alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

ウソやで・・・

4月1日でございます。だからっていうことでもないのですが、ウソくさい話をいくつか紹介してみたいと思います。

 

円の面積、球の表面積の求め方

円の面積は (半径)×(半径)× 3.14、ちょっと成長すると πr2 って学校で習います。円周率を π と書くだけでエラくなったような気がしたものですが(大笑)、公式の導入でこんなことしてませんでしたか・・・

分割して並べ替えても面積は変わらない・・・

円をたくさんの扇型に切り分けて、うまいこと組み替えて並べ替えると、平行四辺形っぽく見えてきます。高さは円の半径、底辺は円周の半分になります。平行四辺形の面積公式と、円周の長さが(直径)× 3.14 だということは先に習っているはずなので、円の面積の公式が出てきますね。何しろ、元の図形を適当に分割して配置を組み替えても、面積は変わらないのですから。

じゃあ、球の表面積の公式も、同じように考えて作ってよいのではないか。今は昔、小○館の学習雑誌か何かで、赤道を固定して両極から切り裂いた地図を球体に貼り付けて、地球儀を作っちゃうオマケ(じゃなくて付録)があったと記憶していますが、地図の部分はこんな感じでしたか(球の半径を r と書きます):

赤道で8分割した図です-少し歪んでしまいます

もっと刻みを細かくすると・・・

赤道が底辺で上下に二等辺三角形が並んでいるように見える

曲線であるはずのところがだんだんと直線的に見えてきます。もっともっと刻みを細かくすれば、最終的に赤道に底辺がある、高さ πr の二等辺三角形が、無数に上下両方向に並んでいるイメージになるでしょう。ということで、十分に刻みを細かくしたときのこの図形の面積は (2πr ×πr)/2 = π2r2 となります。

おや、球の表面積の公式は S = 4πr2 のはずでしたが。

 

拡散は光速よりも速いか

理科系の皆さん、おなじみのはずの「拡散方程式」の話です。

初期条件として x=0 にクロネッカーのデルタを与えると・・・

拡散方程式の解の形はご承知でしょう。t=0 で x=0 のところにだけ物質があるとした場合、t>0 になったとたん、x のあらゆる値に対して C>0 です。拡散方程式は、物質が一瞬にして遙か彼方まで届く、と言っています。

硫酸銅溶液の拡散実験・・・数時間から1日は楽しめますよね

物質はそう簡単には動いてくれません。思いもよらぬスピードで拡散するのは、SNS 上での悪い噂話だけにしておいてください。

九州西方を北上する海流は存在するか

リマン海流」撲滅を目指している元・水の分析屋さんですが、「対馬暖流(海流)」の教科書的な説明にも大いなる不満を抱いています。

九州西方を北上する対馬暖流・・・

リマン海流でさえ黒潮と同じ太さの線で表現してあるのですから、対馬暖流だって流路をたどっていけるくらいの流れのはず・・・ですが、さてどうでしょう。

九州西方の東シナ海を北上する明瞭な流れを見たことがない(笑)

4つの海流を示した図で矢印がある場所あたりに、流速1ノット(kt)以上になる明瞭な北上流があるのを、不肖私めは見たことがありません(潮流成分は考えないで)。

 

そこら中にウソが落ちてますよ。ご用心、ご用心。

 

いま、日本海固有水は・・・

今日は3月29日。日本全国の広範囲で雨降りとなっています。わが家の庭にも「友待つ雪」が残っておりましたが、「雪の友」はもうやって来ませんでした。全部とけてしまったのです。本格的な春が来ますね~

 

日本海の Hypsometric Curve と box model への応用

前回、日本海の海洋構造の模式図を示して「上の模式図は、それぞれの水塊の重なりは正しいのですが、体積比までは表現できていません」と書いたところですが、じゃあ、体積比まで表現してみせてよ、ってなりますね。

日本海の「面積高度比曲線 Hypsometric Curve」(2023/10/02 の記事参照) は、ちょっと特殊な感じなので、元・水の分析屋さんは変なことを試みました。まずは、色々な海の Hypsometric Curve(i) をご覧あれ:

極東域の縁海の中でも日本海は変わり者のようです

(i) 引っ越しを繰り返す内に文献のコピーを失ってしまいましたが、元ネタは Menard, H. W., and S. M. Smith, Hypsometry of Ocean Basin Provinces, J. Geophys. Res., 71, 4305–4325, 1966.

 

いわゆる 大洋 Ocean では、深さ 3000~6000m のところで面積が急に増えます。太平洋、大西洋、インド洋のグラフを横方向に拡大すれば、全海洋とほぼ相似形であることが見て取れます。一方、極東域の4つの縁海 Marginal seas のグラフは、相似形とは言いがたい。特に、日本海陸棚とみられる深さ200mあたりから先は底まで一直線に増加しています。どうしてこうなったのか、地質時代にさかのぼって日本海の形成過程を眺めてみたいです。

さて、\(・_\)それは(/_・)/おいといて、上のことを踏まえると、日本海の模式図は次のように作ってもよいはずです:

