alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

親潮と黒潮、何が違う?

蛍光灯の電球(蛍光管)に水銀が使われていることをご存じでしょうか。蛍光管の電極から電子が飛び出し、それが封入されている水銀原子に衝突して紫外線が生じて内壁の塗料に吸収され、そのエネルギーが可視光線として放射されるという仕組みです(水銀原子を介さなければモロに紫外線が出るかも)。

スイス・ジュネーブで開催されていた「水銀に関する水俣条約 Minamata Convention on Mercury」の第5回締約国会議、直管蛍光灯の製造と輸出入を2027年末までに禁止することなどについて合意したそうです。電球形の蛍光灯は、すでに25年末で禁止になっているので、一般照明用蛍光灯の製造はじきにすべて終わることになります。蛍光灯器具の生産も2019年で中止されています。これから先、省エネルギーの観点からも照明のLED化が進められていくことになるのでしょう。

昭和30年代生まれの私たちとしては、白熱電灯から乗り換えて以降、長い間お世話になってきましたが、お別れの時期は刻一刻近づいているようです。

なお、水銀が使用されている蛍光管の品番は、アルファベットの「F」または「EF」で始まっています。自治体の分別ルールに従って適切に廃棄していただけますよう。

 

さて、「海の恵み」で押し切るのも何ですから、タイトル変更してみますね。

 

親潮の水と黒潮の水

前回、親潮黒潮の間の様子を海面水温場で概観しましたが、今度は観測船による定線観測による鉛直断面図で海洋の内部まで観察しましょう。典型的な例を用意しましたのでご覧ください。まず、どこの状況を見るのか、観測定線と観測点の位置関係を示しておきます。

親潮黒潮の観測定線と観測点

気象庁が「釧路南東線 (KS Line)」と呼んでいた定線、2009年春季の観測データによる、水温と塩分の断面図がこちら。親潮域を含む図ですが、鉛直断面で表層の水温4℃の線と塩分34の線がほぼ並行して走っていることに気づくでしょう。

釧路南東線 の水温(左)・塩分(右)断面図(2009年春期)

一方、黒潮続流を横切ることを期待される定線のひとつが「147°E 線 (147°E line)」。2007年夏季の観測データによる水温と塩分の断面図がこちらです。

147°E 線 の水温(左)・塩分(右)断面図(2007年夏季)

表層の水温15℃の線と塩分34.5の線がほぼ並行して走っているようです。また、水温5-6℃の領域の上方に、薄い黄色に塗られた塩分極小層(塩分 34.1くらい)がみられます。

※ 釧路南東線、147°E線とも、後に水温・塩分の鉛直分布図を示す観測点の位置を「」と破線で示してあります。釧路南東線に示した観測点は周囲よりも低水温・低塩分の親潮水があるところ、147°E 線 の観測点は100m以深の水温・塩分の南北方向の変化が少なくなった黒潮続流よりも南側の領域にあたります。

親潮域から黒潮続流域に至る変化に富む海域の現象を観察するとき、水温・塩分のどんな値を指標として注目するのかは、昭和の頃から今まで、専門家の間でも意見の分かれるところです。幸いにも令和まで生きのびた元・水の分析屋さんは、決定版とは申しませんが、「水温4-5℃」と「塩分33.9-34.0」を考えています。

 

黒潮は水温で成層しており、親潮は塩分で成層している

問題は密度成層です(海水の密度については、9/29の記事をご覧ください)。

黒潮域の観測点について、水温と塩分の鉛直分布を示します。

黒潮は水温によって成層している

水温は深度とともに単調減に低下していますが、塩分は800m深付近に34.1くらいの極小値をもっています。海水の密度が水温と塩分の函数になっていることは、だいぶ前に説明しました。塩分極小があっても密度が逆転していないわけですから、黒潮域の水は水温が単調に低下することによって成層している、と言っておきます。

で、こちらが親潮域の水温と塩分の鉛直分布です。

親潮は塩分によって成層している

黒潮の図と比べて、塩分はスケールを1.0ずらしただけですが、水温は0-7℃までに縮んでおります。

塩分は深さ方向に単調増大しています。ところが水温はややこしい。100m深付近に極小がみられ、細かい凸凹はあるものの、そこから深さとともに上昇して500m深あたりで極大となり、その先は深さとともに水温は低下しています。塩分33よりも高い海水ですから、冷えれば冷えるほど密度は増大します。親潮域の水は塩分が単調に増大することによって成層しているのです。

・・・成層の状態が全く違っている二つの水塊、親潮黒潮の間にあたる海域。

 

なんだか知らんけど、簡単ではなさそうだとお分かりいただけるでしょうか。特定の水温・塩分の値に注目しようとしておりますが、その理由を説明しなくてはいけまません。そこで次回、「海水の密度は水温と塩分の函数」をめぐるもっと面倒くさい話をしましょう。