alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

海水は0度では凍らない

中秋の名月ですね。満月(望)の日と一致する名月はしばらくないらしいので、何はともあれ、月を愛でつつ一杯やりましょう(う~ん、全然理由になっていませんね~)。

 

今回は海水の物性、特に、密度と凝固点(融点)について書きます。

 

海水の密度は水温、塩分と圧力で決まる

水 1m3 の質量はおよそ 1トン = 1000 kg ・・・ 水の密度はおおよそ 1000 kg m-3 です。もちろん、水の密度は水温によって変化しますし、特に、海水の場合は塩分によっても変化します。さらに、通常経験することはないでしょうが、深海などで大きな圧力がかかると密度は大きくなります。密度 ρ は水温 t、塩分 S、圧力 P の関数なのです。ただし、大気圧がかかっている海面で P=0 とします。

さて、海洋学では、密度の差が強調されるように ρ から 1000 を引いた値 σt を使うのがふつうです。外洋域でふつうにみかける海水なら ρ が 1020~1040 くらいの範囲に収まるので、 σt も 20~40 くらいですが、塩分が 0 に近ければ ρ が 1000 に近いので σt の値はマイナスになることもあります(そういうときは淡水として扱いましょう)。 

横軸に水温 t、縦軸に塩分 S をとって、 σt の値で等密度線を引いた図がこちら。左は塩分 32~35、右は塩分 0~3 の範囲で、とりあえず P=0 です。

右図は状態方程式の適用範囲から外れており若干不正確です

塩分 0 (純水)でも水温 0℃ 以下まで当密度線が伸びていて(そこは氷じゃないのか~ぃ)恐縮ですが、純水はほぼ4℃で密度が最大( σt =0 の緑の線に注目)になり、塩分が増えるにつれて密度が最大になる水温が下がっていく傾向(赤い破線)がわかります。水温が 0℃ に近づくと再び密度は小さくなる、簡単に言うと、凍る寸前に水は軽くなるのです。

一方、左図に示すふつうの海水の塩分の範囲では、水温の低下とともに密度が増大します。凍るまで重くなり続ける、ということですね。

 

塩分が高いほど凍りにくい

こちら、塩分が 0~40 超の範囲にある水の凍り始める温度と最大密度になる温度の関係を示したグラフです。

Wikimedia Commons でみつけた図にいろいろと書き込みました

水が凍り始める温度 tf は塩分の増大とともに下がっていきます。これは海水に限ったことではなく、溶液一般にいえることです。溶けている物質の種類によらず、そのモル数に比例して凝固点が下がる現象です。したがって、黒い実線よりも上の緑色の領域は液体の水。下の水色になった領域は固体=氷で、冷やすほど密度は大きくなります。

一方、傾きの大きい赤紫の実線は密度が最大になる温度 tdmax を示しています。この線よりも右側(明るい緑)の領域では温度が下がるとともに密度が増大しますが、左側(やや暗い緑)の領域では、温度が下がるとともに密度が減少します。

黒と赤紫の線の交点は、密度最大の状態で凍り始めるところ。つまり、塩分 24.70 の水は -1.332℃ で凍り始めます。そして、塩分が 24.70 以下の水は、先ほど書いたとおり、凍る寸前にちょっとだけ軽くなるのです。もしも淡水が凍るまで重くなり続けるようだと、淡水の湖沼は水底から凍り始めることになってしまいます。フナたちが水底で冬眠できるのは、低塩分の水が凍る寸前に軽くなるという性質のおかげ。

なお、日本周辺の海水にありがちな塩分は 32~35 くらいなので、上の図からおおむね -1.8℃で凍り始める、と考えてよさそうです。ただ、海水は凍る時に水だけで氷を作ろうとするので、周りの塩分を上昇させてしまいます。それに、海水が凍るような冬の海で冷えた水の全体が一斉に凍るのも無理な話でしょうから、あまり精密な話はできないと思います。

 

次回は、地球の面積の7割は海、などの話題を取り上げようと思います。