側面をさっきのグラフの形にした立体です

日本海の面積は S=1.0×106 km2 (100万平方キロ)、容積は V=1.7×106 km3 (170万立方キロ)。仮に、750mまでを(200mまでの表層水と併せて)体積 V1 の上部固有水、1500mまでを体積 V2 深層水、それ以深を体積 3の底層水とします。すると、グラフの形状から上下の長方形の面積と層の厚さが分かるので、それぞれの box の体積が計算できます。結果、Hypsometric Curve が「イイカゲン」な割には、そこそこツジツマの合うモデルになっております。

表層が青と赤に二分されているのは、極前線よりも北の面積比 r の海域で冷やされた水が沈降して下層に潜り込む、という仕掛けの表現です。面積比 1-r の赤い海域は、表層水が通過して入れ替わるだけ、と考えましょう。それぞれの box の間での水の交換率を適宜仮定して、物質の濃度変化を計算するのは、Excel 上でもできる簡単な作業です。元・水の分析屋さんはもう頑張る気力がないので、興味をお持ちの方がおられましたら、この box model をご自由にお使いください(元データとして Menard and Smith, 1966 を引用していただくとよろしいかと)。

 

その後、対馬暖流起源の水は沈降しているのか

曲がりなりにも定期的な観測を実施してくれている気象庁、「海洋の健康診断表」(ii) からの引用です。

(ii) 日本財団の支援を受けた海洋政策研究財団による「海の健康診断」がスタートしていたところ、気象庁がよせばいいのにそっくりな名称のこの業務を始めました。こりゃまずいなと思いましたが、組織の動きは止めようもありません。始まった当時から、診断するからには何か処方箋もご用意なのでしょうね、とツッコまれておりましたが、気象庁は気候変動への対策を提起する立場にはないらしい・・・

「気候・数か月から十年規模の変動に関する診断」の中に、日本海固有水についての診断があります。曰く、1990年代以降、水温は10年あたり 0.02℃ のペースで上昇しており、溶存酸素量は10年あたり 7~8 µmol kg-1 の割合で減少しているとのこと。図をご覧ください(観測点ごとに縦軸がずれていることに注意):

2000m深の日本海固有水の水温(上)と溶存酸素量(下)の時系列

海洋深層で溶存酸素量が減少するのは、その場で有機物の分解によって酸素が消費されるからです。また、同じ層で水温が上昇傾向にあるのは、相対的に高温の上層から熱をもらっているからです(ほかには熱源がないことをご理解ください)。つまり、酸素の減少と水温の上昇は、いずれも深層にある水が表層と遮断された状態が続いていたことを示唆します。

論文でなくて・・・ですが、(独)海洋研究開発機構・熊本雄一郎さんの研究報告に理解しやすい概念図がありましたので使わせてもらいます~(何の対価もなくて申し訳ないです)。

1977~2010年の間の日本海底層水中の溶存酸素濃度変化の模式図

この報告によれば、1969年と1977年にはウラジオストック沖での海面冷却が強く、底層水が形成されるほどの沈降が起こったようです。また、炭素1414C)の観測データからは、2001年にも底層水が形成されたと考えられるそうです。

底層水形成につながるほどの沈降が起これば、右上向きの緑の矢印で示す酸素の供給が起こり、沈降が生じない年には、右下に向かう赤の矢印で示す酸素の消費が続く、というわけです。上図の右側は、1977年と2001年に2回、酸素供給イベント=新底層水形成が生じたであろうという状況を示しています。

うんうん、なるほど。気象庁の「診断」によるグラフのイメージにほぼ一致です。次の深層水・底層水の形成がなければ、日本海固有水は貧酸素化し、水温もじわっと上昇するであろうということです。深層循環を駆動する力も働きませんから、日本海もやがては、黒海のように亜表層で硫化水素がみられるような、深層が死んだ海になると考えられます。どのくらいの時間がかかるかは、ここでは考えないことにしておきます。

 

日本海の深層水はどのように形成されるのか

いま政治や戦争の話をしようとは思っていませんが、黒海の話題からです。

黒海 Black Sea の地理的位置・・・ヨーロッパとアジアの境界

ウクライナもロシアも主要な港をもっている黒海は、ボスポラス海峡マルマラ海(i)ダーダネルス海峡を経て、エーゲ海、地中海へとつながる内海。もちろん、外への通り路は限られています。ボスポラス海峡は全長約32km、幅0.5~2.5kmで、平均水深65m。ダーダネルス海峡は、全長約61km、幅1.2~6.4kmで、平均水深55mとか。二つの海峡とマルマラ海で、地中海からは二重に隔てられています。

(i) マルマラ海はトルコとヨーロッパの間にある内海。東西280㎞、南北80㎞ほどの大きさですが、最大水深は1370mもあります。塩分は、表層では 22くらいですが、海底付近では地中海に近い 38くらいだそう。

その一方で、ドナウ、ドニエストル、ドニエプル、ドンなどの大きな河川による淡水の流入が大きく、塩分は沿岸部で3~9(汽水)、表層で18前後。水深100mくらいでようやく 20程度だといいます。このため、100m深付近から下は極端な塩分躍層となっており、典型的な二層構造になっています。主として塩分の違いでできる密度差によって、低塩分の表層では黒海からマルマラ海へ、下層では海峡の浅くなった部分を乗り越える流れが駆動されます。

