alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

満干潮が1日2回でない話

今年もまた「3.11」がやってきます。最大震度7を観測した大きな揺れと、それに続く巨大津波。人間も、人間の作ったものも、ことごとく津波にのみ込まれました。私はその当日、地震発生直後から各地の潮位観測データをモニターしていました。東北地方太平洋側のグラフが次々と振り切れて、シグナルが途絶えていきます。観測しているだけでは自然災害を防ぐことはできない、あたりまえのことを改めて思い知らされ、ただただ呆然とするばかりでした・・・・・・

もうすぐ特集記事や特集番組が登場するでしょうから、その話はさておいて。

 

日本海の潮位と対馬暖流系の関係

日本海の満干潮の潮位差は小さい。それは、出入り口となっている海峡が狭い割に広がりが大きく、しかも比較的深いせいです。器の大きさに対して出入りする水の量が少ないから(i)、水位があまり変わらないのです。

(i) 日本海の面積はほぼ 1×106 km2(=1×1012 m2)なので、全体の水位を 1m 上昇させるには 1×1012 m3 の水が必要です。対馬暖流系の流量 2~3 ×106 m3 s-1 でなんとかしようとすると、だいたい 2.5×105 秒・・・3日くらいかかる勘定です。実際の満干潮の潮位差は20cmくらいですから、まあまあ、納得できる見積もりだと思います。ついでですが、日本海の平均水深は 1700m(1.7 km)くらいだから、容積は 1.7×106 km3 ですね。

 

昨年11/23の記事で、対馬暖流系は水位差で駆動されていると書きました。日本海の水位があまり変わらないのですから、津軽暖流についていえば、太平洋側が低潮のときに流出が強まり、太平洋側が高潮になると弱まるはずです。潮位の変動幅が大きくて(大潮)、海峡東口の水位が西口よりも高くなることがあれば、逆流することだってあるでしょう。津軽海峡では、ある程度の時間で平均すると津軽暖流が西から東へと通過していますが、その状況は潮汐にともなって時々刻々と変化するのです。

黒潮のような大きな循環はもちろんのこと、津軽暖流、宗谷暖流のような地域限定の流れであっても、ある程度の時間を均して観察すると、ほぼ一定の向きに流れているようなのは「海流」です。これに対して、潮の満ち干き ≒ 潮汐の波動にともなって短時間の内に変化する海水の流れを「潮流」とよびます。

なお、世間には潮流を読むのに長けた人たちが多数いて、流れに乗るためなら道徳も良識も感じさせないような行動にでます。元・水の分析屋さんも現役時代に多く見かけましたが、きっと全然泳げないから流されていたのですね。

 

「一般的な」満潮・干潮

怪しげな見出しで目を引こうとしております(笑)。前回紹介した、気象庁潮汐の仕組みの解説ページ、「地球は1日に1回自転するので、多くの場所では1日に2回の満潮と干潮を迎えることになります」な~んて書かれていますが、果たしてそんな説明でいいのでしょうか。実際には、満干潮が1日1回ずつの日があたりまえに出てきます。一例として、オホーツク海側・網走、太平洋側・浦河、日本海側・江差津軽海峡に面した函館の4地点、2022年4月21日から25日の潮位(天文潮)の変動をグラフでご覧ください。

知床観光船沈没事故前後の期間です

ご理解いただけたでしょうか。一日一回だけ高潮と低潮が現れる「一日一回潮」は決して珍しい現象ではありません。実際に数えてみましたが、網走の2022年4月、満潮・干潮が一日一回だけの日は14日ありました。おおよそ半分が一日一回潮になっているではありませんか。それなのに、詳細な潮位情報を提供している気象庁が「知識・解説」のページで「一般に満潮・干潮は1日2回ずつ」と説明してすませるのは、個人の意見ですが納得できないです。

 

まあ、\(・_\)それは(/_・)/おいといて。本日も公共放送の夕方のニュースで「満潮・干潮はごらんのとおりです」って、さらりと流されてしまった情報の話です。どうして満干潮の時刻しか見せてくれないのでしょうか。

2024年3月上旬、函館の潮位変動はこんな状況です:

気象庁のページで得たグラフと表(ちょっと加工)

4日に下弦の月を迎えて小潮の時期です。3日夜 21:08、満潮の潮位は 54cm ですが、4日 0:28 に迎えた干潮の潮位は 52cm で、満干潮の潮位差はわずか 2cm。その後の満干潮は 7:37 の 82cm と 16:03 の 27cm で、潮位差は 55cm あります。結構な違いだと思うのですが、それでも「満潮」「干潮」ってジッパヒトカラゲで済ませるのかなぁ。上のような表やグラフをテレビ画面でそのまんま見せるわけにはいかないにしても、何とか潮位も分かるような工夫がほしいと思っています。

さて、5日、6日の日付がかわるころの潮位変化にも、ちょっとした引っかかりのような「変曲点」がありますが、「極大、極小」にはなっていません。結局、満干潮が一日一回ずつになっています。くどいといわれるかも知れませんが、日本全国を見渡すと、満干潮が1日1回ずつの日はあたりまえに現れます。一日一回潮も一般によく見られる現象なのです。

 

一般に「日潮不等」はふつうのこと

日潮不等は英語で "diurnal inequality"。日周潮が等しくないこと、と読めばいいのでしょうか。一日のうちの満潮(干潮)同士の差のことをいいます。前回示した御前崎の例だと、半日ごとの満潮時の潮位はよくそろっていましたが、干潮の潮位には高低差がありました。図を再掲しますね:

再掲図です。昼と夜の干潮の潮位差が大きい。

日中よりも夜中の干潮の方が低潮位になっていますね。これも日潮不等です! では、日潮不等が生じるわけを、前回批判した平衡潮汐論に沿って説明してみましょう。

月に近い側と反対側では、起潮力の働き方が違うのです

地球は自転軸を傾けた状態で(ii) 太陽の周りを公転しています。地球から見た太陽の見かけ上の通り道(大円)を「黄道」といいます。月も地球の周りを公転しており、地球から見た月の見かけの通り道を「白道」といいます。白道黄道に対して5度くらい傾いていますが、まあ、ここでの議論に大きな影響はないです。月も太陽も、その公転面は地球の自転軸に対して傾いていることだけ主張しておきます。
(ii) 地球の赤道は公転面(天の赤道)に対して23.4° 傾いており、これは南北の回帰線の緯度に等しい。

で、月が地球の赤道面から離れているときの起潮力を考えると、上図のように、月に近い側で大きな潮位上昇が生じますが、半日後の月から離れた側での潮位上昇は小さいでしょう。こうした起潮力の働き方の違いが日潮不等をもたらすのですから、一般にあたりまえの現象であると言わないわけにはいきませんね。

そして、日潮不等が大きいとき、上で見た函館の例のように、満干潮の潮位差がほとんどなくなったり、満潮と干潮が重なり合ったりすることになります。その結果が「一日一回潮」として現れる、そんなことはふつうにある、というのがオジさんの主張です。

 

以上、あまり得意ではない領域の解説を終えることにします。