alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

海の恵みがもたらされる仕組み (1)

熱の伝わり方、三とおり。元・水の分析屋さんの世代だと、小学校4年生くらいで学習したはずですが、覚えていますか? 伝導、放射(輻射)と対流ですね。

熱が何かの物体を媒体として運ばれるのが「伝導」。物体と書いたのは、それが固体でなくてもよいからで、動かない空気や水でも伝導は起こります。ミクロには、媒体となる物質の分子・原子の振動の伝播、自由電子の移動によると考えられています。

熱を伝える媒体となるものを必要としないのが「放射(輻射)」。地球と太陽の関係がよい例になりますが、エネルギーが電磁波として放出されていれば、熱源との間が真空であってもちゃんと届きます。逆に、電磁波を遮るもの(電磁波に対して透明でないもの)があるとブロックされます。

熱が空気や水のような流体の運動によって運ばれるのが「対流」。その運動は、温度差があることによって発生します。

※ 一定の形を持たず、力を加えると自在に変形する、流動性のある物質を「流体」といいます。特殊な例外はありますが、液体と気体を総称した呼び方と考えて差し支えないでしょう。

 

前置きが長くなりましたが、関連した話はあとで出てきます。

それでは、何回かかるかわからないですが、海の恵みがもたらされる仕組みの話、スタートです。

 

植物プランクトンと栄養塩

地球の表面の7割は海。耕すこともできないし、工場を建てるわけにもいきません。人間が直接何かを生産するには向いていない場所です。しかし、海はいろいろな生物(特に植物プランクトン)を成長させる栄養分をもっています。陸上で農業で用いる肥料は「窒素、リン酸、カリウム」ですが、海水にはカリウムがたっぷり溶けています(i)。そこでカリウムはやめといて、窒素、リン酸にケイ藻(植物プランクトン)が必要とする「ケイ素」を加えて、それらの化合物を「栄養塩」とよんでいます。この栄養塩が支える海洋の「生産力」、ザックリ言うと、植物プランクトンの活動が海の恵みの大本なのです。

(i) 9月28日の海水の化学組成の説明を参照。アルカリ金属やアルカリ土類は特にたくさん溶けています。

栄養の循環=水産資源の回復

世界中で必要とされる動物性たんぱく質の 17% は魚介類で供給されています(ii)。海のもたらす恵みは、比較的浅いところ、太陽の光が届く層(有光層といいます)で活動する生物に由来していると言えます。また、大気中の酸素のおよそ半分は、海の植物プランクトン光合成で作られたもの(大気-海洋間での交換はもちろんありますが)。海洋は陸上生物にとっても大きな酸素供給源なのです。

(ii) 令和元年度「水産白書」から拾った情報です。

 

海洋表層から下層への栄養塩の輸送

海洋表層にいる生物は一年中同じように活動するわけではありません。冬季間は水温が低いため休眠状態に近いのですが、春先に水温が上がってくると、まず、植物プランクトンが爆発的に成長を始めます(ブルーミング、といいます)。光合成を行うことにより体をつくるのですが、海水中に溶けている栄養塩を使い尽くしてしまうほどです。そこから植物プランクトンが動物プランクトンに食べられ、動物プランクトンが小魚に食べられ、小魚がもっと大型の魚のえさになって・・・といった食物連鎖が発生して、魚介類も大きく育つわけです。で、私たちのエサになる。

海の生物が育ったあとはどうなるか。栄養塩を使い尽くすと植物プランクトンは暮らせなくなります。そのほかの生物も食べたら排泄するし、やがては死んでゆきます。糞や死骸はゆっくりと深層へと沈降し、その途中で海水に溶けている酸素を消費して分解されます。有機物が酸化分解して、無機物の栄養塩に戻る。陸の生物は土に帰ると表現されますが、海の生物は水に帰るということです。

こうして海面付近にあった栄養塩は、一時的に生物の体を構成したために下層へと運ばれてしまいます。この結果、浅いところは栄養分が乏しい、陸地で言えば「やせた土地」の状態になってしまうのです。

しかし、次の春が来ると、有光層でまた生物活動が始まります。それは、栄養塩が冬のうちに下層から海面付近に戻ってくるからなのですが・・・

 

次回はそのカラクリの解説。