汽水域やその沖合に広がる表層は、栄養塩にも富んでいて、イワシの好漁場が形成されています。しかし、海面から遮断されている下層は、酸素の補給がなくほぼ無酸素の状態。200m以深では生物にとって有毒な硫化水素 H2S が急激に増加します(卵が腐敗したときの悪臭の元です)。ついでに、この硫化水素が水中の鉄と化合して硫化鉄 FeS を作り、海に黒色を与えている(だから黒い海)・・・という話もありますが、硫化鉄ができると沈殿するはずだし、200m以深のことであれば、人間が見る海面付近の色と関連付けるのはムツカシイんじゃないか/おかしいんじゃないか・・・って、元・水の分析屋さんは眉に唾をつけます。

なお、下層が無酸素状態になっているのは、何も特別なことではありません。我が国でも、オホーツク海に面する網走湖や、湖底堆積物の「年縞」で有名な三方五湖水月湖でも同様のことが起こっています。日本海だってちょっとしたことで同じ運命をたどったかも知れないのです。

 

日本海深層水は溶存酸素に富んでいる

日本海は、いずれの出入り口も浅くて狭い。外海との水の交換は表層に限られ、深層の水が外海と直接交換されることはありません。いま日本海の深層にある水は、日本海が外海から切り離されたときから存在するか、その後のどこかの時点で日本海の中で形成されたものだということになります。

日本海の海洋構造の模式図

日本海の表層水の下の層は、海底まで水温 0~1℃、塩分 34.0~34.1 でほぼ均質な「日本海固有水 Japan Sea Proper Water (JSPW)」と呼ばれる水で占められています。とはいえ、水温、塩分にはきちんと測れば検知できる差があり、「上部固有水」、「深層水」と「底層水」の三つの水塊に区分されます(ii)

(ii) 上の模式図は、それぞれの水塊の重なりは正しいのですが、体積比までは表現できていません。

日本海固有水は、シベリア大陸から吹き出す冬季の寒冷な季節風によって、日本海北西部(ウラジオストク沖、ピョートル大帝湾周辺)の表層にある水が冷却され、密度が増大して下層まで沈み込むことで形成されます。上部固有水どまりから一気に底層水形成まで、どこまで沈み込めるかは冷やされ方次第・・・

\(・_\)それは(/_・)/おいといて、海面付近にあった水には空気(したがって酸素)がたっぷりと溶け込んでいますから、冷やされて沈むのは酸素の豊かな水です。いつぞや書いたとおり、海洋深層においては、酸素が乏しいほど、栄養塩が多いほど「古い」水。日本海深層の酸素はどうでしょうか・・・

日本海は深層まで豊酸素水

とまあ、太平洋側のどこの海域よりも豊酸素です。外海との間で深層水の交換はないし、日本海が外海から切り離されて以来・・・というほどの時間を経過しているわけもない。そうです。日本海固有水は表層を離れてからそれほど経っていない、かなり新鮮な水だと言えます。

 

日本海固有水の「原料」になる水

かなり新鮮な日本海固有水、その塩分は 34.0~34.1 です。冬季の季節風で冷やされて沈降したというからには、冷やされる海域にやってくる「原料」の水の塩分は 34.0~34.1 か、それ以上でなければいけません(iii)。そのような水はどこにあるか。

(iii) 塩分は水 1kg に溶けている物質のグラム数。物質は湧き出したり消滅したりすることはないので、淡水が増えて希釈されたり、蒸発によって濃縮されたりしなければ変わらない「保存量」。あたりまえのようにいっていますが、これが議論の根拠になっています。

ちょっと古い資料ですが、舞鶴海洋気象台があって「清風丸」という観測船が季節ごとに定期観測をしていた時代のものです:

日本海の真ん中辺に設定された観測定線の水温・塩分断面図

北緯40度付近の極前線よりも南側(対馬暖流水が広がる海域)では、表層の50m深あたりに塩分 34.3 を超える極大があります。しかし、極前線よりも北の表層には、固有水よりも塩分の高い水はありません。日本海固有水の起源となる水は、対馬暖流域にある高塩分水しかないのです。

というわけで、まとめますと:

日本海対馬暖流が運ぶ高塩分水が冷やされて沈降するので、深層水もフレッシュでいられますが、黒海網走湖水月湖のように、表層が低塩分のために冷やされても十分な沈降が生じないと、深層が無酸素状態になってしまいます。日本海黒海の違いは、表層に高塩分水が流入するかどうか、だけなのかも知れないのです。

ついでですが、たとえリマン海流があったとしても、高塩分水の起源とはなり得ないので、日本海固有水の形成には何らの寄与もありません。

 

今日はここまで~

 

ミニチュア・オーシャン

「海賊王に俺はなる」だとか、「七つの海を制覇する」とか。海の男には何か夢があるらしいです。分析屋さんとして観測船に乗っていた身としては、そういう類いの夢はありませんでした。ありませんでしたが、船員の身分(海事職)でもないのに、船に乗って収入を得ていたのがちょっとした自慢になるかもしれません。行政職の職員が出張という形で乗船するので、日当と食卓料が支給される仕組み。一般人としてフェリーなどに乗ると、運賃を支払わなくてはなりませんし、食事代も自腹に決まっていますね。もちろん、仕事じゃないので寝ているだけでいいのですが。

