alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

「高値の花」ならダジャレですんだのに

8月19日は俳句の日・・・とは関係ないのですが、新聞の休刊日でした。じっくり二日かけて読んだ昨日の北海道新聞の記事からです(16面 北の食)。

「函館スルメイカ 高根の花」って、でかでかと見出しに書かれており、これ、けんか売ってるのかと思いました。だって、PCに「たかねのはな」と打ち込んで変換すると「高嶺の花」にしかなりません。なのに、なぜか、新聞業界では「高根」を使うというのです。もう一度書きます。これ、けんか売ってるのかと思いました。確かに「嶺」は常用漢字表に載っていませんが、ナントカ審議会に媚びを売る必要などないはずの新聞社が「表外字は使わない」という、法的根拠に乏しいルールを、自主的に作ったり守ったりしているのでしょうか。だったら、それ、おかしいですよ。

元・水の分析屋さん、あるとき、部内の報告物に「遠洋マグロ延縄漁船・第五福竜丸」と書いた原稿を提出したら、常用漢字音訓表にない読み方という理由で「はえ」とするように指導されました。でもね「マグロ延縄漁船」ならすらっと読めますが、「マグロはえ縄漁船」だと二度見しないと読めません(少なくとも私は)。しょうがないなぁ。「延縄(はえなわ)」とするか、ルビを振るか、どうにかできませんかね~ でお願いして、ルビ振ってもらいました。

難読としか言えない人名もあたりまえに見かける時代です。常用漢字以外の漢字だって、世間で通用しているなら読めるに越したことはありません。どうしてもムツカシイとお考えなら、活字を拾う手間はないご時世なのですから、ルビを振ればいいじゃないかと思います。

\(・_\)それは(/_・)/おいといて、今回の主題はスルメイカの不漁。

 

海水温の上昇が原因なのか・・・

記事によると、函館市水産物地方卸売市場の生鮮スルメイカの取扱量は、統計を取り始めた2005年度以降でピークだった2008年度のわずか3.5%にとどまりました。また、スルメイカの不漁は全国的な傾向。全国の漁獲量は2000年の33万7285トンから年々減り、23年は前年比4割減の1万9600トン(農林水産省「海面漁業生産統計調査」)ということです。

スルメイカ不漁の原因は何だろうか。一つには海水温の上昇が挙げられます。これまた記事によれば、20~22年の道南海域の平均水温は、1980年代平均と比べて1~3℃上昇。こうした海洋環境の変化による産卵時期の遅れや、孵化した幼生の生存率低下が考えられるそうです。海水温上昇が、海の生物が移動しつつ暮らす広がりで共通して生じていれば、これはインパクトが大きいでしょう。漁場は津軽海峡付近ですが、産卵場所は東シナ海だといいますから、日本海の水温に注目したいところです。

で、気象庁の「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」のページから、日本海側の海域の年平均水温のグラフをいただいてみました。

特に「日本海中部」の定め方が気になりますが、まあ、よしとして

統計的に有意であっても、途中にデータのない期間があるなど、あまり頑張らなくてもいいところじゃあないかと思うのですが・・・まあ、1次回帰の直線が引いてありますから、何かの目印にして下さい。図の中にも書きましたが、1980年代はやや低温傾向ですが、グラフ右端の最近5-6年は、特に高温になっているように見えます。かなりの広がりがある海域でも、平均すると水温は上昇傾向、ということは間違いないようです。

なお、「陸上でもめちゃくちゃ暑いし、同緯度帯の海水温だって上がっておかしくないでしょう」なんていうのは無茶です。現象としてはありそうでも、論理的な根拠はまったくない。風が吹いて桶屋が儲かる話は、為替とか投資とかの用語が飛び交う場では意識すべきでしょうが、純粋なサイエンス&テクノロジーの領域では通用しないし、通用させてはいけないと心得て下さい。

 

黒潮大蛇行が原因なのか・・・

もうひとつ。2017年から続いている黒潮大蛇行がスルメイカの回遊ルートに影響を与えている(i)、という話があげられています。

(i) イカ業界における Big Name であり、元・水の分析屋さんも尊敬している先生のご説なのですが、もしかして理屈が成り立たないのではないかと思ったので、イカ、ご無礼承知で書いてみます。間違っていたら、本当にゴメンナサイです。

JAXAひまわりモニタ 海中天気予報」で得た今日16時の100m深水温図を下敷きに、赤い矢印で大蛇行している現在の流路(想定)、青い破線で直進型で期待されているであろう流路を入れてみました。

100m深水温図に私が矢印を入れました

東シナ海で冬(1-3月)に孵化するスルメイカは、太平洋側の流れに乗って東に運ばれ、三陸沖から北海道方面まで北上するのだそうです。産卵のために日本海側を南下しておきながら、いざ生まれたら太平洋側に出ていく?! スルメイカは毎年世代交代しますから、限られた人生、じゃなかった、イカ(ii) を全うするには、対馬暖流に乗って日本海を戻っていくのが効率的だとは思います(タイパがいい、でしたっけ)。

(ii) "Life" って書ければ、人でもサルでも、イカでも大腸菌でも・・・かなぁと、この場面での日本語の不自由さを嘆いてみます。個人的には、日本語、すごく自由だと思っていますけどね。

ところがそうはイカない。東シナ海からスタートしたら、まずは黒潮に乗って房総半島沖まで進み、そこから北上するのが通常ルートだそうです。そこで、黒潮が大蛇行流路をとっているために、房総半島沖から三陸沖への北上ルートがしばしば絶たれている、という説明になっているようです・・・う~ん、そうですか・・・

 

元・水の分析屋さん的には、この「黒潮大蛇行原因説」には賛成できかねます。第一、このたびの黒潮大蛇行は、2017年8月に12年ぶりに発生してからずーっと続いています。第二に、「1970年代後半から1990年代初めまでは、黒潮大蛇行が頻繁に発生していましたが、それ以降は2004年7月〜2005年8月を除き、非大蛇行の状態が続いて」いたことも明らかです。この時間的関係、お忘れないように。

先に書いたとおり、近年のスルメイカの不漁は全国的な傾向であって、「全国の漁獲量は2000年の33万7285トンから年々減り、23年は前年比4割減の1万9600トン」でした。不漁傾向は、2004-2005年の一時的な大蛇行の前に始まっています。そして、近年注目されている不漁は、今回の大蛇行が始まった2017年よりも前から続いてます(2013年か2014年までは、今よりはマシであった・・・)。毎年世代交代するスルメイカが、何年も前からの環境条件を引きずるのはおかしい。時間の前後関係が整合していませんね。

黒潮大蛇行によって、スルメイカ三陸沖を北上するルートが絶たれている、というのでは、やはり不都合が生じると、元・水の分析屋さんは考えます。

 

以上、新聞記事の内容を自分なりにきちんとたどったつもりですが、黒潮大蛇行に関しては、今のところ、記事の論理には一貫性がないとしか言えません。新聞に掲載された図をお見せすれば、もう少し何がおかしいのか分かりやすい話ができたと思いますが、オープンなデータをグラフ化しただけのものにも著作権を主張されるかも知れないのでやめておきます。どうにかして新聞紙面をご覧いただけるとよいのですが・・・