alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

海の恵みがもたらされる仕組み (2)

北海道新聞、10月26日の第3社会面に「処理水の放出2回目を完了」という小さな2段の記事をみつけました。処理水1回目の放出時の大騒ぎが嘘のような扱いですが、その最後に「処理水を移送するポンプのフィルターにさびが付着して目詰まりし、ポンプの圧力が一時低下。清掃で元に戻り、放出に影響はなかった」とありました。

そして10月27日、やはり第3社会面ですが「かっぱ未着用で除染」という看過できない記事。ALPSの配管清掃中の作業員が放射性物質90Sr 等)を含む廃液を浴びた顛末なのですが、昨日の記事の内容と関連があるのかないのか。その作業員は「雨がっぱを装着していなかった」というのですから、引っかからないはずないでしょう。

放射性物質を含む廃液を扱う場面で、まともな防護用の装備を身につけない人に作業させたということなら、評価する言葉がありません(*) 。それに、たとえ被ばく量が小さいとしても「陳謝した」で済ませられるものか。建設現場に置き換えると、多数の重機が稼働しているところに、ノーヘルでサンダル履きの人を入らせたようなものか。「安心安全」が耳タコになるくらい叫ばれているご時世なのに、この記事は突っ込み方がまったく足らないですね。

(*) 問題外です。放射性物質の除染作業をさせるのに、どうして防護服ではなく雨がっぱなのか。不用意な行動で被ばくすることがないように、いろいろな決まりごとがあるんですよ。取材が入らなければやりたい放題なのではないかと前から思っていましたが、当たっているんだろうな。

記者さん、会社や役所からもらったペーパーばっかりみて記事書いてちゃだめですよ。都合の悪いことが書いてあるわけはないんだから。

 

私のお怒りはごもっともですが、700文字ほど使ってしまいました。申し訳ない。昨日の続きです。

 

海で起こる対流

昨日の前振りに使った対流の話です。小学校の理科で、ビーカーの水を温める実験をしませんでしたか。当たり前のことですが、ビーカーの水を温めるときは、バーナーやホットプレートを使用して、下からあぶります。ビーカーの底に接触している水が温められて密度が小さくなって上向きに移動、上にあった水は相対的に重いため下向きに移動。対流が生じます。

大気でも同様。太陽の光で地表が温められて、その上にある空気が下から温められる。やはり対流が発生して、上昇流のところにはモコモコの雲ができます(積雲形成の詳細はとりあえず省略)

ビーカーの水、室内のストーブ、太陽光で温められた地表。対流が起こるのは水や空気が下から温められたときです。では、海洋はどうなのでしょうか。

対流の発生: ビーカーの水は下から温められて、海洋は表面から冷やされて

海洋が下から温められることはないですね。海洋における対流は、大気やビーカーの水とは対照的に、表面から冷やしてもらったとき、重い水ができて下層へと沈み込む、つまり、海面からの冷却で成層が壊されて発生します。下から温める代わりに上から冷やす。鉛直方向の温度差を作るという意味では同じことです。対流が発生すれば、流体の運動が及ぶ層全体がかき混ぜられて、水温は(より正確には密度は)一様になります。

 

表層混合層とその発達

ちょっと唐突に登場させてしまいますが、海面付近にみられる深さ方向に水温変化の少ない層を「表層混合層 surface mixed layer」といいます。表層混合層は、海面からある深さまでの海水が一様にかき混ぜられて形成されるので、水温だけでなく塩分もほぼ一定の値をとることになります(当然ですが、密度も一様です)。塩分のことをとやかく言わないのは、水温に比べて塩分のデータがかなり少ないからでしょう。まあ、図をご覧ください。

冬季と夏季の水温鉛直分布の違い(概念図)https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/kaikyo/knowledge/mixedlayer.html

気象庁の「知識・解説」のページからいただきました。

さて、太陽が照りつけて気温も高くなる春季から夏季にかけては、表層混合層の中に水温の鉛直勾配が大きな層が生じて、次第に厚さを増していきます。下層の水よりも軽い海面の水が温められると、もっと軽い水ができて、前に書きましたが成層が強化されることになるのです。上図の赤い線のように、低温の下層との温度差が拡大して、水温がほぼ一定の層の下に、深さとともに急激に水温が低下する水温躍層(thermocline, thermal layer)が現れます(i)

(i) 季節的に発達する躍層なので、季節躍層といいます。季節躍層ができる層よりも下にある水温の鉛直勾配が一年を通じてほとんど変化しない部分は主躍層といいます。

一方、太陽からの短波放射が弱くなる秋季から冬季を迎えると、気温が下がってきます。表層混合層は単にかき混ぜられるだけではなく冷却も始まるのです。こうなると対流の出番、海水は凍り始まるまでは冷えれば冷えるほど密度が大きくなり、それとともに対流もより深くまで及ぶようになります。

夏季の表層混合層は薄い。海面を出入りする熱はその薄い層の水温を変化させるので、水温の変化は敏感になります(上図a)。表層混合層が厚い冬季には、海面を出入りする熱で厚い表層混合層全体の水温を変化させることになるので、混合層全体の水温変化は比較的小さくなります(上図b)(ii)

(ii) 上の図で「a」「b」とされているところの面積は等しくなっています。表層混合層の熱容量みたいなものを表していると思っていいかと。

 

冬季に冷やされた海洋は、深い層まで対流が及ぶ。今日はここまでです。