alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

海の恵みがもたらされる仕組み (3)

世間では、関西の球団同士の対決ということで盛り上がっているようですが、私は北海道民だし、出身地は広島県だし。まあ、いつか見返してやりたいと思いつつ(笑)。

「レッドフィールド比」を考えよう

地球上に現存する生物体の有機物の元素組成は、海洋のプランクトンまで含めてほぼ一定だといわれています。有機物は生物に由来する炭素化合物。生体を構成する成分といえば、炭水化物、脂質、タンパク質でしょう。

炭水化物は、糖類の集合体みたいなもの。名前のとおり、炭素と水(水素と酸素)でできています。脂質は、水に対して不溶性の有機物で、リンを含むものが多いです。タンパク質は、アミノ酸のペプチド結合でできた高分子化合物(分子量がおよそ10,000以上の巨大分子の化合物、ですかね~)。生体を構成する主成分ですし、生体の様々な機能をつかさどる酵素もこれです。アミノ酸という名前からも分かるでしょうが、必ず窒素を含みます。ここまでの話で、炭素とリンと窒素が重要なことはご理解いただけるかと思います。一応、アミノ酸とそのペプチド結合、図に示しておきますね。

側鎖の違いで多様なアミノ酸が生まれます

こうしてたくさんのアミノ酸がつながって高分子を作ります

※ 上のアミノ酸の脱水縮合ですが、反対向きの反応はタンパク質の加水分解です。

次に、皮下脂肪や内臓脂肪を異常に蓄えた、できの悪い生物は横に置いといて、海洋の生産力を担う植物プランクトンの働きだけに注目しましょう。

海洋表層の植物プランクトン光合成は、海水中の炭素(CO2 由来)と栄養塩を用いて有機物を作ることにほかなりません。そのときの元素組成比は平均的に C:N:P = 106:16:1 となっています。これは、発見者の名にちなんで「レッドフィールド比 Redfield ratio」と呼ばれています。CO2有機物に固定されるとき、レッドフィールド比が保たれていれば、次式のような反応が想定されます:

左辺第一項は生体を作る有機物の1モルを表現した、あくまでも平均的な姿です。どんなプランクトンも常にこの組成だというわけではないのですが、炭水化物らしき部分とアンモニア NH3 と リン酸 H3PO4 で構成された有機化合物だと主張しています。これが第二項の酸素138モルで酸化されると、無機物ばかりで書かれた右辺、二酸化炭素 CO2、硝酸 HNO3、リン酸 H3PO4 と水 H2O になるというわけです。

念のため。この式は左に進むと光合成を、右に進むと有機物の酸化分解を、それぞれ表しています。酸素が消費されると栄養塩が生成され、酸素が生成されるときには栄養塩が消費される、というのが基本の関係なのです。

 

酸素は深層へ栄養塩は表層へ

前回の話のつづきはここからです。

海水は様々な物質を溶かしており、酸素など気体の成分も例外ではありません。酸素は大気と接触している海面から入ってきます。実際、海面付近の海水中の酸素は、ほぼ飽和状態になっています(海水に溶け込むのと大気側に抜けていくのが均衡しているということです)。冷たい水ほど気体がよく溶けるので、冬季には冷やされた海面付近の水に酸素がたっぷり補給されます。

海面付近にあった栄養塩は、有機物となって下層に運ばれ、酸化分解して栄養塩に戻るのでした。これだけだと、下層では酸素が消費される一方になってしまいそうですが、冬季に冷やされた海洋であれば、そこそこ深い層まで対流が及びます。おかげで、海面で酸素をたっぷりと溶かした水が深いところまで運ばれ、入れ替わりに、深い層から酸素が乏しく栄養塩が豊富な水が海面付近に戻ってきます。

夏季に比べて冬季の鉛直混合がどのくらい下層に及ぶのか、これまた気象庁のページからいただいた図(https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/kaikyo/knowledge/mixedlayer.html)。

表層混合層の厚さ [m] (1982年~2010年の平均)

日本周辺海域における混合層の厚さは、夏季には高々 20mですが、冬季には黒潮域で 200m以上、三陸沖でも 100m を超える海域が広がっています。日本海北部にはもっと深くまで及ぶ海域があります(日本海の深層循環についてはいずれ詳述したいと思っています)。

以上、酸素を深層に送り込み、栄養塩を表層に戻す機構がちゃんと存在する話でした。

 

次は、親潮黒潮、その違いについて。「海の恵み」の話のつづきでもあります。