2024/05/20 20時過ぎ、「ウェザーニュース LiVE ムーン」を見ておりましたら、「どうして風が吹くのか知ってる?」との問いかけがありました。23時から気象予報士のYさんが教えてくれるそうです(このブログは21日にアップ予定ですぅ)。気象現象の説明はご専門の方にお任せするとして、元・水の分析屋さんとしては、何らかの物理量の差があれば、エネルギーを取り出せる、風が吹けばエネルギーが得られる、と考えております。
一般に、A地点とB地点で何らかの物理量に差があれば、その差を利用してエネルギーを取り出すことができるはずなのです。
物体が高いところから落っこちれば、重力加速度のおかげで運動エネルギーを得ることになります。温度に差があれば、温度が低いところは温度が高いところから熱をもらいます。浸透膜をはさんだ溶液の濃度に差があると、濃度が高い方から低い方に溶媒が移動します。気圧に差があるときには、気圧が高いところから低いところへと空気が動こうとします。そして、風力発電は、大気の大地に対する相対速度を、最終的に電気エネルギーとして取り出そうとする企みである、ともいえそうです。
ついでの話ですが、地球上には、どの瞬間においても、まったく風が吹いていない地点が必ず存在します。常に同じ場所というのではなく、どこかに必ずある、という意味ですので、誤解なきよう。
さあ、なぜでしょう? 次回、ホニャララの定理から明らか、のような「証明」を書くつもりですので、どうぞお楽しみに。
それでは、硫酸のお話、始まり始まり~
イオウ S の最外殻電子に注目する・・・
高校生の化学、教科書や副読本で硫酸がどんな分子構造をしているのか、記述されているでしょうか? もしかしてですが、書かれてないのではありませんか。少なくとも、元・水の分析屋さんの高校の教科書には出ておりませんでした(ずいぶん昔の話ですけどね)。
まあ、文句ばっかし言ってないで、イオウ S の価電子(最外殻の電子)から確認と参りましょう。イオウ S は原子番号16。酸素 O(原子番号 8)と同じ16族(旧VIa族)で、価電子は6コです。

電子を2コもらうとオクテット成立(単原子の陰イオン S2- を作ります)。逆に言うと、不対電子が2カ所あるので、中学生がよくやっている「手の数(原子価)」は 2。であれば、酸素と水素で H2O をつくるのと同様に、イオウと水素は硫化水素 H2S (i) をつくります。

(i) 硫化水素 H2S は卵が腐ったときの悪臭の原因。下水処理場、ゴミ処理場などで嫌気性細菌によりイオウが還元されて発生するケースもあります。排泄物や屁にも含まれているに違いないですね。また、火山ガスや温泉にも含まれています(温泉街で銀や銅は腐食されるという注意書きをみかけることがあります)。ついでですが、水溶液中で H2S ⇄ H+ + HS- と電離するので、弱いながらも酸になります。
これは比較的納得しやすいかと思います。でも、硫酸 H2SO4 になると、混乱してしまう図が出てきます。困ったちゃんはこちら:

上図の右側、S から「手」が6本出ています。共有結合(配位結合)の説明を思い出すと、「電子対を共有」するのだから、1本の手に電子は2コです。2×6=12コ、全然オクテットになってない! どういうことなのでしょうか。図中の S と O の距離ですが、単結合で描かれたところが 157.4 pm、二重結合の表現になっているところが 142.2 pm になっています。距離が近い方を二重結合だと考えよう・・・でいいのかな?

そうはいかない。まず、電子式は上図左のようにするしかありません(●は S, ●は O, ●は H にそれぞれ由来する電子)。電子式で縦に並んだ S-O が二重結合とおぼしきものでしたが、ここの電子対の一つが、中の図のように O 側に思い切り引きつけられています(電子2コが O に1.8コ、S に0.16コで分配されている)。つまり、「≒」で結ばれた右図のように、三つの孤立電子対が O に属していながら、電荷の偏りによってクーロン力も働く結合になっているというのです。
この答えは2000年に発表された論文(ii) に示されたのですが、今時の高校生諸君は、学校でどのように教わっているのでしょうか。
(ii) T. Stefan and R. Janoschek, 2000: 'How relevant are S=O and P=O Double Bonds for the Description of the Acid Molecules H2SO3, H2SO4, and H3PO4, respectively?' J. Mol. Model., Vol. 6, 282-288. 4/16に登場した(オルト)リン酸の図も P から「手」が5本でしたが、正しい電子配置はこの論文に出ています。
最外殻に 8コを超える電子をもつ「超原子価化合物」として、二つの二重結合を含む6本の「手」を考えるのは、やはり気持ちよくないです。元・水の分析屋さんとしても、少なくとも大学受験までは「オクテット則」こそ基本の知識と考えたいのです。
硫酸の取り扱いにはくれぐれもご用心
硫酸は強酸。濃硫酸の比重は 1.84 で、水よりもずっと大きい。無色、無臭の粘性のある液体です。また、硫酸は水分子との親和力が極めて強く、水と混じるときには非常に大きな発熱をともないます。したがって、濃硫酸を薄めて希硫酸をつくるときは、必ず十分な量の水に濃硫酸をかき混ぜながら少しずつ加えていくこと。逆に、濃硫酸に水を注ぐとどうなるかを考えれば、危険性が理解できるはずです。
① 濃硫酸に比べて少ない水であっても、非常に大きな熱量が生まれます。
② 濃硫酸よりも水の方が「軽い」ので、水は濃硫酸の上に浮いています。
③ 表面に浮いている少ない水に大きな熱量が与えられて、液面で突沸します。
こうして周囲に硫酸混じりの液体が飛び散るとか、ガラス容器が破損するとか、実験室でやっちゃダメなことが起こるのです。
一方、十分な量の水に濃硫酸を少しずつ加える正しい手順に従えば、水よりも「重い」濃硫酸は液面よりも下で水と混じります。混じる途中で周囲の水に熱が奪われますし、急激に温度が上がるとしても液面よりも下でのこと。なるほど、事故は発生しにくいわけです。大切なことなので、もう忘れないでね。
また、硫酸は塩酸や硝酸と違って不揮発性であることにも注意が必要です。実験用の作業着に希硫酸が垂れてしまったら、まあ、穴が空くと思ってください(洗い流すのは困難です)。希硫酸から水分が失われても、硫酸はその場にとどまるので、濃縮されてしまうのです。
濃硫酸は空気中の水分をとらえる「吸湿性」にすぐれていて、デシケータの乾燥剤としても使われますが、有機化合物からムリヤリ H2O を引き抜く「脱水性」も極めて強力です。たとえば、ショ糖に濃硫酸を加えると H2O を奪われて・・・
C12H22O11 → 11H2O + 12C
真っ黒な炭 Carbon が出現します。実験室であなたの服や手にちょこっと付着した硫酸でも、同様の現象が起こります。ちなみに、元・水の分析屋さんも、白衣の尻のあたりに穴を開け(iii)、左手の薬指の爪を黒くした経験があります。
(iii) これは私の背後で実験していた同級生の仕業を疑っているわけです(笑)。
今日のところはここらへんで勘弁しといたろか~