしい(説明の便宜だけですが)。

気象庁は、100m深水温で水塊を定義しており、黒潮水は100m深水温15℃以上、親潮水は100m深水温5℃以下としています。それを踏まえて、これだとどうでしょうか:

同時期の海流図と100m深水温場

黒潮水の北限は北緯39度付近とされていましたが、なるほど、明瞭な流れも15℃の等温線もそのへんにあります。黒潮続流がここまで北上したのは珍しいでしょう。元・水の分析屋さんは現役時代にみたことがない、と思います。地球温暖化のせいであろうか・・・など、真剣に考えています。

親潮の方もそれなりに問題です。釧路沖に怪しい渦はありますが(暖水渦と書いてあるのに、中心水温は周囲よりも低く解析されています)、それをはさむように5℃以下の領域がみえています。これが南下する親潮だというのですが、春先の親潮域としては広がりがずいぶん小さい。黒潮続流の勢いに押されているのでしょうか。

それはさておき、親潮としてのはっきりとした流れはどこにもないですよね。親潮は、黒潮と違って、そんなに強く流れてはいないのです。

 

親潮黒潮は直接出会っていないのに潮目になる

黒潮続流は日本東方(三陸沖)にもやってくる強い流れですが、同じ海域に到達しっようとする親潮ははっきりとした流れではない。しかも、黒潮水と親潮水は 100m深水温15℃と5℃で定義されていることから、直接接触することはありません。必ず間に広がる5~15℃の領域があります。教科書に出てくる「潮目」なんかではないのです。

前回引用した中学受験向けのサイトにはこのように書かれています:

・・・黒潮親潮がちょうどぶつかる岩手県三陸海岸沖あたり海域を「潮目(しおめ)」といいます。暖流の魚も、寒流の魚もとれる海域なので良いとこ取りですね!

中学受験レベルならこの程度の理解で許されるのでしょうか・・・あまりに大雑把で、私は許したくないです。

世界の三大漁場は、ノルウェー沖、カナダ・ニューファンドランド島沖(グランドバング)、そして日本の三陸沖とされています。ノルウェー沖とグランドバンクは、いずれも大西洋で、メキシコ湾流が北上する海域に、東グリーンランド海流、あるいはラブラドル海流が南下してきます。直接出会うとは言いにくいですが、主要な海流は二つです。一方、三陸沖は、親潮黒潮日本海経由で太平洋側に出てくる津軽暖流も加えた三成分系であることろがちょっと違うと思います。

もっと大切なことは、三大漁場のいずれも漁船の基地となる港に恵まれていること。巨大な港湾施設は難しいとしても、漁港に適地のリアス海岸が連なっております。しかも、陸地が海に迫っている沈降海岸ですから、陸地から供給される栄養塩が沿岸域に届きやすい。養殖業にも有利な条件ともいえそうです。また、春先の津軽暖流三陸海岸にへばりつくように南下しますから、三陸沖海域への栄養塩補給にも一役担っているのではないでしょうか。

 

海の恵みを受け取ることができるのは、陸地側の条件まで整っていてこそ、という主張でした。