alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

そもそも論で「温室効果」

 地球の環境は、産業革命のずーっと前から生物活動に適した温度に保たれてきました。それは、大気中に存在する水蒸気などがもたらす温室効果のおかげです。今回は「そもそも」の部分に戻って、温室効果についての復習といきましょう。長文ですが、お許しください。


温室効果がなかったら・・・

地球は広大な宇宙の中、太陽系の中にある1つの惑星です。この星の温度が定常的に保たれるには、太陽光のエネルギーを受け取ったら、それと同じだけのエネルギーを宇宙空間に放出しなくてはなりません(これを放射平衡といいます)。下の囲みをご覧ください。もう十年以上も前から職場の勉強会などで使っていた資料の焼き直しですが、本筋の物理は変わりようがないので、もちろん今でも通用します。

温室効果なしの単純な放射平衡を仮定

右上に示すように、地球が収まる円筒形の光束で太陽放射のエネルギーを受け取り、地表面全体からの地球放射で宇宙空間に逃がすことを考えます。そこで単純な放射平衡と黒体(*)輻射を仮定すれば、灰色のボックスに書き込んだ計算により(πr2 も消えるので、Stefan-Boltzmann の法則を知っていれば難しくはないと思います)、温室効果が働かない地球の平均温度は -19℃ くらいと見積もられます。

(*) 黒体とは、外部から入射する電磁波をあらゆる波長にわたって完全に吸収し、また熱放射する仮想的物体のこと。理系の高校生は物理で黒体輻射を学習するようですが、地球温暖化や気候変動は地学の範囲だそうです。力学と微積分の関係についても感じることですが、関連する知識が整理されて一緒に身につくようなやり方はないものでしょうか。 

 

水蒸気の温室効果

実際の地球には温室効果が働いていて、地球全体の平均気温は +14℃ 程度だとされます。上の計算結果と比べると 33℃も稼いでいます。そのおかげで地球は多種多様な生命を育む温度環境になっているのです。このありがたい温室効果をもたらしているのが、水蒸気 H2O、二酸化炭素 CO2、メタン CH4 などの温室効果ガスです。AR5による2011年の放射強制力の推定値に基づく、水蒸気以外の温室効果ガスの寄与率を示します(気象庁による計算)。

水蒸気を除くと二酸化炭素の寄与がもっとも大きい

 主に化石燃料の燃焼によって排出される CO2 の影響が最大なのは今さら言うまでもないことですが、CH4 の寄与も馬鹿になりません。牛のゲップは CH4 の大きな排出源(全体の4%程度)とされていますが、近年、カシューナッツや海藻に由来する物質を餌に混ぜることで削減する試みが注目されているようです。また、水田で発生する CH4 を減らす耕作方法の研究も進んでいます。牛を食べないようにすべきだ、稲作はできればやめよう、などの話を聞くことがありますが、いささか過激かと。

さて、「水蒸気以外の」話ばかりしているわけにもいきません。温室効果の主役は水蒸気ですから。下に示す図は、地表(青線)と大気上端(赤線)における赤外線スペクトル。青線と赤線の差が大気による赤外吸収、ひいては温室効果の強さということになります(右側の表には各物質の寄与率が掲げられています)。

水蒸気も二酸化炭素も、その温室効果は飽和していない

H2O は幅広い波長帯で赤外線を吸収しており、寄与率も 48% と高くなっています。大気の飽和水蒸気圧は20℃のとき 23.4 hPa で、これは標準大気圧の 2.3% にあたります。空気の分子のうち 2.3% が水分子に置き換わると飽和すると考えればよいかと。一方、世界平均の CO2 濃度が2016年に 400 ppm を超えたと前に書きましたが、これって 0.4% のことです。つまり、大気中の水蒸気量はしばしば CO2 を上回ります。水蒸気のもたらす温室効果が最も大きいというのも、なるほどなるほどです。

さて、波長15µm付近の赤外線は CO2 によってよく吸収されるのですが、上のグラフからは、まだまだ吸収する余地があることも見て取れます。したがって、CO2 濃度が上昇すれば赤外吸収は増えるはず。ネット上では、CO2 による赤外吸収は飽和していて、これ以上増大する余地はないので、排出量を抑える必要はない、という乱暴な話も出てきますが、そうはいかないのですよ。

また、気温が上昇すると飽和水蒸気圧も上昇しますから、水は蒸発しやすくなります。すると、大気中の水蒸気が増えて温室効果がさらに強化される、というフィードバックも働きそうです。
産業革命以降、人為的に放出された温室効果ガスの寄与が増大し続けていますが、産業革命以前から地球の温度環境をほどよく保ってきた最大の功労者は水蒸気です。

温室効果 ― 均衡版 と 過剰版

放射平衡が成立していれば、地球全体でのエネルギー収支はプラマイゼロのはずです。しかし、温室効果ガスは、太陽から届く波長の短い光に対しては透明で、地球から放射される赤外線を透過させない性質をもっています。地球からの放射をいったん大気中にとどめておく役割を果たします。何が起こるでしょうか。

まず、AR4 による地球のエネルギー収支の図を示します。 

太陽からの短波放射 342 - 太陽放射の反射 107 = 地球からの長波放射 235
数値の単位は W m-2 

図の上部だけを見てください。太陽からの短波放射 342 は、放射強度 S0= 1.366×103 W m-2 を4で割った値です(円筒形 πr2 で受け取ったエネルギーを地表面全体 4πr2 に分配したから)。ここにアルベド A = 0.31 を乗じて、太陽放射の反射 107。これが地球からの長波放射 235 と均衡しています。温室効果のないむき出しの地球であれば、いただいたものを全部お返しする、この収支だけで一丁上がりです。

温室効果ガスの役割は、図の右下にみえる、地表面からの放射 350(上向き) のうち 324 を下向きに返しているところです。これによって、大気中に熱エネルギーが「こもった」状態となり、しつこいようですが、地球の温度環境をほどよく保っています。

毎月の収入を次の給料日までに使い果たすけれど、増えも減りもしない程度に貯金があるサラリーマン家庭を想像するとわかりやすいか。

次に、AR6 による地球のエネルギー収支の図。

左下に imbalance(不均衡) 0.7 がぁぁぁぁ!

和訳してなくてすみません。AR4 の頃とはエネルギー収支に関する評価値が若干違います。また、評価値に幅があるし、整数桁で示してあるとはいえ、上部に登場する 太陽からの入射 340 ー 反射 100 は 放出量 239 と一致せず、左下に不均衡 0.7 が出ています。AR4 では、放射平衡が厳密には成立してなくて、地球システムに熱エネルギーが蓄積されてきた、までが言えた。AR6 では、放射平衡からのずれ=不均衡がこれだけあってこうなった、まで評価できるようになった、ということです。

この 0.7 W m-2 の部分が積もりに積もった結果「1971~2018年の間に地球全体に蓄えられたエネルギーは 324.5~545.3 ZJ (AR6 の記述)」となったのですね。来る11月の末には、COP28 (国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)が中東ドバイで開催されるそうですが、いわゆる「1.5℃」の目標や脱炭素化に向けた取り組み、どれくらい進展してくれるでしょうか。

 

次回は、地球温暖化にともなう海の変化について。