alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

化学の試験は単純な四則演算 (2)

前回、SI 基本単位のうち物質量を表す モル mol の定義について書きましたので、そのほかの単位についても紹介しておきます(モルの定義も含めて、改訂文書からの拙訳です)。

○ 秒(記号 s)は時間の単位である。それは、単位 Hz (s-1 に等しい)による表現で、固定された数値であるセシウム周波数、すなわちセシウム133原子の基底状態の2つの超微細構造遷移に対応する放射の周波数 ΔνCs を 9 192 631 770 とすることによって定義される。

※ まず、セシウム133原子のある放射の周波数を定数にして、逆数の関係から時間の単位 秒 s を定義。

○ メートル(記号 m) は長さの単位である。それは、単位 m s-1 による表現で(i)、固定された数値である真空中の光速度 c を 299 792 458 とすることによって定義される。

(i) 先に 秒 s が定義されているので、光速度 c を仲介にして長さ m を定義できる。

○ キログラム(記号 kg)は質量の単位である。それは、単位 J s(kg m2  s-1 と等しい)による表現で(ii)、固定された数値であるプランク定数 h を 6.626 070 15×10-34 として定義される。

(ii) 先に 秒 s と 長さ m が定義されているので、プランク定数 h を仲介にして 質量 kg を定義する。

○ アンペア(記号 A) は電流の単位である。それは、単位 C(A s と同じ)による表現で(iii)、固定された数値である電気素量 e を 1.602 176 634×10-19 とすることによって定義される 。

(iii) 電気素量 e を仲介にして、電荷の単位 C(クーロン; A s と同じ)から 電流 A を定義。

ケルビン(記号 K) は熱力学温度の単位である。それは、単位 J K-1(kg m2  s-2  K-1  と同じ)による表現で(iv)、固定された数値であるボルツマン定数 k を 1.380 649×10-23 とすることによって定義される。

(iv) 秒 s、メートル m、キログラム kg がすでに定義されており、ボルツマン定数 k を仲介にして熱力学温度 K を定義。

まず「秒」を定義して、「メートル」、「キログラム」、「アンペア」、「ケルビン」と進んでいます。新たな単位の定義には、元・水の分析屋さん世代が誤差をもつ数値として学んだもの(ΔνCs , c, h, e, k)が、固定された数値、すなわち、誤差のない定数となって登場しています。

物質量の「モル mol」も固定された数値、アヴォガドロ数 NA  によって定義されていましたね。SI基本単位はすべて、曖昧さをもたない定数をもとに再定義されたわけです。この先、微細な長さやごく短い時間の測定技術がどんなに進歩しても、何らの影響を受けることがない仕組みになった、ここが重要です。私たちの日常生活はもとより、学ぼうとする学問にも何の影響も及ぼしませんからね。

なお、もう一つ残っている「光度の単位 カンデラ cd」については、元・水の分析屋さんの話で登場する機会はほとんどないと思いますので省略してまぁす

 

今回は、「気体元素は2原子分子」である理由から。

 

貴ガスではないが「閉殻」や「オクテット」を目指す

先日、貴ガス元素の原子の最外殻電子は、閉殻を作っているか、8コである(オクテット則)、ということを書きました。閉殻かオクテットであれば、ほかの原子と電子を融通する必要がないので反応しない(=不活性)のでした。

さて、原子間の結合のうち、原子が最外殻にある電子(しばしば「価電子」とよばれます)を互いに共有し合ってできる結合を共有結合といいます。電子を共有する、という状況を実例で説明しましょう。まずは、気体の元素の分子は2コの原子からなる、だったので、水素 H2、酸素 O2、窒素  N2 などの様子をみましょう:

最外殻の電子が閉殻かオクテットになるように・・・

元・水の分析屋さんは、電子に色があるなら黒にしたいのですが、ここは図の見栄えを気にして、赤と青を使いました。

水素原子は K殻に1つの電子。水素分子 H2 を作るとき、2つの原子が K殻の電子を共有することで、どちらの原子も K殻に2コの電子がある、閉殻の状態になります。1つずつ電子を出し合うので「単結合」といいます(一重 いちじゅう 結合とはいいません)。

酸素原子は K殻は2コの電子で埋まっており、L殻に6コの電子があります。もっと詳しく書くと(12/8 に示した表を見てくださいね)、L殻の 2s 軌道に2コ、2p 軌道に4コ。2p 軌道は定員6なので2つ空きがあります。酸素分子 O2 を作ると、2つの原子が L殻の電子を2コずつ出し合って共有します(上の図だと2つの O の間にある赤と青2コずつの電子を共有するわけ)。これでどちらの原子から見ても、 L殻に8コの電子があるオクテットです。2つずつ電子を出し合うので「二重結合」といいます(やはり二重 ふたえ 結合ではないです!)。

窒素原子は酸素よりも1つ電子が少ないので、L殻の電子は5コ。窒素分子 N2 を作るときには、2つの原子が L殻の電子を3コずつ出し合って共有して(上の図で2つの N の間にある赤と青3コずつの電子)、L殻に8コの電子があるオクテットです。3つずつの電子を出し合う「三重 さんじゅう 結合」。もちろん、三重県とは関係ありません。

図には示しませんでしたが、17族の「ハロゲン F, Cl, Br, I...」の場合、最外殻の電子はオクテットに1つ足らない7コですから、2つの原子から電子を1コずつ出し合って共有すれば、単結合が形成されてOKですね。

 

中・高生の試験に出てきそうな化合物ではどうか

共有結合は、高校生までに学ぶ範囲の化学ではとても重要。やはり避けて通るわけにはいきません。簡単な例をいくつか示しておきましょう:

水、メタン、二酸化炭素の分子における共有結合

水の分子は H2O。上の図で見ると直線型の分子かと思われますが、実際には、酸素原子が負の電荷を引き寄せる一方で、水素原子が正電荷同士で反発するため、折れ曲がった構造になります。水素原子の K殻の電子と、酸素原子の L殻にある電子とが共有されて、水素原子の K殻が閉殻になると同時に、酸素原子の L殻がオクテットになる仕組みです。「水」という化学物質がもつ極めて特異な物理的・化学的性質は、水分子のこういう構造に由来するといえます。

さて、ここで初登場の炭素原子 C ですが、原子番号6、窒素の1つ前ですね。L殻の電子は4コ。これは、L殻で4コ余った状態ともいえるし、オクテットになるには4コ足らない状態ともいえます。ここが炭素のすごいところで、どちらの視点でも「価電子は4コ」ですから、共有結合を作るときに、相手に電子を提供することもあれば、相手から電子をもらうこともあるのです。

メタンの分子 CH4 は、炭素原子が 4つの水素原子から電子をもらってオクテットを実現しています。一方、二酸化炭素の分子 CO2 では、炭素原子が2つの酸素原子に2対の2つ組み電子を提供してオクテットになっています。なるほど、どちらも条件を整えないと反応しようとはしない安定な物質というわけです。

 

以上、「気体元素は2原子分子」である理由が「共有結合」であり、それが多くの場合に成立している化学結合の一様式であること、ご納得いただけたでしょうか。次回は、いわゆる未定係数法を紹介して「単純な四則演算」の話を締めようと思います。