alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

化学の試験は単純な四則演算 (3)

前回まで、元・水の分析屋さんとしては、

(1) 貴ガス元素の電子配置は、最外殻が「閉殻」か「オクテット」になっている

ことを紹介してから

(2) 「共有結合」は、複数の原子が電子を融通し合って「閉殻」や「オクテット」を作る原子の結合様式である

・・・ ということを述べようとしていましたが、意図はちゃんと伝わっていたでしょうか。

 

ちょっとばかり違う話をしますが、数学でお困りかもしれない二次式の因数分解

二次の項の係数を1にしましたが、これは「和」の形のものを「積」の形にしようとする試みです。右側は「解と係数の関係」とよばれるもの。校内の試験問題などでは、a, b と α, β は、しばしば簡単な整数の組み合わせになります(ある程度解きやすい問題を作るのが先生の腕の見せ所でもあるので)。そうすると左辺=0 の二次方程式の解が得られるぞ、と。二次式を扱ってはいても、背後にあるのは四則演算であることに気づいていただけるとうれしいです。

 

それはおいといて、今回は「未定係数法」について書きますが、その前提になる化学反応式の基本を確認しましょう。

 

分子式や化学反応式に登場する数字の意味

まず、例として 11/29 「空気の発見 (3)」で紹介した光合成の化学反応式をもう一度。

二酸化炭素と水でブドウ糖を作る反応式

化学反応式は、「(反応前の物質)→(反応後の物質)」の形になっています。上の場合、左辺が反応前の二酸化炭素 CO2 と水 H2O、→ をはさんで右辺に反応で生成するブドウ糖 C6H12O6 と水 H2O と酸素 O2 です。

左辺、右辺のどちらにも、物質の分子式が並んでいます。分子式の中にある元素記号の右下には小さな数字(C6H12O6 のような赤字)で「分子1つに含まれる各元素の原子の数」を表します(ただし、1コのときは書きません)。つまり、水 H2O の分子1つは H 2コと O 1コ でできており、ブドウ糖 C6H12O6 の分子1つは C 6コ、H 12コ、O 6コ でできている。

そして、分子式の前にある普通の大きさの数字(12H2O のような青字)は、「その分子がいくつあるかを表す係数です(こちらも、1コのときは書きません)。上の場合の右辺は C6H12O6 の分子1コ と H2O の分子6コ と O2 の分子が6コ、です。

ここで、左辺と右辺に出てきている元素に着目して、それぞれの原子数を比較しましょう。分子の数(係数)分子中の原子の数のかけ算・足し算です。

左辺:C は 6×1 = 6 コ、  H は 12×2 = 24 コ、         O は 6×2+12×1= 24 コ 

右辺:C は 1×6 = 6 コ、  H は 1×12+6×2 = 24 コ、O は 1×6+ 6×1+6×2= 24 コ

「化学変化は原子の組み替えによる分子の変化であって、原子自身は変化しない」って前に書きましたが(12/8 「希ガス・貴ガス・キサス」のどこかです)、原子の個数も反応の前後で変化しませんね。私の恩師の偉大さも不滅です(笑)。

ここまでの説明、大丈夫でしょうか。

 

「未定係数法」なんてカッコつけちゃって

確かに「」つけてますね。未定係数法は、大学生レベルの微分方程式を扱うテクニックの一つでもあるので、その名付けをありがたがってはいられないかも。

\(・_\)それは(/_・)/おいといて、せっかくですから、プロパン C3H8 でも燃やしてみますか。炭化水素を燃焼させるのだから、二酸化炭素と水ができそうですね。

「プロパン + 酸素 → 二酸化炭素 + 水」・・・それぞれの物質を分子式で書いてみるのですが、今のところ係数未定なので(知らないだけですが)とりあえず「a, b, c, d」と書いておきます(i)

それぞれの分子中の原子の数を赤字にしてみました

(i) たったこれだけのことで「未定係数」なんてカッコつけちゃったのですね。赤面してしまいそうです。

それでは係数を決定しにかかりましょう。

炭素 C に着目して 3a = c、水素 H に着目して 8a = 2d。もう一つ、酸素 O に着目して 2b = 2c+d。知らない文字が4つあるのに関係式は3つしかない・・・

青ざめるのはまだ早いです。仮に a=1 とおいちゃいましょう。これで関係式は4つ出そろいました(ii)。あとは簡単。すぐ分かるのは c=3 で、8×1=2d から d=4、すると 2b=2×3+4=10 ですから b=5 です。ということで、(a, b,  c, d) = (1, 5, 3, 4) を書き込んで反応式はこうなります:

プロパン燃焼の反応式

(ii) 係数の一つを仮に1とおくのがミソで、関係式の数に過不足がなくなります。未定の変数のうちどれかの値を仮定すれば、反応の前後に登場する物質の分子式が正しければ必ず解決できるのです。運悪く分数の係数ができてしまったら、分母が消えるようにすべての係数を定数倍すればいいですよ。

化学反応式の係数は「物質量=モル数」を示す

ところで、念のためにお知らせです。「物質量」と「質量」の区別があやふやな人はいませんか~ こんなところで躓くと、あとあとの理解に響きます。反応式の係数は物質量(モル数)の比を表しています。質量でも重さでもありません。

プロパン燃焼の反応式の係数「1, 5, 3, 4」はモル数の比。では、分子量(1モルあたりのグラム数)を考えてみましょう。どこかから原子量の表をもってくればいいのですが、プロパン C3H8 は 炭素 C 3コと 水素 H 8コで構成されていて、12×3+1×8 = 44 で分子量 44。酸素 O2 は 16×2 = 32、二酸化炭素 CO2 は 12+16×2 = 44、水 H2O は 1×2+16 = 18 です。以上から、

反応式の左辺(燃焼する前)の分子量の合計は、1×44 + 5×32 = 204

反応式の右辺(燃焼した後)の分子量の合計は、3×44 + 4×18 = 204

反応の前後で原子の個数が変化しないのだから、あたりまえではあるのですが、分子量の合計も変わらないのです。これが大自然の法則です。何事においても等価交換以上のことを期待してはいけませんね。

 

「未定係数法」、厳かな名前の割には見かけ倒しでした。単純な四則演算で、小学生の算数の文章題がちょっとムツカシイ言葉で書いてあるようなもの。化学の計算問題、恐れるに足らず、でした。単純な四則演算の話はここで一段落。