alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

希ガス・貴ガス・キサス

トリオ・ロス・パンチョスのヒット曲に「キサス・キサス・キサス」っていうのがありました。英語だと "Perhaps, Perhaps, Perhaps" です。女性にいろいろ話しかけても「たぶんね」としか応えてくれない。あはは・・・

キサスキサスキサスという競走馬は、24連勝の記録を持っていました。まったく勝てないハルウララの方が記憶に残るのはなぜでしょうか。

 

今回は、希ガス、貴ガス、不活性気体の原子における電子配置の話で手一杯。たぶんね

 

物質の分類 ・・・ 混合物と化合物、元素と原子

それはそうと、まずは基本の基、物質を分類してみましょう。

最初に「純物質」と「混合物」に分けるのがミソ

四大元素「火」「気」「水」「地」はどれ一つとして元素ではありませんでした。火には実体がなく、土は様々な鉱物に有機物までが混じったもの。空気は主要な成分だけあげても、窒素、酸素、アルゴンの混合物。水は1つの化学式 H2O の純物質でしたが、元素ではありません。

元素とは、「原子番号によって区別された1種類だけの原子からなる物質種あるいはその単体の構成要素」のことです。トリチウムの話題で出てきたはずですが、元素としては同じでも原子核中性子の数(ひいては質量数)が異なるのは「同位体」です。原子はそれを構成する粒子を気にする言葉ですが、元素はそれが持っている性質を気にしている言葉ですね。

※ 同じ元素の単体でも、構成する原子の配列や結合の仕方が異なるために異なった性質を示すことがあります。そういう単体が2種類以上存在するとき、それらを互いに「同素体」である、といいいます。「オゾン O3」と「酸素 O2」、ダイヤモンドと黒鉛(炭素 C の単体)などが同素体の関係です。

私たちは「化学式」(あるいは「分子式」)を知っており、「混合」と「化合」は違うことも習っています。しかし、そのような知識がなければどうなるでしょうか。5回にわたって空気の発見の過程を見てきましたが、フロジストンと何かとの「結合」とは現代の目でどんな状態をいうのか、分かりませんでした。上の図にある「混じっている」と、私たちの知る「化合している」との違いが認識できていない、そういう時代の世界観なのです。

 

原子の中での電子の居場所(殻 と 軌道)

元・水の分析屋さんは、高校生のとき使った化学Ⅰ、化学Ⅱの教科書を今でも大切に持っています。化学Ⅰのごくごくはじめに出てくる「化学変化は原子の組み替えによる分子の変化であって、原子自身は変化しない」という一節など、もう半世紀にもなろうとしているのに、読み返すと「はっ」とするのですよ。

原子の構造について復習しましょう。図を作るのが簡単な水素原子でご覧ください:

水素原子(イメージです)

水素原子は、陽子1つの原子核と周囲にある電子1つで構成されます。原子核は、ヘリウムだと陽子2つ中性子1つか2つ、リチウムだと陽子3つ中性子3つか4つ・・・などなどです。電子の数は原子核がもつ陽子の数に等しい(原子は電気的に中性になります)。

さて、電子が原子核の回りを飛び回っている、そのあたり全体は「電子殻」とよばれる階層構造になっています。電子が収まる場所と思っていただければよいでしょう。電子殻の概念図を示しておきます。

電子殻の名前は K から始まります

K殻から始まったのは、名付けた当時、もっと小さい殻が内側にあるかも知れないと考えて、余裕を持たせたせいだそうです(結果的にいらない余裕でしたが、困ることもないのでそのままになっています)。

それぞれの殻に入ることのできる電子の数は決まっており、その数以上の電子が一つの層に入ることはできません。各電子殻に入る電子の最大数は、K,L,M,・・・ に割り当てられる「主量子数」を n=1,2,3・・・ とすれば 2nになります(下表):

