alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

海洋の表層循環-海流 (1)

マーフィーの法則」  Bureaucratics (官僚主義)の章より

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組織の異常行動についてのオーエンの理論
すべての組織には、不適任者のための部署が用意されている。

推論
前任の不適任者が去ると、後任の不適任者が補充される。

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・・・・・・1993年に売れた本に書いてあることが30年経った今でも・・・・・・ブツブツブツブツ。

 

そんなことより、今日は「海洋の循環について」、であります。

 

暖流と寒流・・・分かりやすい説明に騙されるな!

「海流」ってググると、割と簡単にこのような図をみつけることができます。

赤:暖流 青:寒流 黒:???

みんな大好き Wikipedia、海流の種類として「暖流」と「寒流」をあげています。どうしましょう。上の図は「海流」のところに掲げられているものです。赤、青の矢印は暖流と寒流だそうですが、赤道付近にも中緯度域にも南極の周りにもある黒矢印は、いったい何流なのでしょうか。

地理関係の書き物では、たいてい次のように書かれています:

○ 周辺の海域よりも水温が高く、低緯度から高緯度に流れる海流を暖流という。

○ 周辺の海域よりも水温が低く、高緯度から低緯度に流れる海流を寒流という。

なるほど、上の図で、赤い矢印は低緯度から高緯度に、青い矢印は高緯度から低緯度に向かっていて、黒い矢印はほぼ同じ緯度帯に収まっています。だから、これでいいのだ、というつもりなのでしょうか。

やはり納得できません。海流を暖流と寒流の二種類に分けて説明した後で、さりげなく三つ目を出してきているのはなぜですかね。それに、矢印をつなげないから分けられているけれど、実際の流れは赤→黒→青→黒→赤→・・・のようにつながって、循環しているのではないですか。これ、インチキじゃん。

 

暖流、寒流の説明にはウソがある

日本近海を流れる代表的な暖流だという黒潮、本当に周辺の海域よりも水温が高いでしょうか。先月、2023年10月の月平均海面水温図で確認しましょう。

黒潮続流は赤破線、親潮水の南限は青破線

ちゃんと観察していれば分かることですが、黒潮は水温前線に沿って流れているのですから(続流も同様です)、流れているところよりも南側の方が高温になっています。周囲よりも水温が高い流れなんかではないのです。

親潮も、千島列島に沿って南下して日本の東まで達する寒流だとされますが (i)オホーツク海側や千島列島から若干離れたところに、より低温の領域があります。親潮だって、周囲よりも水温が低いとは言えないのです。

(i) 下線部は気象庁の「ホーム > 知識・解説 > 海水温・海流の知識 > 親潮」の表現をコピペしたものですが、Wikipedeia は最後のところ「寒流」ではなく「海流」と書いています。ナイスな判断でうまくぼかしたのか、ただ単にどちらかが表現を変更したのか。意地が悪いようですが、変なコピペが横行する世の中、こういうの見ているとなんだか楽しい。

地理の先生方や塾講師の皆さんは、教科書・参考書にしたがって、また、試験に出るから教えているのだろうと承知しています(あなたのせいではありません)。ですが、海洋学の業界では暖流・寒流の区別に熱心な人はあまりいないと思います。強いて言えば、大気に熱を奪われるのが暖流で、大気から熱を奪うのが寒流、かもしれませんが、これまた定義に使うにはムツカシイ。

観測事実で容易に確認できることとは違う暖流・寒流の区別で困っている場合ではないです。海流は循環している、という事実を正しく教える方がよほど大切ではないでしょうか。

 

海流は海の中の川のようなもの・・・ではない

「海流」を辞書や事典で調べると、いろいろな説明が見つかります。

○ 海の中を、ある幅をもって定常的に一定の方向に流れている流れ。(精選版 日本国語大辞典 「海流」)
○ 海水がある程度以上の速さ、幅、厚みをもち、ある程度以上の距離を、ある程度以上の期間にわたってほぼ同じ方向に流れる運動をいう。(日本大百科全書 ニッポニカ)

○ 海流は海の中を帯のように続いて流れているので陸上の河川に似ている。(世界大百科事典 第2版)

また、こんな説明をしてくれるサイトもあります。

○ 海にも川のような流れがあり、この川のような(周期的に変化せず、ほぼ一定の向きや速さの)流れを海流といいます。(第八管区海上保安本部 海洋情報部)

概略、時間的な変化が少ない、川のような流れだといいたいようですが、海流は川とは全く違う仕組みの流れです。違うところを列挙してみましょう。

◇ 河川は岸というはっきりした境界をもつが、海流には岸がないのがふつう。
◇ まっすぐ流れる河川では両岸の水位は同じだが、海流は流れ去る方に向かって右側の水位が高い。
◇ 河川は高いところから低いところへと流れるが、海流はふつう同じ高さのところをたどって流れる。

岸がないとか、流れの両側で水位が違うとか、ムツカシイ話ではあるのですが、最後に紹介したのは特に重要な違いです。海流は、今日の最初の図で「赤→黒→青→黒→赤→・・・」となるように循環しているはず。もし高いところから低いところに流れているとするなら・・・

M. エッシャー 「滝」

循環するには、どこかでこうなるしかないではありませんか(笑)。

 

次回は、表層の循環、海流が「滝」のようにならないわけについて。