 

ところで、「七つの海」って何を指すのでしょうか。世界中の海はつながっていますから、一つだと言えなくもない・・・

古代エジプトの人たちが海に乗り出したころは、海と言えば地中海と紅海だったでしょう。また、ヘロドトスの「歴史」には、エジプトのファラオネコ2世の命を受けたフェニキア人が、紅海から出港し、時計回りに(i) アフリカ大陸を一周して、3年目にエジプトに帰ってきたと記録されています。

(i) 紀元前600年ころといいますから、長針・短針があるような時計はない。そこは気づいているのですが、孫引きなので・・・まあ、いいじゃないですか。

そして「彼らは――余人は知らず私(ヘロドトス)には信じ難いことではあるが――リビア(ii) を航行中、いつも太陽は右手にあった、と報告した」というのです!

(ii) ここでいうリビアは、私たちの目で見るとエジプトよりも南側のアフリカ全体にあたります。

太陽が右手にあった、とは、真昼の太陽が右側に見えたという意味です。時計回りでアフリカの南端を回るときは、東から西向きに移動するから、太陽が北に見えたと言っているのです。赤道を越えて南半球に入っていればあって当然のことですが、フェニキア人は(商才に長けていたせいもあって)嘘つきだと考えられていたらしいので、北半球でしか暮らしていないヘロドトスとしては、簡単に信じることができなかったのでしょう。

いずれにしましても、フェニキア人によるアフリカ周航は、バルトロメウ・ディアス喜望峰を「発見」する2000年以上前のことです。フェニキア人は極めて優れた航海術を有していたのですね。とはいえ、 彼らが通過した「インド洋」も「大西洋」もそれとは認識されておりません。

ヨーロッパ世界と東アジアの間を帆船で行き来する時代がやってくると、航路上の 南シナ海ベンガル湾アラビア海ペルシャ湾・紅海・地中海・大西洋 が「七つの海」と呼ばれたようです。陸地からあまり遠くには離れないせいでしょうか、なかなか「インド洋」が出てきません。
そして話は急に進みますが現代です。「国際水路機関( International Hydrographic Organization; IHO)」によると 日本語の「大洋」つまり 'Ocean' は次の五つ:

大西洋 the Atlantic Ocean、 太平洋 the Pacific Ocean、インド洋 the Indian Ocean、北極海 the Arctic Ocean、南大洋(南極海) the Southern (Antarctic) Ocean

「五つの海」ではないかと心配することはありません。太平洋と大西洋を赤道で南北に分けると、合計で「七つの海」が出現する仕組みになっています。もっとも、IHO が「七つ」にこだわっているはずはありません。海図に記載するにも誤解がないように、その辺の海域を漠然とこう呼んでいる、ではなくて、きちんと領域に対応する名称を定めようとしているだけのことです。で、南極海は、南緯60度以南の海域を指しますが、これは2000年に IHO で大洋と認定する草案が採択されたものです(正式採用とはなってないはず)。

なので、お隣の国は「Japan Sea ではなくて East Sea と呼ぶべき」とかいう話を IHO で議論したいようでしたが、元・水の分析屋さんとしては、共通認識がある領域に対するほぼ定着した呼称の変更を持ち出すこと自体、まったくの場違いだと考えます。そもそも、自国の東にあるから東海・・・こんな名付け方が世界的に通用するものなのかな?

 

「大洋 Ocean」の条件を備えている日本海

縁海 Marginal Sea とは、島、列島(群島)、半島などの陸地で部分的に囲まれている ”Ocean” の一部のこと (縁 ふち =マージン margin の海)。日本海は、朝鮮半島や日本列島に囲まれている半閉鎖海域で、北太平洋縁海のひとつということになります。しかし、その半閉鎖的海域の日本海は、表層では南側から対馬暖流が流入リマン海流はおいとくとしても(私は認めませんからね~)、北部の冷水との間には前線が形成されています。そして、冬季には海面が凍結するほどに冷却されてできる高密度の水が沈降することで、深層にも独自の循環が生じていることが分かっています。

日本海、冬季の表層の様子

今年、1/15に、世界中の海をめぐる「ブロッカーのコンベアベルト」について書いたところですが、表層の循環があるだけでなく、どこかで深層水が形成されて深層循環も存在するっていうのは、大洋 Ocean ならではのことではないでしょうか。ついでに言えば、日本海の面積はほぼ 1×106 km2 なのに対して、平均深度は 1700m 以上、最大深度は 3700m もあって、太平洋(面積:1.65×108 km2、平均深度:約4000m)と比べても比率的には十分に深い。そんなわけで、日本海は「小さな大洋」=「ミニチュア・オーシャン」とも呼ばれています。

全球をめぐる「ブロッカーのコンベアベルト」が2000年程度のタイムスケールなのに対して、日本海の循環は100年くらいと推定されています。近年注目されている地球温暖化の影響が、全球の循環よりも早く現れる可能性があるのです。つまり、日本海をきちんとモニタリングしていれば、将来地球規模で起こる海洋環境の変化を、動画の倍速再生のように観察できると期待できる。

日本海は、ライバルに先駆けて成果を得るためにも、格好の観測フィールドです。そして、ここでの研究成果は、人類の将来を左右する力を持っているはずです。

 

お金目当てならみっともないだけでしょうが、科学的な調査・研究での成果に関しては「欲と二人連れ」は大いに推奨できると思います。

 

物質はなくならない

千秋庵さん、絵を拝借します!