電子殻の主量子数 n と定員 2n2 

※ 電子は、殻の中で好き勝手な居場所を選ぶことができません。 特定のエネルギーをもつ軌道に入るよう制限されており、それぞれの軌道がもつ エネルギーを「エネルギー準位」と呼びます。それぞれの殻にいくつかの軌道がありますが、電子は同じところには2つまでしか入れない(パウリの排他律)とか、厳しい制限がいろいろ。細かく解説すると結構ややこしい話になりそうなので、できるだけサボります m(_ _)m。すべてはシュレジンガー方程式の解に現れているもの、ということでお許しください。

電子が電子殻に収まるときには、エネルギー準位が低い内側の殻から順に入っていくのが約束です。電子にエネルギーを与えると外側の殻に移りますが、原則、すぐに元に戻ろうとします。たくさんのエネルギーをもらった電子が原子核の束縛から抜け出して元の場所に戻れなくなると「イオン」になりますが、そのために必要なのが「イオン化エネルギー」です。いったん引き留められた人間もそうですが、電子だって原子核の束縛から逃れるのは大変なことなのであります。

「主量子数 n」を割り当てられた電子殻それぞれの中には、「方位量子数 l」と「磁気量子数 m」で定まるいくつかの軌道が存在します。こちらも表にまとめておきます:

N殻まで示しました

K, L, M, N 殻の定員が 2, 8, 18, 32 になっていることを確認しましょう。

※ それぞれの軌道の名前は、対応するスペクトル線の特徴からきているそうです。

s: sharp 鋭い, p: principal 主要な, d:diffuse 拡散した, f: fundamental 基本的な

ちなみに、元・水の分析屋さんは、s 軌道は球対称なので sphere だとばかり思っていました。まあ、f 以下はアルファベット順だといいますから、それほどのこだわりはないのかな。

 

18族元素(貴ガス)が「不活性」なのは電子配置のせい

周期表で18族の元素を縦にたどると、ヘリウム 2He, ネオン 10Ne, アルゴン 18Ar, クリプトン 36Kr, ゼノン(i) 54Xe, ラドン 86Rn  と続きます。元素記号の左下の数字が原子番号=陽子数=電子数でしたね。つまり、貴ガス原子の電子数は、 2, 10, 18, 36, 54, 86... ということです。

(i) 英語で xenon。ギリシャ語の ξένον が語源とのこと。ξ の読み方の問題で、日本ではキセノンだが、英語圏では「ゼノン /ˈzɛnɒn/」と読むようです。

さて、2He は K殻に2つの電子が収まって過不足なし。10Ne も K殻に2つ L殻に8つ、合計10個の電子が収まって過不足なしです。このように、最大限の数の電子が入っている状態の殻を「閉殻」とよびます。閉殻になっていれば、ほかの原子と電子を融通しようとはしませんから、そのままで安定、わざわざ反応はしない、というわけです。

では、18Ar はどうでしょうか。K殻に2つ L殻に8つ、ここまでは同様ですが、M殻に8つの電子、まだ10個の余裕があります。はて?

最外殻の電子数が8

Ar の場合 M殻が最も外側、最外殻になっていますが、3s軌道に2つ 3p軌道に6つで合計8個の電子が収まっており、3d軌道の10個分が空いています。次は Kr、最外殻は N殻、4s軌道に2つ 4p軌道に6つで合計8個の電子。でも、4d と 4f の軌道は空いたままです。Xe も Rn も同様です。原子の最外殻電子の数が8個あると化合物やイオンが安定に存在するという経験則(オクテット則)が古くから知られていますが、貴ガス元素にはこれがぴったり当てはまります。

貴ガス元素といえども完全に不活性というわけではなく、無理矢理に近いですが化合物が作られています。元・水の分析屋さんは、オクテット則のような経験則的なものがちょうどよい加減の知識かと考えています。

なお、内側の電子殻の方がエネルギー準位が低いか、というと、そうでもないです。

ややこしいのよ・・・量子だから

これは、水素原子のように電子が1つなら話は単純なのですが、電子が多くなってくると電子同士が反発して各軌道におけるエネルギーにずれが生じるからです。その結果、上の図のように、多電子系のエネルギー準位は 1s → 2s → 2p → 3s → 3p → 4s → 3d → 4p → 5s → 4d → 5p → 6s → 4f → …… の順に高くなっています。

 

次回はもう少し楽をしてみたい。