alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

正多面体と愉快な仲間たち

選挙での票を目的に特定の団体とお付き合いするのは好ましくない・・・と書いてみましたが、どう思われますか。確かにそうだとお考えの方でも、某与党と某宗教団体との話なのか、某野党と某労働団体との話なのか、で意見が違ってくるかも知れませんね。

差別発言を連発する議員をたしなめることさえない某政党。所属党は金権選挙を批判しているのに選挙区で金品をばらまく某議員。皆様のご意見、まさか、ぐらついたりはしないでしょうね?
理屈っぽいと嫌われるかも知れませんが、「どんな〇〇についても」とか「ある××が存在して」とか、そういう考え方、それを扱う言葉は大切にしなくてはなりません・・・数学の話(ε-δ論法)でなくても、です。理屈が通じないところでは、まっとうな議論はできないですから。

 

では、正多面体の話の続きと参りましょう。

 

オイラーの多面体定理と正多面体

前回登場した正多面体は、正四面体と正八面体の二つだけでしたが、正多面体は全部で5種類あって、その5種類に限ります・・・これだけでは暗記するだけと言われそうなので、オイラーの多面体定理を使った証明をひとつ紹介しましょう。元・水の分析屋さん的には aha! があって美しい証明だと思っているものです。

 

正多面体は、すべての面が合同な正多角形でできていて、一つの頂点に集まる面の数はどの頂点でも同じです。言うまでもなくオイラーの多面体定理(V-E+F=2)は成り立っています。そこで、仮に、正多面体の面が正 n 角形で、各頂点に f 枚の面が集まっているとすると、こんなことが考えられます:

式変形に手間取ってしまいましたが、なんとかなったみたいです

(*)多面体全体で正 n 角形が F 枚あるので n×F の辺があるとしたいが、これでは全部ダブって数えているので2で割る。また、全部でVコある頂点それぞれから f 本の辺が出ているから f×V の辺があるとしたいが、やはり全部ダブって数えているので2で割る。前回書いたとおりで、あるものはすべて数え尽くす、同じものを何度も重ねて数えない。だから、二度数えたのが分かっているから2で割る。簡単なことのはずです。

元・水の分析屋さんとしては、整数が満たすべき不等式に持ち込む、赤字にした不等式が aha! なのですが、いかがですか?

それはさておき、「正 n 角形」というからには n>2 だし、頂点に集まった面の数も f>2 でなくてはいけません(そうでないと体をなしません)。よって (n-2)>0 かつ (f-2)>0 です。二つの正の整数の積が4よりも小さい組み合わせは 1×1, 1×2, 1×3, 2×1, 3×1 の5通りしかないので、(n, f) の組み合わせは (3, 3), (3, 4), (3, 5), (4, 3), (5, 3) で、それに限るということになります(i)。はい、これで Q.E.D. 

(i) 面が正3角形なら各頂点に3枚、4枚、5枚集まるもの、面が正4角形(正方形)または正5角形なら面が各頂点に3枚集まるものが可能で、それ以外にはないということです。

この結果を V, E, F の関係と一緒にまとめてみましょう:

美しい規則性が見えていますね~

正六面体(立方体とも)と正八面体は、辺の数が同じですが頂点の数と面の数が入れ替わっています。ということは、正六面体の各面の真ん中をつないでいくと、正八面体が現れるのではないでしょうか・・・

正六面体と正八面体との双対 dual 関係

たしかに、上図のように正六面体からは正八面体が、正八面体からは正六面体が登場します。図示するのは煩雑なのでやめておきますが、正十二面体と正二十面体でも同様で、各面の真ん中をつないでいくと、正十二面体と正二十面体とが入れ替わります。これが正多面体の「双対 dual 関係」です。

これらはどちらの組み合わせでも、 (n, f) の組み合わせが (f, n) に置き換わっています。だとすれば、(n, f)=(3, 3) の正四面体は (f, n)=(3, 3) の正四面体と対になっていると考えるのがよさそうです。これを「自己双対 self-dual」といい、もちろん、正四面体の各面の真ん中をつないでいくと、小さな正四面体が出てきます。

 

いろいろな鉱物の結晶 crystal?

正多面体の構造になっているものをいくつか紹介します。

蛍石(フローライト fluorite)

光学レンズなどにも使われる蛍石は、フッ化カルシウム CaF2 を主成分とする鉱物で、正八面体あるいは正六面体の結晶 crystal として産出します。

天才の石だそうです・・・パワーストーン

立方体と正八面体がが折り重なっている様子が見えています。ご多分に漏れず、混じり物によって様々な色になるそうです。

〇 黄鉄鉱(パイライト pyrite)

黄鉄鉱は鉄とイオウでできた鉱物。金色に輝くけれども、もちろんそんな価値はありません。ロバの金、愚者の金と呼ばれて蔑まれていますが、結晶がきれいなことでは人気を博しているようです。化学組成は FeS2 ですが、必ずしも一様にはなっていません。

パイライト:五角形の面が見えている結晶(左)と正六面体の結晶

「正」とまでは言えないけれど五角形の面が見えるのは面白いですね。上にあげたもののほか、八面体で産出することもあるそうです(私は見たことない)。

ホルミウムマグネシウム亜鉛合金による「準結晶 quasi-crystal」

人工的なものですが、ホルミウムマグネシウム亜鉛合金(Ho-Mg-Zn)の準結晶はみごとな正十二面体。正五角形で平面を埋め尽くすことができないのと同様、正十二面体だとどう考えても空間を充填することができないのですが、タネから外向きに成長させてできたものみたいです。

結晶については古い知識で育った私たちにとって衝撃の正十二面体

 

5種類しかない正多面体、数学を使って整理できる構造でした(しかも、中学生が理解できるレベルです)。海洋でふつうにみられる錯イオンにも、地中から掘り出される鉱物の結晶にも、同様の構造があるところが興味深いですね。

 

準結晶」の話はまた今度。