「出てきた出てきた 山親爺~♪」のテレビCMが約26年ぶりに復活するそうです! CMソングは、札幌出身の蔦谷好位置さんがアレンジ、函館出身の YUKI さんが歌うんだって! 「故郷に錦を飾るとはこのこと。道産子の誇り、山親爺と一緒にスキーを滑ったようでうれしい」という YUKI さんのコメントも素敵です。新CM初日は18日、夕方16時台にSTVで放送されるとのこと。楽しみですね~

 

さて・・・

新聞によりますと・・・

朝日新聞社によるストーリー(3/12)から
福井県内の原発から出る使用済み核燃料について、関西電力の担当者が県議会の野党系会派への説明会で、中間貯蔵施設や青森県六ケ所村の再処理工場が稼働しなかった場合、「どこにも持って行けなくなる」などと発言していたことが分かった。使用済み核燃料の県外搬出を四半世紀にわたって求めてきた県の姿勢と逆行する形だ。

 

毎日新聞社によるストーリー(3/13)から
伊藤信太郎環境相は12日の閣議後の記者会見で、東京電力福島第1原発事故後に福島県内の除染で出た土などの廃棄物について、県外最終処分に向けた工程表を2024年度中に示す考えを示した。(中略)
環境省は最終処分する量を減らすため、放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル以下の土を公共事業などで再利用する方針を決めている。ただし、福島県外の3カ所で再利用の実証試験を計画したものの地元で反対の声が上がり、試験は進んでいない。

 

そもそも「最終処理」とは何のことなのか

使用済み核燃料も除染作業で出た土も、物質なのだから消えてなくなるわけはありません。県外で最終処分だといっても、誰かの目の前から見えなくなるだけ、別な場所に移されるだけです。わが町のゴミの処分を喜んで引き受けてくれる・・・そんな自治体あるわけないのに、県外に搬出しますから、っていう説明で原発を作って稼働させたし、中間貯蔵とかいう呼び名で当面の汚染土置き場を確保して時間稼ぎしてきたのです。

放射性物質は核種ごとに決まった割合で時間とともに減衰しますが、その半減期セシウム-137で約30年、プルトニウム-239だと約24000年です。半減期7回分の時間が経過してようやくもとの1%を下回る量(128分の1)になる・・・人生百年時代だとかいわれますが、私たちが生きている内に「フクシマ」の放射性物質がなくなることなど望むべくもありません。そう、時間稼ぎを許してはダメ。放射性物質はなくならない前提でこれからのことを考えないと。

放射線防護の三原則は、時間 time、遮へい shield、距離 distance と言われています。放射線にさらされる時間を短くする、線源との間に遮蔽物をおく、線源からできるだけ離れる、の三つです。なるほど、最終処理の場所は、大きな都市からは隔たっており、人口が多くなくて交通も盛んではない、と思います。でもね、これって原発の立地条件とほぼ同じじゃないでしょうか。

元・水の分析屋さんだけの考え方ではないはずですが、辺鄙なところに発電所を作って、電力はありがたく大都市で使わせてもらう。発生した放射性廃棄物は大都市から離れた辺鄙な土地で処分してもらう。リスクにしかならない部分は人口の少ない土地に引き受けさせて、電力使用のメリットだけ大都市にまわる。そういうふうにできている。「受益者負担」という話をよく聞かされたものですが、原子力発電に関してはリスクを背負う土地と利益(ベネフィット)に与る土地の差が際だっていると思いますがね。

 

これからを考えるために始まりを振り返る

通常運転で発生する廃棄物を、どのように処理するかの見通しもなく原子力発電所を何基も使い出そうとしたのは誰? ウランを使えばプルトニウムができることを知らなかったはずはない。福島第一事故発生時の政権党に責任をなすりつけようとする人がいるようですが、根っこはずっと前からしっかりと張っているはず。元・水の分析屋さんは、1956年に発足した科学技術庁の初代長官が誰だったか(i)、までついつい考えてしまいます。個人的には、原子力放射能がいろいろな観点から研究され、利用される時代を迎えようとしていたころ、国がその首根っこを押さえて、基本的に環境放射能の測定データさえ科技庁のお墨付きがないと公開できないようにしたと思っていますので。

(i) 元内務省官僚、講道館柔道十段、読売新聞社主。正力松太郎です。どこまで本当なのか知りませんが、自由民主党の総裁を目指したとか、渡邉恒雄中曽根康弘との連絡役だったとか、そういう話にも事欠かない人です。まあ、火のないところに煙は立たないといいます。

日本が将来にわたって核武装する気がないのであれば、プルトニウムをため込んだり作り続けたりする必要はありません。そこは明確にしていただきたいです。また、放射性廃棄物の処理場についても、確かな見通しはたっておりません。「アンダーコントロール」であったはずの事故で出た物質の処理さえ満足にできていないのですから、何をかいわんやです。さらに、海辺にある原子力発電所は、悪意ある攻撃をまったく想定していないみたいですが、仮想敵国なんかは存在する前提ですよね? こうして、原子力関係の政策はあらゆる面で、矛盾だらけ不安だらけという現状です。

