天下を争っているなら「亜父」の言うことにはちゃんと耳を傾けるべきでしたが、穏やかに日々を過ごしたいなら「アホ」の言うことには取り合わないに限ります。知り合ったばかりの人に儲け話を教えてしまうようなアホとは付き合わないことです。ホントにうまい話があるなら、自分が借金してでもやればいいのになぜ誘う・・・そうか、アホじゃなくて犯罪者なのか。
塩化水素と塩化ナトリウム、「結合」の違い
ところで、前回、塩酸のもとの塩化水素 HCl は共有結合だと書きました。それでは、塩化ナトリウム NaCl はどうなの、ってなりますかね~。Na は H と同じ「1族」、これも共有結合できそうな気がしますからね~。下の図でどうでしょう:
残念ですがそんなうまい話はありません。上は塩化水素 HCl 分子の正しい電子式ですが、下は「アカン」やつです。NaCl は「イオン結合」で作られている結晶で、共有結合ではないからです。
詳しく説明しましょう。まずは、Na と Cl のイオンの電子配置から。
ナトリウム Na は原子番号11(原子核の陽子は11コ)。電子軌道、K, L, M... 殻が順に埋まっていくのですが、K殻の 1s に2コ、L殻 2s に2コ と 2p に6コ。ここでの最外殻の M殻 3s の1コが価電子。ナトリウムイオン Na+ は、最外殻の電子1コを手放した状態(空っぽになったM殻を表す円は破線で表現)です。電子配置だけなら、18族(貴ガス)のネオン Ne と同じですね。
塩素は原子番号17(陽子17コ)。内側で満たされている K殻, L殻は Ne と同じで、M殻の 3s に2コ、3p に5コの電子が配置されます。塩素イオン Cl- は、M殻にさらに電子1コを得た形で、3p 軌道まで埋まってオクテットが成立します(ですが、3d 軌道にはあと10コまで電子が入れます)。このときの電子配置だけをみると、やはり貴ガスのアルゴン Ar と同じになっています。
つまり、Na は電子を手放して、Cl は電子を手に入れて、イオンとなって、電子配置的に安定なオクテットを実現するわけです。Na が手放す電子を Cl がちゃっかり入手すると、うまいことに 陽イオン Na+ と 陰イオン Cl- のペアが誕生し、陽イオンと陰イオンの間に働く静電気的な力(クーロン力)で結合するのです。
ちょっとまて。「Na は電子を手放して、Cl は電子を手に入れて」ということなら、最初の図に示した共有結合と変わらないのでは? いえいえ、共有結合は電子を共有する原子の間だけのものですが、イオン結合は近くにある正・負の電荷同士が引き合ってできています。こんなイメージです:
このように、NaCl はたくさんのイオンが規則的に配置された「イオン結晶」であって、NaCl という分子にはなっていません。なので、塩化水素を表す HCl は「分子式」ですが、塩化ナトリウムを表す NaCl は「組成式」といいます。Na と Cl の原子数が 1対1 の割合になっていることを示しています。
なお、とにかく覚えるだけでよいという方は、基本的に陽イオンになるのは金属元素で、陰イオンになるのは非金属元素なので、イオン結合は「金属元素と非金属元素の結合」だと思って構いません。高校までの無機化学レベルなら、これで間違うような試験問題は出てこないんじゃないかな・・・知らんけど。
以上、今回は蛇足を覚悟で、塩酸と水酸化ナトリウムの中和反応でできる「塩化ナトリウム」の話題でした。
蛇足ついでですが、「○○結合」の強さは・・・
共有結合(配位結合)>イオン結合>金属結合>>水素結合>ファンデルワールス結合
となっています。
共有結合はとても強固です。でも、最も弱いファンデルワールス結合でさえも、ヤモリが家の壁をかけ上ることができるくらいの芸当を見せてくれています。
それでは