10月17日は神嘗祭。今年収穫された新穀を最初に天照大御神にささげて、五穀豊穣の御恵みに感謝。よき収穫の秋でありますように。
さて、地球システムが蓄えている熱エネルギーの大半を海洋が引き受けていることはすでに紹介しました。今日は熱エネルギー蓄積による水温上昇で生じる海面水位の上昇などの話題。「上昇」がたくさん出てきますが、おめでたい話ではないです。
ここまでの海面水位の上昇
地上には 1.4×109 km3 の水があり、その 96.5% は海水。一方、地球の半径 約6400 km に対して海洋の平均深度は 3.7 km。莫大な体積をもつ海ですが、地球の大きさに対しては薄っぺらい。容易に全体が暖められてしまうのも当然かもしれません・・・暖まれば熱膨張ですね。物体を暖めると熱膨張によって体積が増加します。海水だって物体です。水温の 1℃にも満たない上昇であっても、体積の増加は無視できないのではないでしょうか。
AR5 の時点で把握されていた海面水位の上昇を確認しておきます。すでに、海面水位上昇のおよそ3分の1は、海洋表層 700 m の昇温による熱膨張で説明できる、と評価されていました。
※ 図を貼り付けたあとで気づきましたが、「全休」ではなくて「全球」、地球全体の誤りでした。休んでばかりではいけません。テヘペロです。
海面水位偏差の 0 と2000年時点の値、1900年と2000年にオレンジの破線を入れてみました(少しは見えやすいでしょうか)。海面水位偏差を推定したいくつかの成果を重ね合わせたものですが、ざっとみて20世紀の間に海面水位は 17 cm 上昇していました。平均すると年あたり 1.7 mm というペースです。海面水位が 1.7 mm 上がったところで、波の高さなどに比べれば無視できそうな気がします。しかし、1世紀にわたって積み重なった 17 cm は、さすがに大きな変化です。東京湾や伊勢湾、大阪湾などにはゼロメートル地帯があります。海面水位の 17 cm の違いは、恐怖感をおぼえることさえあるでしょう。
では、もっと新しい情報。1971年から2018年までの海面水位の変化の図(AR6 より)をご覧ください。
※ 各要素の合計が破線に届いておらず、過小評価されているところがあるかもしれないのですが、右側のピンクとグレーの帯で示された誤差の範囲で一致している、と読むものでしょう。
海に熱が入ると海水の熱膨張をもたらし、大気や陸面が暖められると陸上の氷の融解が進みます。陸地、すなわち、海面よりも高い場所にある雪氷が融解して海洋に入ると、海面水位を上昇させますが、海に浮かんでいる海氷が融解しても海面水位の変化には関係しないことにご注意(*)。海面水位の上昇への寄与率をみると、海水の熱膨張が 50% ほど(青いところ)、雪氷(グレー系のところで、氷河・氷床など)の融解が 42% ほど。この二つの要因が大きいようです。
(*) 水に浮かんだ氷の重さは、水面下にある部分の水の重さと同じ。なので、溶けてしまえば同体積の水に戻ります。アルキメデスの原理です。
とてもイイカゲンで恐縮なのですが、海水の熱膨張の影響を見積もってみます(よい子はまねをしないでね~)。底面が 1 m×1 m の正方形で高さ 2000 m の水の柱を考えます。水温 1 ℃の上昇で体積が 0.01% 増えると仮定すると、熱膨張による水位上昇は、2000 [m]× 0.01/100 = 0.2 [m] → 20 cm くらい。上のグラフの右端、2018年時点でおおよそ 50 mm (5 cm)が海洋の寄与した部分のようですから、4分の1℃(0.25 ℃)くらいの水温上昇でだいたい話が合います。この海面水位の上昇、二酸化炭素濃度の増大にともなう温暖化の影響としては驚くにはあたりません、というレベルなのでしょう。
実際には、海水の熱膨張率は低温だと小さくて高温になるほど大きくなります。2000 m の水の柱が一様に暖められる話にもムリがあります。熱膨張の寄与は表層の暖かい海水で大きく、深層の冷たい水では小さいはずです。そこはまあ、割り引いて考えていただき、イイカゲンでも概略の理解の役に立つということでお許しいただければ幸いに存じます。
この先の海面水位の上昇
驚くにはあたりませんとはいいましたが、海面水位はこれまで着実に、しかも急速に上昇してきています。やはり驚いたのだと思いますが、二酸化炭素の排出を抑制し、産業革命以降の気温上昇を 1.5℃ にとどめようという目標もたてたはずです・・・さて、この先はどうなるでしょう。今後の海面水位の上昇をいろいろなシナリオでシミュレーションした結果がこちら。
21世紀末の時点で、非常に排出が低い1.5℃のシナリオで約 50cm、非常に高いシナリオだとおよそ 1 m の上昇が見込まれています。図中に説明を加筆しましたが、氷河・氷床などの融解だけでなく、南極氷床が不安定化して崩壊する(南極大陸縁辺部の氷が緩んで海になだれ込んでくる)という、ショッキングなシナリオもあって、21世紀末には 1.5 m の上昇とみています。さらに、縦長の図なのでここには掲げませんが、2300年には、2℃ を目指した抑制的な排出シナリオで 0.5~3 m、非常に高い排出のシナリオだと2~7m上昇、南極氷床が本格的に崩壊すると 15 m の上昇も予測されています。
AR6 は次のように述べています:長期的には、海洋深層の温暖化と氷床の融解が続くため、海面水位は数百年から数千年にわたり上昇することは避けられず、数千年にわたって上昇したままの状態にとどまる(確信度が高い)。
地球が長い長い地質時代を経て地下に閉じ込めた炭素を、ほんの300年のうちに掘り返して燃焼させて大気中に解き放った人類。数千年にわたって継続する海面水位の上昇を招いて当然といえば当然でしょう。地球の環境を少しでもマシな状態で次世代に引き継ぐ。私たちの世代は、ある意味「倫理観」を試されているのだとも思います。
次回は、海洋の貧酸素化について書きましょう。