しかし、一方で、すべての原子炉をすぐに廃止してしまえという話にも賛成できかねます。基礎科学に寄与する研究炉もありますし、医療、農業・工業分野で利用するための放射性物質を供給するために必要な原子炉もあります。それに、いまの状態でもアップアップしているのに、そこら中で廃炉だとなったら、簡単にパンクしてしまいます。利用価値が高くて使うべきものは大切に使い、使えるものは安全第一で正しく使い、安全性に不安が出てきたものから順次廃炉に向かう、というイメージでいきたいものです。

この先よい方向に進むには、いま、みんなが当事者意識をもってよく考え、できることから行動を始めるほかないのでは。

 

説明は不十分なままです

とにかく見ていただくのが一番だと思うので、まずはこちらから。

Nature 478, 435-436. (2011年10月27日号のオンライン特集より)

4つの図がありますが、いちばん左のパネルによると、水素爆発が起こる前から放射性物質が漏れ出していた可能性があるようです。2番目のパネルは、3/11~14 にかけて海に向かって吹く風により、放射性物質の大半は太平洋上に拡散したとみられますが、3番目のパネルで、その後風向きが変わって、放射性物質が海から押し戻されてきたそうです。この解析では東京よりも内陸側まで到達していますね

どんな風が吹いていたのか、海岸部のアメダス津波で稼働しなくなったので、エエカゲンなやり方ですが、内陸の福島地方気象台のデータ。

福島のデータですが、事故直後の風が海に向いていることは確かなようです

そういえば、水道水から放射性ヨウ素ヨウ素-131; 131I)が検出されたというニュースが流れていたような記憶が・・・あちらこちらでペットボトルの飲料水が店頭から消える事態になっていたような記憶が・・・どうして「ヨウ素剤」を飲ませないのだとか大騒ぎになっていたような記憶も・・・

それはそうと、そのころには放射性物質の濃密なプリュームが首都圏に流れ込んでいたはずですが、東京電力政府関係機関も、何も知らせてはいませんでしたね・・・箝口令が敷かれて誰も言えなかったのでしょうか・・・わざと空間線量のモニタリングなんかをやめていたのでしょうか。原子力関係の仕事を担当する文科省のある人から「パニックになってはいけないから」という言葉を聞いたことがありますが、そういうものなんでしょうか。

ちなみに、こういう事態に備えて、文部科学省放射性物質の移流・拡散を予測する数値モデル(SPEEDI)を用意しておりました。しかし、地震の影響で必要なデータが入らないとかの理由で、システムが動かせないと。その一方で、国民には知らせなくても、米軍に知らせる情報は存在したそうです。気象庁も、放射性プリュームの行方は予測できないと主張しておりました。黄砂の飛び方は技術的に予測できていたのに、どうなっていたんでしょうかね。黄砂のモデルは東洋仕様で、西洋起源の β や γ の類いは乗せられないのかな。

 

ウソではないでしょうが、よくよく選ばれたデータのようです

さて、「水素爆発が起こる前から放射性物質が漏れ出していた可能性がある」とのことでしたが、確かに貴ガスのキセノン(ゼノンと読む方がよいみたい)Xe-133 が大量に出ています。チェルノブイリの事故の倍近い量です。これは、原子炉3機が水素爆発に見舞われたせいでもあるでしょうが、それ以前から漏れていたというのなら、地震によってすでに原子炉に亀裂以上のものが生じていたのでしょう。いま、原子炉自体の耐震性が厳しく問われるようになっているのは、ひとつの有力な傍証だと思います。

それはさておき、Xe-133 の半減期は5日程度で、環境中に長くとどまることはないし、生体に吸収されることもないので、もう問題になるとは考えられません。

 

ヨウ素は体内に入ると甲状腺に蓄積されやすいことが知られています(放射性であろうとなかろうと関係ないです)。ヨウ素 I-131の物理的半減期は8日くらい。取り込んでしまうと長期とまでは言いませんが、しばらくの間は内部被曝が続きます。ただ、日本人はヨウ素に富む海藻類を食する習慣があるので、すでに甲状腺は満タンに近い。放射性ヨウ素を食しても体内に取り込む余地は少ないはずです。ヨウ素剤をほしがる必要性は乏しいと思われます。また、2ヶ月ほど経過すれば半減期が8回過ぎますから、1/28 =1/256 にまで減ってしまいます。時間が解決するレベルかも知れません。

 

ストロンチウム Sr-90 は ウラン U-235 の主要な核分裂生成物です。半減期は約29年。崩壊するときにβ線しか出さない(γ線が出ない)ので、よくあるサーヴェイメータでは見つけられません。屋外の環境では検出しにくい面があるのです。周期表から分かるように Ca の仲間で、骨に蓄積されやすいのが特徴。いったん体内(骨格)に取り込むと長期にわたって内部被曝が続くことになります。さらに、Sr-90 の娘核種のイットリウム Y-90 もβ崩壊する核種です(半減期2.67日)。しかも Sr-90 の4倍くらい高エネルギーの β線を出します(Sr-90 は 0.546 MeV、Y-90 は 2.28 MeV)。そして、上の表には Y-90 が出ていません。Sr-90 は載せてあるというのでしょうが、注意書きはありません。

