alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

地球温暖化、深く静かに進行中

吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ(*) 文屋康秀

百人一首の22番、「ふ」と聞こえたらすぐ取らなくてはいけない札。発達中の低気圧が二つ、北海道付近でグルグル回りしています。朝から断続的に雨が降り、風も最大瞬間風速で 20 m/s を超える大荒れ。これは引きこもるに限ります。

(*) 古今集、秋下。「あらし」を「山」の下に「風」という文字で解き、秋の草木を「荒らし」てしまうというダジャレ作品です。

 

さて、これから何回か、地球温暖化をめぐる話題を続けます。

 

まずは気温と海水温の上昇から

地球温暖化は、人為起源の物質によって温室効果が過剰になった結果、地球全体に生じた長期的な温度上昇(あるいは熱エネルギーの蓄積)のことです。地球全体の長期的な現象をいうことばなので、たとえば「2023年は21世紀になって最も暑い一年であった」としても、それ単独では地球温暖化に直接結びつきません。また、気温の上昇が大きく取り上げられるのは仕方ないですが、海水温も世界中の海で長期的に上昇していることをお忘れないように願います。

では、気象庁提供で世界の平均気温偏差のグラフを。

世界の年平均気温偏差の上昇傾向 (青線は5年の移動平均

※ 世界中の気温の変化傾向を把握できればよいので、気温そのものを平均するのではなく、観測地点ごとに平年値との差(偏差)をとってから平均して評価します。

一定ペースで上昇するどころか、1940年代から70年台にかけてなど、若干下降気味にさえ見えます。でも、20世紀初頭よりもここ数年の気温は1℃ほど高い(100年あたり0.74℃上昇)。これは間違いないところです。

続いて、忘れてはいけない海のこと、地球全体の海面水温平年差のグラフを。

地球全体の海面水温平年差の上昇傾向 (青線は5年の移動平均

これも気象庁提供。作成したソフトの違いなのか、グラフの体裁がそろっていないのはご愛敬でしょうか。それはさておき、気温と同様、横ばいか若干下降しているところはありますが、20世紀初頭から見ると100年あたり0.60℃の上昇です。

まだ水の分析屋さんに「元」が付かなかった頃(21世紀に入ってすぐ)、世界平均の気温上昇が数年にわたって横ばいになり、専門家の間でも停滞を意味する「ハイエイタス Hiatus」という用語が飛び交ったものです。「100年で1℃とかの長期変化をみているのに、ほんの2-3年のことで大騒ぎしないでください」とか内心ドキドキで言っていたら、やはり高温の年が続けてやってきました。地球温暖化の情報提供にも関わっていた身としては、安堵の胸をなで下ろしたものです。

結論としては、地球全体で、長期的にみて、気温も水温も上昇しています。地球は熱エネルギーを蓄積しているのです。地球が太陽から受け取るエネルギーと、宇宙空間に放出するエネルギーとが釣り合っていれば、地球全体の温度は一定に保たれるはずですから、放出が下回っていることになります。

 

熱エネルギーの蓄積 ― IPCC の評価報告書から

気候の変化や地球温暖化の話題に興味をお持ちの方は、IPCC という名称をご存じのはずです。IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change) は日本語で「気候変動に関する政府間パネル」。「気候変動」よりも「気候変化」の方がよかった・・・という話はさておき、IPCC 最新の第6次評価報告書(AR6)などをざざっと見て、地球というシステムがどれだけの熱エネルギーを蓄えてきたかを示すグラフをみつけました(和訳してあります)。

海洋の貯熱量は莫大 (右のオマケは命数法の知識)

AR6 の見積もりでは、1971~2018年の間に地球全体に蓄えられたエネルギーは 324.5~545.3 ZJ(**) の範囲にあります(グラフ右側のピンクの帯、中間値は 434.9 ZJ)。そのうちのなんと91%が海洋に入って、海面から700m深までの表層が 56%、700m以深の深層が28%を引き受けています。さらに、2000m以深の深層にも 7%入っていると評価されています。他方、陸域は 5%、雪氷 3%で、大気は1.3%しか引き受けていません(AR6 WG1 Chapter 7, Table 7.1)。それなのに気温は海面水温と同程度かやや大きい上昇率を見せていますね。

(**) 単位の ZJ は「ゼタ・ジュール」。Z はオマケの命数法にある 1021 を表す接頭語です。「ギガ G」や「テラ T」は「バイト」とつながっておなじみかもしれません。それに「テラ」は 1012 で1兆。これはキリがよくて覚えやすいでしょう。日本語は4桁区切りですが、国際的に通用するのは3桁区切り。P, E, Z は「ペタ」「エクサ」「ゼタ(再出)」と読む。さすがに、こんな大きい数値になるとまったくイメージが沸かないせいか、もひとつ上の Y の読み方は「与太」、もとい、「ヨタ」です。はい、与太話はここまで。

 

ということで、先ほどは海面だけの水温上昇を見たわけですが、地球温暖化は海面よりも下で、深く静かに進行しております。見えないところにも注意を払っておく必要があります。

 

次回は、海は暖まりにくく冷めにくい話から。