alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

炭素の数え方について

12月に「大体の数」なんかについて書いていたせいか、いらないことを思い出しました。そもそも自然数って何だっけ・・・ここはベッドの中で朦朧とした意識のまま読書することにして、このブログで突き詰めて袋小路に入り込むのはやめときます。でも、化学の世界でも何かを数えることはとても大切。2024年は「数え方」の話から始めようと思います。

 

炭素がたくさん、有機化合物

地球上の生物は炭素化合物で形成されています(生物の定義を深掘りする気はないので、そこんとこヨロシコ)。実際、私たちは炭素化合物を含まない生命体をみたことがないはずです。初期の化学者たちは、生物(動植物)から単離された物質は、人工的に合成することができない「有機化合物」であり、生物の中にしか存在しない生命力によって形成されると考えていました。

ところが、ドイツの化学者フリードリヒ・ヴェーラーは、1828年に体液の成分である尿素を生物起源ではない物質から合成することに成功しました。その後、あれやこれやと寄り道はあるものの、有機化合物も無機の物質と同じ自然法則に従うことが広く認識されるようになります。有機化合物は、炭素を含む天然の(しばしば生物に関わる)化合物だけでなく、人工的にも合成できる化合物も含むという考え方になってきたのです。

ただ、炭素を含む化合物でも有機物に分類されないものも多くあります。たとえば、炭酸塩、シアン化物、CO や CO2 のような単純な酸化物などを有機物だと主張すると、誰からも相手にしてもらえなくなること請け合いです。正確な定義には至っていないとはいえ、とりあえず「水素や他の炭素原子と結合した炭素が主役になっている物質である」とすれば、反対する人はほとんどいないのだろうと想像します。炭素がたくさん、有機化合物・・・です。

 

炭素原子の数え方

元・水の分析屋さんくらいの年齢になると、その効果は「本人の感想です」の健康食品やサプリメントの広告に目がとまってしまいます。も少し若くて元気であれば「酒は百薬の長」だと言いつつもう一杯余計に呑めておりましたが・・・無理です。DHAEPA に乗り換えるのもしかたないところでしょう。

ところで、DHA, EPA とは何者でしょうか。よく分からないままに「ン千円」で購入するのはもったいない。

DHAEPA どちらも不飽和、ω-3脂肪酸

2023/12/27 に紹介した「骨格構造」による表現ですが、どちらも「ω-3脂肪酸」と呼ばれる不飽和(i) 脂肪酸です。アレルギー症状など炎症を抑える働きのほか、動脈硬化血栓の予防、血圧を下げるなど、さまざまな嬉しい作用があります・・・な~んて、「◆ラシエ」の webページに書かれています。オジン世代にはアマニ油、エゴマ油など「ω-3脂肪酸」を含む油の摂取がオススメになるわけですね、はい。

(i) 脂肪酸は生物体の脂質を構成する成分で、炭素 C、水素 H、酸素 Oでできています。「飽和」脂肪酸の炭素は単結合だけでできていますが、「不飽和」脂肪酸の炭素は二重結合や三重結合(不飽和結合という)を含んでいます。

さて、DHA は「ドコサヘキサエン酸」、EPA は「エイコサペンタエン酸」の略なのですが、この舌を噛みそうな物質名を頑張って読み解いてみましょう。

まず、「酸」というのは、図中水色で囲ったところがカルボキシ基(ii)「-COOH」になっている、一価のカルボン酸だからです。

(ii) 元・水の分析屋さん世代の記憶によれば間違いなく「カルボキシル基 carboxyl group」ですが、1993年の IUPAC勧告により「カルボキシ基 carboxy group」が正式名称になりました。リアス「式」海岸と同じくらい悔しいです。

次の、「ドコサ」「エイコサ」は、化合物の炭素の数を示す「数詞」です。30までの数詞を表にしておきますね~

IUPAC による物質の命名法で使われるものです 逆らっちゃダメ

7, 8 は「ヘプタン」「オクタン」で既出(分かりますよね!)。「ドコサ」は22,「エイコサ」は20です。図中、炭素のつながりに端から緑色で「1, 5, 10, 15, 20 (, 22)」の番号を振ってありますのでご確認を。

それに続く「ヘキサ」「ペンタ」は、不飽和の象徴である二重結合「エン」(活用して -enoic、二重線のところです)の数が 6, 5 であることを表しております。炭素のつながりを数えた向きに青色で番号を振ってあります。

・・・とまあ、炭素がたくさんになったら、端っこから順々に数えていけばよく、数詞はIUPAC の表で探せばよい。あとは不飽和結合の数に注意する。これで物質名からその構造をおおよそ思い浮かべることができます・・・できないかな・・・

慣れの問題はあるのだと思いますが、「ドコサ」や「エイコサ」の響きが面白いとウケているだけでなく、炭素同士が二本線で結ばれた「エン」が「ヘキサ」「ペンタ」の数だけ存在する、程度の読み解きができると、元・水の分析屋さんとしてはそこそこ楽しいと思います。

 

次回はもしかしたら「ペアノの公理