alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

亜硝酸態と硝酸態の窒素の分析

徒然草 第一二七段

改めて益(やく)なきことは 改めぬをよしとするなり

 

兼好法師鎌倉時代の末期から建武の新政のころの人。新しい制度が作られたかと思うと、すぐに廃されて別の制度になる。そんな時代を生きていた。そしてこのように考えた。改めてもしょうがない、特に利益もないのなら、改めないのがよいとしたもの・・・至言ですね。

憲法改正、特に第九条の改正に熱心な人がいます。条文がそのままでも世界有数の「防衛力」を持ちさらに拡大しようとする。交戦中の国・地域でなければ武器を輸出して構わないと言い出す。そして、法律に依るのではなく閣議決定で次々と新しい制度を生み出す。こんなことまでできているのに、憲法を改正する必要が本当にあるのでしょうかね。

憲法第九十九条には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」とあります。第九十六条に憲法改正の手続きが定められている以上、国務大臣、国会議員であっても憲法改正を検討することは禁じられていない、という見解もあるとは承知していますが、そもそも自ら言い出すのは憚られる立場の人が、先頭に立って大声を上げていることは注目に値すると思います。

声がでかければ勝ち。ムリヤリ実績を作って、あとは前例に従うだけ、って、よくありますからね。

 

硝酸が先か、亜硝酸が先か

今回はいわゆる「硝酸塩(亜硝酸態窒素)」と「硝酸塩(硝酸態窒素)」の分析法について書くのですが、これらは英語では “Nitrite-N” “Nitrate-N” と表記されます。日本語では「」があるかないかの違いですが、英語では母音の文字が一つ違っています。発音をカタカナで書くと「ナイトゥライト」と「ナイトゥレート」か。では、硝酸と亜硝酸、どっちを先に書くものでしょうか?

何が言いたいかというと、「硝酸と(それよりも酸素が1コ足らない硝酸」ではなくて、単に「Nitrate-N と Nitrite-N」だってことです。日本語で「亜」が付いていれば、次ぐ、準じる・・・のような意味をもちますが、英語では異なるものが別のスペルになっているだけ(間違いやすいとは思いますけど)。

\(・_\)それは(/_・)/おいといて、ごくふつうに用いられている分析法では、硝酸塩は亜硝酸塩に還元してから測定するので、亜硝酸塩の分析法から先に紹介しようと思います。

 

亜硝酸塩 NO2-N の分析法

分析試薬の詳しい説明はなしにして、一息に書いてしまいますが・・・亜硝酸塩は、酸性の条件下でスルファニルアミドとジアゾ化反応を起こし、さらに N-1ナフチルエチレンジアミン・2塩酸塩とカップリング反応して、543nm 付近に吸収ピークをもつ赤色のアゾ色素を形成します(下図)。

ジアゾ化とかカップリングとか、高校生の化学Ⅱで習うのでしょうか~

モリブデンブルーとか、インドフェノールのブルーとか、海水の分析は何かというとブルーなのか(気持ちが沈んでしまう・・・)とお考えだったかも知れませんが、ようやく赤が出てきましたね。

この反応自体は、亜硝酸の特性反応として、19世紀にはすでに知られていたようです。海水中の亜硝酸塩 NO2-N の測定に利用された(i) のは、反応が鋭敏な上に、海水中の色々な共存塩の妨害を受けないからです。

(i) Bendschneider, K. and R. J. Robinson, 1952: A new spectrophotometric determination of nitrite in sea water. J. Mar. Res., 11, 87-96. これが海水分析への応用の最初の例であろうと思います。

 

硝酸塩 NO3-N の分析法

亜硝酸塩の分析法は、鋭敏な反応を利用していて共存塩の影響もない、大変優秀なものです。であれば、硝酸塩 NO3-N の分析への応用を考えるのは当然でしょう。なんとかして還元してやればよいのです。

とは言っても、リン酸塩・ケイ酸塩の分析でのように、アスコルビン酸を添加するのではありません。液相中の NO3 を安定した還元率で(できれば 100%) NO2 にしたい。古くから色々な手法が試みられていましたが、気象庁で採用しているのは、カドミウム-銅(Cd-Cu)還元カラム法(ii) です。カラム(筒、です)には銅でコーティングされた粒状のカドミウムが充填されていて、その隙間を液が通過するうちに NO3 → NO2 の還元が進みます。内緒ですが、カドミウムが NO3 を還元する主役であることは間違いないのですが、銅の役割はいまひとつはっきりしていないらしいです。ま、うまくいってるなら、それでいいじゃないですか。

(ii) Wood, E. D., F. A. J. Armstrong and F. A. Richards, 1967: Determination of Nitrate in Sea Water by Cadmium-Copper Reduction to Nitrite. J. Mar. Biol. Assoc. U. K. 47, 23-31.

に記載された方法がもとになっています。また、

Armstrong, F. A. J., C. R. Stearns and J. D. H. Strickland, 1967: The measurement of upwelling and subsequent biological processes by means of the TechniconTM AutoanalyzerTM and associated equipment, Deep-Sea Res., 14(3), 381–389.

に従い、塩化アンモニウムの緩衝溶液を用いてカラム内のpH変動を抑え、カドミウムの錯化剤としての機能によりカラムの寿命を延ばしています。

今は自動分析装置があるので、試料海水と試薬が細いチューブの中で混合され、発色したところをこれまた細いガラスセルを通過させるうちに吸光度を測定する仕組みですが、手分析の時代は始めにこのような作業で還元していました(イメージです)。

クロマトグラフではなくても、ここはカラムの出番です

ガラス管の中に Cd-Cu の粒子が詰まっていて、試料水をゆっくりと滴下させれば、下のビーカーに、NO3 が還元されて NO2 となった測定用の試料水が出てきます。もちろん、初めからあった NO2 はそのまま残っています。

ということで、この NO3 分析法だと、NO3 + NO2 が測定できることになります。多くの場合、硝酸態窒素 NO3-N の濃度として報告されるのは NO3 + NO2 の値です。

こうしたデータの性質を知っておくのは大切なこと。お気をつけて。