alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

父の恩は山よりも高く 母の徳は海よりも深し

アジア大会に引きずられた結果、二日間休んでしまいました。勝手ながら、カレンダーに引きずられて休むのではなく、いつ休んでもいいつもりで気楽に続けていきます。このブログ、の話が多いこともありますので、読んでおられる皆様におかれましてはご容のほどよろしくお願いいたします。

 

今回は、海が地球の面積の7割を占めること、海は広くて深いことなど書いてみたいと思います。

 

大西洋中心の世界地図と大陸移動

日本で使われる世界地図は太平洋を真ん中にしていますが、これは日本が見えやすいからでしょう。大西洋(ただしくは経度0度の標準子午線)を真ん中にしたものをひとつ(wikimedia commons から)。

これは、モルワイデ図法のはずですが、これなら東アジアの国々がヨーロッパからみて「極東 Far East」であることがわかりやすいですね。

それはさておき、大西洋をはさんだ南北アメリカ大陸とアフリカからヨーロッパにかけての海岸線の形がよく一致することが観察できます。これは、ウェゲナーが大陸移動説を考えついた一つのきっかけだとされています。

ウェゲナーの示した大陸分裂の過程(これはハンメル図法か・・・)

ところで、パンゲア大陸の裏側は全部海だったはずですね。

 

陸半球と水半球

今の地球でも陸地と海洋のバランスはかなり偏っています。地球を大円で二つの半球に区切って、陸地の含まれる割合がもっとも高くなる半球を陸半球、その反対側に当たる海洋の割合がもっとも高くなる半球を水半球といいます。

正射図法による「りくはんきゅう」と「すいはんきゅう」

世界中の陸地の 84%を占める陸半球、パンゲア大陸の名残を感じさせる姿ですが、陸地と海洋の面積比は 49:51 で、これでも海の方が広いです。他方で、水半球の9割近くは海洋ですから、なるほど海は広いですね。

もうひとつ、理科年表のデータから、地球の表面を緯度10度ごとに区切った陸地と海洋の面積をグラフ化したらこんな感じになりました。

縦軸の面積は、陸地をプラス、海洋をマイナスにしています

北半球では陸地 39.4%に対して海洋 60.6%。南半球では陸地は19.0%にすぎず、海洋が 81.0% を占めています。南半球には南極大陸があるものの、陸地は北半球側に偏って存在しています。やはり圧倒的に広いのは海洋。特に、南緯 50~60度の範囲がほぼ全部が海であることに注目したいです。南極大陸の周りのこの緯度帯だけは、陸に邪魔されることなく、すべての子午線を横切る海洋循環を作ることができます。これが南極周極流(あるいは南極環流)です。

大陸移動説に戻りますが、およそ3300万年前に南極大陸から南米大陸オーストラリア大陸が完全に離れて、南極の周りが海になったとされます。それに伴って形成された南極周極流があるため、南極大陸はいわゆる「暖流」からは遮られています。氷に閉ざされる大陸を作る一大要因であることは間違いないでしょう。

 

海は埋め立てることができないくらい広くて深い

地球全体の「面積高度比曲線 Hypsometric Curve」を示します。

左半分は高度/深度別の面積比。右半分がその値を積算した面積高度比曲線。

左半分に高度/深度ごとの面積比が示されています。陸地=29.2%、海洋=70.8% と書き込まれたとおり、地球表面の7割ほどは海洋です。陸地は高度が高いほど面積比が小さくなりますが(その 29.2% のうちの 20%以上を高度 1000 mまでで稼いでいる)、海洋は 1000~2000 m の面積比が小さくて、3000m 以深の深海底の面積比が大きいのが特徴的です。

右半分には世界最高峰のエベレスト山(この図では 8,850 m)から下向きにマリアナ海溝最深部(11,022 m)まで、その面積比を積算した曲線=面積高度比曲線が描かれています。陸地の縁から比較的緩やかに面積が増大している部分は大陸縁辺部(continental margin)で、いわゆる大陸棚はここに含まれます。海溝部の面積はさすがに小さい。

さて、陸地だけの平均高度は 840 m。一方、海洋だけの平均深度は 3729 m。ということは、全海洋を埋め立てるには、今ある陸地の 4.5 倍が必要です・・・ではなかった、昭和30年代生まれの私たちは学校でこんな話を聞かされたものです、って話をするのでした。曰く「父の恩は山よりも高く 母の徳は海よりも深し」(*)(「母の恩」という先生が多かったか)。上の図を確認しながら、なるほど、父の恩よりも母の恩の方が 4.5倍もありがたいのか(笑)。昭和の時代には平気で語れたことでしたが、今日的にはジェンダーの問題なども含めてまずいかもしれません。

 

(*) 鎌倉時代に成立して明治中頃まで道徳教育に使われていた「童子教 どうじきょう」の教えの変形です。原文には「父恩者高山 須弥山尚下 母徳者深海 滄溟海還浅」で、父の恩は山よりも高く 須弥山(シュミセン)尚(なお)下(ひく)し 母の徳は海よりも深く 滄溟海(ソウメイカイ)還(かえ)って浅し とあります。世界の中心にそびえる想像上の須弥山でさえ父の恩よりは低い、青々とした大海原でさえ母の徳よりは浅い。なかなかの誇張表現であります。

なお、童子教には、「口是禍之門 舌是禍之根」 口はこれ禍(わざわい)の門(かど) 舌はこれ禍の根 など、どこかから引用された教訓・名言も満載です。お読みになって損はないと思います。

 

次回は、もうすぐ二回目の放出が始まるという処理水(トリチウム水)の放射能について書きます。