 

プルトニウム Pu は有毒性の金属で、いくつか知られている同位体はどれも長半減期で α 崩壊する核種です。体内に取り込むと、そのまんまの毒性とともに長期にわたる内部被曝が・・・これ以上は書かないでおきますね。これも表には入っていないネプツニウム Np の β崩壊によって Pu が作られます(i)。現実の放出量は表に示された値よりもずいぶん大きいのです。当時の国会答弁書(2011年9月2日)によると、Np の放出量は1号機から3号機までの合計で 76 TBq(0.076 PBq)。数値をよくよく比較してくださいませ。公表された時点で気がつく人はいなかったようで残念ですが、これは書き留めておく価値があるのではないかと思っています。

(i) 原子炉内で U-238 が中性子を吸収して U-239ができ、半減期23.45分で β崩壊してネプツニウム Np-239になり、それが半減期 2.356日でβ崩壊して Pu-239になります。このプロセスは Pu の半減期に比べれば一瞬の内に生じます。あっという間にプルトニウムです。

 

もっともよく話題に上る核種は放射性セシウム Cs ではないでしょうか。福島原発の核燃料は U-235 で、Cs-137 はその核分裂生成物のなかでも Sr-90 と並んで主要なもの。Cs-134 の方は、原子炉内で Xe-133 の β崩壊によってできた Cs-133(Cs の唯一の安定同位体!)が中性子1コを吸収してできます。基本的に原子炉でしか作られないので、試料中に Cs-134 が存在すれば原子炉由来のものと断言できます。また、Cs-137との存在比(炉内ではほぼ1:1)から、半減期の違いを利用して、原子炉から外に出てからの時間経過を推定できます。

セシウムに限らず、放射性核種は半減期という時計をもっています。間違って環境中に出したものであっても、現実世界で起こっていることを知るための手がかりにすることができます。せめてもの罪滅ぼしということかも知れないですが。


福島第一から放出された Cs-134, 137 の放射能 [Bq] を比放射能 [Bq g-1; 値はweb検索でみつかるはず] で除して重量に換算すると、合計で 5kg 程度になります。セシウムの比重はおよそ 2 ですから、量的には2リットルの紙パックとコップに2-3杯分くらい。酒であれば、元・水の分析屋さんは 4-5日で飲み切る程度の量(足らないかもね)。それを東北地方~関東地方の広範囲にばらまいたわけです。その量の酒だと、初めから匂いすら問題になりませんが、放射能だとご承知のとおり。Cs-137は今でも容易に計測できるレベルで環境に残っています。
もっとも、「福島第一」のずいぶん前から、国連安全保障理事会常任理事国(ii) が核実験などによって世界中にばらまいてきた分もしっかり残っています。決してお忘れないように。

(ii) 「国際連合 United Nations」はほぼ「連合国 United Nations」のまんま。核保有国の利益が優先されるのは自然なことでしょう。

 

3.11 に関する説明は、ほとんどいたるところで不十分なままです。丁寧に説明する=同じことを繰り返す。ウソは言ってない。時間がかかるだけムダだと感じさせるまで続ける。

取材する人も、情報を発信する人も、その情報を見聞きする人も。自分もそうなんですが、何かが少しずつ足りてない、しかも決定的に足りていない。そんな気がするのですよね。

 

満干潮が1日2回でない話

今年もまた「3.11」がやってきます。最大震度7を観測した大きな揺れと、それに続く巨大津波。人間も、人間の作ったものも、ことごとく津波にのみ込まれました。私はその当日、地震発生直後から各地の潮位観測データをモニターしていました。東北地方太平洋側のグラフが次々と振り切れて、シグナルが途絶えていきます。観測しているだけでは自然災害を防ぐことはできない、あたりまえのことを改めて思い知らされ、ただただ呆然とするばかりでした・・・・・・

もうすぐ特集記事や特集番組が登場するでしょうから、その話はさておいて。

 

日本海の潮位と対馬暖流系の関係

日本海の満干潮の潮位差は小さい。それは、出入り口となっている海峡が狭い割に広がりが大きく、しかも比較的深いせいです。器の大きさに対して出入りする水の量が少ないから(i)、水位があまり変わらないのです。

(i) 日本海の面積はほぼ 1×106 km2(=1×1012 m2)なので、全体の水位を 1m 上昇させるには 1×1012 m3 の水が必要です。対馬暖流系の流量 2~3 ×106 m3 s-1 でなんとかしようとすると、だいたい 2.5×105 秒・・・3日くらいかかる勘定です。実際の満干潮の潮位差は20cmくらいですから、まあまあ、納得できる見積もりだと思います。ついでですが、日本海の平均水深は 1700m(1.7 km)くらいだから、容積は 1.7×106 km3 ですね。

 

昨年11/23の記事で、対馬暖流系は水位差で駆動されていると書きました。日本海の水位があまり変わらないのですから、津軽暖流についていえば、太平洋側が低潮のときに流出が強まり、太平洋側が高潮になると弱まるはずです。潮位の変動幅が大きくて(大潮)、海峡東口の水位が西口よりも高くなることがあれば、逆流することだってあるでしょう。津軽海峡では、ある程度の時間で平均すると津軽暖流が西から東へと通過していますが、その状況は潮汐にともなって時々刻々と変化するのです。

