alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

二酸化炭素は微量成分!?

元素の周期表で一番右の列にある「貴ガス(*)」、私たちの高校生時代は「0族」でした。左側から2列、「アルカリ金属」「アルカリ土類」も「ⅠA族」「ⅡA族」でした。1988年に IUPAC(**) が各列に 1~18の番号を振って、アルカリ金属とアルカリ土類は「1族」「2族」、貴ガスは「18族」に変わりました。昔の族(暴走するわけではないです)の名称は、化学反応にあずかる電子に関する情報を暗示していて、なかなか捨てがたかったものですが(個人的感想)。そういえば、pH もドイツ語読みの「ペーハー」から英語読みの「ピーエイチ(***) 」になりました。時代の変化にできるだけついて行こうとは思うものの、まあ、大変です。

(*) 昔は「ガス rare gas」でしたが、日本化学会の意見などをふまえて、反応性に乏しい「貴金属 noble metal」に対応する形で、令和3年度の教科書から「ガス noble gas」となったとのこと。どっちでもいいやって人が多いでしょうけど、エラそうに子供に語って痛い目をみないよう、念のため。
(**) 国際純正・応用化学連合 International Union of Pure and Applied Chemistry。原子量、様々な化学種の命名法などに関する協定を取り仕切っている機関です。私もその権威に頼りました。大いに敬いましょう。

(***) エイチなら「英智」に間違われてもよいですが、「エッチ」だと「へんたい」をローマ字で書いた頭文字と間違われるかも。気をつけてくださいね・・・

 

では、そんなの関係ないところで、温室効果気体(ガス)のお話。今日は二酸化炭素主役で始めましょう。

 

乾燥空気の組成

大気中にはまず間違いなく水蒸気が含まれます。しかし、その量は場所によっても時間によっても大きく変動し、最大で 4%程度になる一方で 1%を下回ることもあります。そのため大気の組成は水を除いた部分、乾燥大気について示すのがふつうです。

乾燥空気の組成 (引用元の 8th edition、2000年刊行でちょっと古いか)

地表付近の大気の主な成分は、比率が高い順に、窒素 N2 78.08%、酸素 O2 20.95%、アルゴン Ar 0.93% で、ここまでで 99.96% になってしまいます。残りの大半は二酸化炭素 CO2 で、2000年の出版物なので 0.036% となっていますが、実は、世界の二酸化炭素年平均濃度は2016年に400 ppm を超えました。ともあれ、地球温暖化にもっとも強い影響を与えているという CO2 でさえ、大気中の存在比が 0.1% にも満たないことには、力一杯驚いてもらいたいと思います。

 

ご先祖様が呼吸したことのない大気

様々な気体の温室効果に気候を変える力があることは、19世紀のうちからフーリエ、チンダル、アーレニウスらが述べており、そういう知識は、二酸化炭素で冷害を防ぐ話が宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記(1932年)」にも登場するくらいには広まっていたようです。しかし、1940年代から1970年代にかけては、地球全体の気温は低下傾向にありました(10月6日に紹介したグラフを参照)。研究者とて人の子、地球全体の気温の上昇傾向に関する議論は下火になったそうです。私も学生時代に「超異常気象 30年の記録から」とかいうタイトルの本を手に取って、どこかおかしいものの半分納得するところでした。センセーショナルな内容の本が書店で平積みになっていたら、何かがおかしいと勘づくべきです。引用した論文の趣旨に反する主張があったことは後で知りました。疑問が発生したときに、原論文を参照して確認すればよかった。若気の至り、一時の気の迷いであります・・・

ここで、IPCC 第4次評価報告書(AR4)から、大気中の主な温室効果ガスの過去2000年にわたる濃度変化を示す図。話の要点をとらえるのには適切だと思います。

大気中の主要な長寿命温室効果気体の過去2000年にわたる濃度変化

対象となっている温室効果ガスは、二酸化炭素 CO2、メタン CH4 および一酸化二窒素 N2O の3種。横軸は西暦の年、縦軸はそれぞれの気体の濃度で、単位は ppmppb です。

ppm は parts-per-million(10-6;百万分率)、ppb は parts-per-billion(10-9;十億分率)で、体積と体積の比、重量と重量の比などを表す(ここでは体積比と考えてよい)。

ついでながら、第6次の報告書(AR6)に登場するグラフでは、もう少し先まで横軸が伸びて、縦軸方向に完全にスケールアウトしている状況が示されています。

さて、1750年代から始まった産業革命(石炭の利用というエネルギー源の転換に伴う社会構造全体の変革)以降、どの気体も急激に濃度が増大しております。敬虔なクリスチャンであった J. S. バッハが亡くなったのが 1750年だったと記憶していますが、その頃からこれまでの300年足らずで、神の創造された大地が数千万年以上の時間をかけて大切に固定した炭素、これが無限カノンの調べに乗るがごとくに大気中に解き放たれ続けた・・・・・・

現代の大気は、私たちのご先祖様は決して呼吸したことのない組成になっています。教訓めいて申し訳ないですが、それでも何かおかしなことが起こらないと考えるとすれば、大変な思い上がりではないでしょうか。誰かが「バルス」を唱えないうちに行動を起こしたいもの。

 

次回、温室効果温室効果ガスの話、続きを予定しています。