alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

錯イオンと正多面体

中学生の数学で出てくるらしい「オイラーの多面体定理」を覚えていますか?

世界で2番目に美しい公式(1番目は 1, i, e が出てくる有名な式です)

どれを足して何を引くのか分からなくなった人も多いでしょうが、中学生向け受験対策のサイトによると、この式は、移項した形で「辺は帳面に引け」って覚えるんだそうです(初めて知った今知った)。驚きですが、これを「辺=頂・面 2引け」と読む・・・(辺 E)=(頂点 V)+(面 F)-2 う~ん、なるほどね。でも、こんなことやっているから、丸覚えすることが増え続けるんですよ。数学まで暗記科目にしたら負けです。

「どれかとどれかを足して2を引けばもう一つに等しい」ことだけ覚えてれば、簡単な例で思い出せます。三角柱など、間違えそうにない多面体の絵を描いてみましょう。

エエかげんな記憶からでも正解を思い出せる・・・

※ あとで正四面体を登場させるので、ここは三角柱を例にしました。上下の面が三角形なので、頂点は6コ(3×2=6)。辺は上下に三角形二つと対応する頂点を結ぶ3コで9コ(3×2+3=9)、面は上下の2コと側面ぐるりの 3コで5コ(2+3=5)。あるものはすべて数え尽くす。同じものを何度も重ねて数えない。簡単なことです。

あらゆる凸多面体でこんな関係が成立する・・・頂点、辺、面の関係には深~い秘密があるだろうと想像できますね。特に高い対称性をもつ「正多面体」だと、一層美しい関係が成立すると期待できます。実際、結晶の分類なんかは正多面体の理論と深く結びついています。元・水の分析屋さんは、このようなことを期待するのは、好きで勉強している人間の特権だと思います。

 

今回はいくつかの錯イオン complex ion を例にして、正多面体との関連を考えていきましょう。

 

立体構造を気にしましょう

錯体 complex、錯塩 complex salt とは、 配位結合や水素結合によって形成された分子/原子の集団の総称です。「集団」とは結構イイカゲンな言い回しですが、あまりガチガチに考えない方がよい。前回登場のテトラアクア銅(Ⅱ)イオン [Cu(H2O)4]2+ は、Cu を中心に配置した正方形の頂点に4つの H2O で構成されていますが、図には正方形の張る平面の上下にあと2つ H2O がありました。それなのに「ヘキサ (6)」ではなくて「テトラ (4)」だったのはなぜか。集団に属していないと見なすべき理由があるのですが、ともあれ、あと2つの H2O の役割についても考える必要がありそうです。

さて、遷移元素のイオンには、水 H2O,  アンモニア NH3, シアン化物イオン CN- などなど、極性のある分子やイオンが容易に配位しますが、配位がいくつでも起こるわけではありません。配位数は一般に2~9と言われていて、特に、2, 4, 6 のものが多いとされます。  いくつかの例を示しましょう。

図中の「L」は「配位子 Ligand」を表します

錯イオンの配位数は金属イオンの種類によってほぼ決まっています。銀イオン Ag+ なら2、ニッケルイオン Ni2+、銅イオン Cu2+亜鉛イオン Zn2+ は4。鉄のイオンは2価と3価の Fe2+, Fe3+ がありますが、配位数は6ときたもんです。いずれも遷移元素のイオンを中心にして、周囲に配位子がバランスよく配置されています。ただし、4配位だけは正方形の場合と正四面体の場合があります。立体構造としては正四面体になる方がよいように思われますが・・・

テトラアクア銅(Ⅱ)イオン [Cu(H2O)4]2+ を思いだしてください。4つの H2O が作る正方形の上下にも H2O がありましたね。4配位だと言いつつ、6配位の上下が縦に伸びた形をとっていたのです。そこまでを「集団」だととらえるなら、正八面体が歪んだ状態であると言えるでしょうね・・・ガチガチに考えない方がよいですね。

ついでですが、すでに四半世紀ほど前のことですが、Cu2+ が作る錯イオンは本当に4配位の正方形なのかという話は出てきていました。高校生の教科書的には、まあ、いいじゃないですか、ということみたいですが、本当は Cu2+ は配位数 4, 5, 6の様々な錯体を作るようです。上の図でも、配位子が1種類のものだけ例示していますから、「正」多面体の立体構造になりますが、異なる幾種類かの配位子に取り囲まれると、バランスも違ってくるはずですね。

今日の話とほとんど関係ないですが、元・水の分析屋さんが仕事でよく使ったのは「エチレンジアミン四酢酸 ethylenediaminetetraacetic acid (EDTA); (HOOCCH2)2NCH2CH2N(CH2COOH)2」。300に近い分子量をもつ、大きめの配位子でした。

 

次回も多面体を意識した話を続けたいかな。