alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

トマス・ミジリーの創造物 (1)

日本国憲法 より:

第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
(以下省略)

 

第十五条 第3項に 「公務員の選挙」と書かれているので、ここでいう「公務員」は選挙で選ばれた議員さんに違いない。パーティー券の購入者や選挙で票をとりまとめてくれる人に奉仕するのではなく、あなたを支持していない人まで含めた国民全体の利益を考えて行動していただきたい。

第七十三条 には「法律を誠実に執行し」とあります。たとえ政治資金規正法の条文に抜け穴があったとしても、閣僚に名を連ねるような人が法の趣旨を踏みにじるようなことは許されません。道徳(修身)教育も足りていないのでしょうか。

 

\(・_\)それは(/_・)/おいといて、オクタン価の話題です。

 

炭素化合物の構造式の表現:骨格構造

ガソリンエンジンのシリンダの中で起こっていること:

高温高圧のガソリンと空気の混合気をに火花を飛ばして着火し、その火炎を一瞬のうちに伝播させる、つまりは爆発させます。しかし、常に適切なタイミングで爆発させることは容易ではなく、高温高圧の状態になっているシリンダの「すみっコ」で、未燃焼の混合気が「俺に内緒で」自発的に着火してしまう・・・これが「ノッキング」です。
※ エンジン内部の燃焼室やピストン、あるいはシリンダーヘッドにカーボンが付着してノッキングの原因になることがあると言いますが、元・水の分析屋さん、幸いにして経験しておりません。また、昔は給油の際にエンジン内部を洗浄する添加剤とか水抜き剤とかを入れますか、なんてスタッフさんから勧められたものですが、セルフのスタンドではそんなこともないですね。

燃料によるノッキングの起こりにくさの指標が「オクタン価」。オクタン価が高いほど自発的着火による異常燃焼が起こりにくいとされます。その名の由来となるオクタン(octane, C8H18)は、炭素8つの飽和族炭化水素分子式が一般に CnH2n+2 の形になるものの総称)。炭素数がこのくらいになると、分子式が同じでも原子の配置が異なる「構造異性体 isomer」が何種類も存在することになります。
炭素が直鎖状に並んでいる ノルマル-ヘプタン(n-heptane, C7H16)と、枝分かれしている イソオクタン(iso-octane, C8H18)を比較してみましょう。

骨格構造:線の交点と端点に炭素があり水素は省略する約束

見慣れていない人は面食らってしまう図ですが、線の交点(端点も含む)に炭素 C
があります。炭素から出る線の数を4から引いた数だけ水素 H がくっついている、と読みます。

炭素 C が7つの n-ヘプタン、1から7までの番号を付けたところに C があります。線が1本だけ出ている 1と 7の C には H が 3コ付き、線が2本出ている 2, 3, 4, 5, 6 の C には H が 2コ付いている。あまりムツカシクはないと思います。

イソオクタンは、5つの C が直鎖になっていて、その2番目の C から2本の線、4番目の C からは1本の線が出ている形です。その線の端点にも C があるので C は合計8コです。世界共通の IUPAC 命名法による「2,2,4-Trimethylpentane」は、直鎖型の C が5つの炭化水素pentane)があるところ、メチル基(methyl group, -CH3)が直鎖部分の2番目と2番目と4番目の C に付いていて(2,2,4-)、そのメチル基は合計3コ(Tri-)、と読み解きます。
 上のような表現が好まれる理由は、こちらの図との比較でご理解いただけるかと:
 

イソオクタンの C, H を丁寧に表現してみる

ある程度の経験値がある人なら、C も H もここまで描く必要を感じないはず(H を全部書くと煩雑すぎますね)。ナントカの一つ覚えで「丁寧に説明」したい人がいますが、要点を外した丁寧な説明ではイライラが募るばかりです。炭化水素であるという前提があれば、 Cの配置が分かれば全体の構造が見える、ここではそれで十分です。

 

ハイオクガソリンの誕生

オクタン価の話に戻りましょう。一般論になってしまいますが、同じ炭素数の飽和炭化水素なら枝分かれが多いほど燃えにくく、エンジン内部での燃焼が安定しやすいとされます。上で紹介した n-ヘプタン と イソオクタン を比較すると、n-ヘプタンよりもイソオクタンの方がノッキングを起こしにくいのです。そこで、燃料にしたいガソリンのノッキングの起こりにくさがその2つの炭化水素の混合物と同じであるときのイソオクタンの割合(容量比%)で表したのがオクタン価。この定義により、n-ヘプタンはオクタン価 0、イソオクタンのオクタン価は 100ですね。 あれ?「イソ」はどこへ行った・・・なんてカタいことは言わないでください。ともかく、若干燃えにくいものを混ぜることでオクタン価は向上します。

さらに、ノッキングの主な原因は反応中間体「OH・」(ヒドロキシルラジカル)なので、ラジカルの発生を抑制したりラジカルを捕捉するものを添加するのも有力な手段です。こういうの、化学者の出番だと思いますよね~

テトラエチル鉛とトマス・ミジリーの人相書

トマス・ミジリーはアメリカの化学者。発明家としても知られる人です。彼は、ノッキングを防ぐには、ガソリンにエタノールなどのアルコール類を添加すればよいと気づいていました。また、鉛がエンジン内部での異常燃焼を抑制することにも気づいていました。であれば、4つのエチル基でできている「テトラエチル鉛 tetraethyllead, TED」は極めて有効なはず。じゃあ添加しますか! 1921年、こうして有鉛のハイオクガソリン(i) が誕生しました。

(i) ミジリーは化学者ですから、当然鉛が有毒であることも知っていました。1923年にエチルガソリンが発売されたとき、ミジリー自身が鉛蒸気による体調不良で、一ヶ月くらい仕事を休んだそうです。第二次大戦後に若者の犯罪率が上昇したことについては、有鉛ガソリンの大量使用との関係が疑われました。せいぜい「相関がある」レベルとも言われますが、果たしてどうだったのでしょうか。

彼はテトラエチル鉛を単に「エチル」と呼び、ノッキング防止の本質的な役割を果たす物質が鉛であることを表に出しませんでした。エチル基を4つくっつけたのは、鉛をガソリンに溶けるようにするためであり、単にアルコール類を添加するのと違って、特許をとって現実的なビジネスにつなげるためでもありました。元・水の分析屋さんごときの想像で申し訳ないですが、ミジリーは下図のような分子を設計(発明)したのではないでしょうか。

ミジリーのイメージはこうだったか・・・

真ん中にある鉛 Pb とエチル基との結合はそれほど強くないので、高温のエンジン内部では簡単にバラバラになる。エチル基が解放されて、むき出しの鉛が出てくる。なるほど、エチル基の効果も鉛の効果も遺憾なく発揮されるわけです。

私たちが知っているガソリン代は、レギュラーよりもハイオクがリッター10円くらい高いですが、「エチル」入りのガソリンは当時の価格で1ガロンあたり3セント高く売れたとのこと・・・薄利多売という熟語を思い出さずにいられません。

なお、日本では、かなり早いうちにガソリンの無鉛化が進みました(レギュラーは1975年、ハイオクは1987年に完全無鉛化)。せまい日本、そんなに急いでどこへ行く(ii) アメリカほどにはモータリゼーションが進展しなかったおかげかも知れません。

(ii) オヤジたちにはなつかしい、昭和48(1973)年の全国交通安全運動の標語です。

 

次回はトマス・ミジリーのもう一つの創造物(発明)の話をしましょう。