黒潮のような大きな循環はもちろんのこと、津軽暖流、宗谷暖流のような地域限定の流れであっても、ある程度の時間を均して観察すると、ほぼ一定の向きに流れているようなのは「海流」です。これに対して、潮の満ち干き ≒ 潮汐の波動にともなって短時間の内に変化する海水の流れを「潮流」とよびます。

なお、世間には潮流を読むのに長けた人たちが多数いて、流れに乗るためなら道徳も良識も感じさせないような行動にでます。元・水の分析屋さんも現役時代に多く見かけましたが、きっと全然泳げないから流されていたのですね。

 

「一般的な」満潮・干潮

怪しげな見出しで目を引こうとしております(笑)。前回紹介した、気象庁潮汐の仕組みの解説ページ、「地球は1日に1回自転するので、多くの場所では1日に2回の満潮と干潮を迎えることになります」な~んて書かれていますが、果たしてそんな説明でいいのでしょうか。実際には、満干潮が1日1回ずつの日があたりまえに出てきます。一例として、オホーツク海側・網走、太平洋側・浦河、日本海側・江差津軽海峡に面した函館の4地点、2022年4月21日から25日の潮位(天文潮)の変動をグラフでご覧ください。

知床観光船沈没事故前後の期間です

ご理解いただけたでしょうか。一日一回だけ高潮と低潮が現れる「一日一回潮」は決して珍しい現象ではありません。実際に数えてみましたが、網走の2022年4月、満潮・干潮が一日一回だけの日は14日ありました。おおよそ半分が一日一回潮になっているではありませんか。それなのに、詳細な潮位情報を提供している気象庁が「知識・解説」のページで「一般に満潮・干潮は1日2回ずつ」と説明してすませるのは、個人の意見ですが納得できないです。

 

まあ、\(・_\)それは(/_・)/おいといて。本日も公共放送の夕方のニュースで「満潮・干潮はごらんのとおりです」って、さらりと流されてしまった情報の話です。どうして満干潮の時刻しか見せてくれないのでしょうか。

2024年3月上旬、函館の潮位変動はこんな状況です:

気象庁のページで得たグラフと表(ちょっと加工)

4日に下弦の月を迎えて小潮の時期です。3日夜 21:08、満潮の潮位は 54cm ですが、4日 0:28 に迎えた干潮の潮位は 52cm で、満干潮の潮位差はわずか 2cm。その後の満干潮は 7:37 の 82cm と 16:03 の 27cm で、潮位差は 55cm あります。結構な違いだと思うのですが、それでも「満潮」「干潮」ってジッパヒトカラゲで済ませるのかなぁ。上のような表やグラフをテレビ画面でそのまんま見せるわけにはいかないにしても、何とか潮位も分かるような工夫がほしいと思っています。

さて、5日、6日の日付がかわるころの潮位変化にも、ちょっとした引っかかりのような「変曲点」がありますが、「極大、極小」にはなっていません。結局、満干潮が一日一回ずつになっています。くどいといわれるかも知れませんが、日本全国を見渡すと、満干潮が1日1回ずつの日はあたりまえに現れます。一日一回潮も一般によく見られる現象なのです。

 

一般に「日潮不等」はふつうのこと

日潮不等は英語で "diurnal inequality"。日周潮が等しくないこと、と読めばいいのでしょうか。一日のうちの満潮(干潮)同士の差のことをいいます。前回示した御前崎の例だと、半日ごとの満潮時の潮位はよくそろっていましたが、干潮の潮位には高低差がありました。図を再掲しますね:

再掲図です。昼と夜の干潮の潮位差が大きい。

日中よりも夜中の干潮の方が低潮位になっていますね。これも日潮不等です! では、日潮不等が生じるわけを、前回批判した平衡潮汐論に沿って説明してみましょう。

月に近い側と反対側では、起潮力の働き方が違うのです

地球は自転軸を傾けた状態で(ii) 太陽の周りを公転しています。地球から見た太陽の見かけ上の通り道(大円)を「黄道」といいます。月も地球の周りを公転しており、地球から見た月の見かけの通り道を「白道」といいます。白道黄道に対して5度くらい傾いていますが、まあ、ここでの議論に大きな影響はないです。月も太陽も、その公転面は地球の自転軸に対して傾いていることだけ主張しておきます。
(ii) 地球の赤道は公転面(天の赤道)に対して23.4° 傾いており、これは南北の回帰線の緯度に等しい。

で、月が地球の赤道面から離れているときの起潮力を考えると、上図のように、月に近い側で大きな潮位上昇が生じますが、半日後の月から離れた側での潮位上昇は小さいでしょう。こうした起潮力の働き方の違いが日潮不等をもたらすのですから、一般にあたりまえの現象であると言わないわけにはいきませんね。

そして、日潮不等が大きいとき、上で見た函館の例のように、満干潮の潮位差がほとんどなくなったり、満潮と干潮が重なり合ったりすることになります。その結果が「一日一回潮」として現れる、そんなことはふつうにある、というのがオジさんの主張です。

 

以上、あまり得意ではない領域の解説を終えることにします。