alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

大気の状態が不安定・・・積乱雲の話(4)

【内田 樹 さんの文章からの抜き書き】

自分が生まれてからこれまで1度も口にしたことがない思念や感情を、いまここで語ろうとする時に「大きな声で、はっきりと」言えるはずがない。「大きな声で、はっきりと」言えるのはストックフレーズだけです。定型句だけです。誰かの請け売りだけです。誰かが言っているのを耳にして、記憶していたものを「再生」するだけなら、大きな声で、はっきりと言うことができる。そういうものなんです。


ですから、学校教育の場では、先生は子どもたちに「大きな声で、はっきりと自分の思っていることを言いなさい」という要求をしてはいけない。そんな条件を課したら、子どもたちが口にするのは「誰かの請け売り」になってしまうからです。親から聞いたか、教師から聞いたか、物知りの友人から聞いたか、YouTubeで自信ありげなコメンテーターから聞いたか、出典はわかりませんけれど、「誰かが断定的に言ったこと」なら、大きな声で、はっきりと再生することができる。

 

 そして、ほんとうに怖いのは、そうやって自分で言ってしまったことを、言った本人は「自分の意見」だと思い込んでしまうということです。これほど大きな声で、はっきりと言い切れるのだから、それが自分の中に根拠を持つ言葉でないはずがない。そう思い込んでしまう。

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・・・確かに小学校では「大きな声で、はっきりと自分の思っていることを言いなさい」と教わります。大きな声で元気よく発表できる子は、先生にも親にも褒められます。これが大いなる勘違いの始まりで、褒められるのだから、自分が考えたのではないことを言ったはずなのに「自分が言ったこと=自分の意見」で、それが正しいと考える人が育つ、というのですね。本当は、声がでかかっただけのこと・・・そのように考えられれば、今日の学校で行われているディベートの授業なんか「よせばいいのに」って思う人も増えてくれてよさそうですが。

一説によると、ディベートは、論理的思考 logical thinking、批判的思考 critical thinking および 短時間で(的確な)主張に至る quick thinking 力を身につけるのに役立つそうです。なるほど、論理的と批判的のところは地続きの内容でしょうし、学問をするにしても起業するにしても必要な力だと思います。小学生に要求するのはまだ早いのでは? といった心配はあるものの、否定しようとは思いません。しかし、あまりにも気になるのが「短時間 quick」のところなのです。その場限りの言い訳を瞬時に思いついたり、自らが不利になったと見ると論点をずらしたり。あなたの周りにもいますよね? そんなことができる力を学校教育で身につけさせて欲しくはないです。

ディベートが親や先生に口答えする練習・・・であるなら、どうでしょうか。そんなもん「よせばいいのに」って思いませんか?

 

積乱雲は「自力で」発達した雲

「対流雲」はエア・パーセルが次々と上空に運ばれることで鉛直方向にモコモコと発達する雲です。ただし、パーセルが自由対流高度まで上昇するに至らず、どこかで上昇するだけの浮力が得られなくなってしまえば、残念ながらかどうかは別としてそこまでのことです。一方、パーセルがどんな手を使ってでもいいから、自由対流高度まで上昇できれば、そこからは「自力で」上昇し続けることができるのです。くどいようですが、自由対流高度までは「強制的に」運んでもらわなくてはなりませんが、そこから先は「自力で」上昇できる。現実の大気で何が起こるかは、そのときの「条件付き不安定」の程度次第。これが、「積雲」にとどまるか、さらに発達して「積乱雲」になるかを決めている。

「積雲」の雲底はほぼ平らですが、それは持ち上げ凝結高度まで上昇させてもらって凝結が始まるからです。そして「積雲」がさらに発達して「積乱雲」になるには、① 自由対流高度まで持ち上げられるカラクリが働いていて、② 潜熱をもらいつつ上昇すると周囲よりも高温で浮力を得られる、という二つの条件が必要です。この辺の事情は、やはり図にした方が分かりやすいと思います。

対流雲の発達過程

上昇するパーセル周辺における大気の実際の気温分布が、斜めの A-A' の線。パーセルが地表付近の A から持ち上げられると、その温度は断熱膨張によって乾燥断熱減率で下がっていきます。パーセルの水蒸気が飽和して凝結し始める B が持ち上げ凝結高度です。そこから先は、潜熱(凝結熱)をもらいながら上昇しますから、温度の下がり方は湿潤断熱減率に従うことになります。C の高さ=自由対流高度に到達すると、パーセルの温度が周囲の気温と同じになり、その先はたとえば D, D' で示すように、パーセルの温度が周囲よりも高くて密度が小さいので浮力を得ることができます。パーセルが「自力で」上昇できる、つまり、対流雲が自主的に発達するのです。

ところで、9/14 の「積乱雲の話(1)」で書きましたが、湿潤断熱減率の値は定数ではありません。気圧が低くなるにつれて小さくなるのでした。このため、パーセルが上昇を続けて図の E に至ると、パーセルの温度が周囲の気温と同じになり、周囲との密度差がなくなって浮力を得られなくなります(図に入れていませんが、この高度を平衡高度 Level of Neutral Buoyancy: LNB といいます)。パーセルがこれ以上上昇しようすると、周囲の空気よりも密度が大きいので、下向きに復元力が働きます。したがって、対流雲の鉛直方向の発達はここまでで、ここらへんが雲頂高度となります。積乱雲の場合、見かけどおり鉛直方向への発達が著しいので、雲頂高度が圏界面に到達して、雲頂が平らに見えることもよくあります(かなとこ雲)。

※ さて、ここのところ、気温が露点温度まで下がって水蒸気が飽和すると、そこから凝結が始まるつもりで書いておりますが、本当は「凝結核」となる物質がないと、水蒸気の凝結は始まりません。このことは別の機会に書くことにして、今のところは飽和したら凝結が始まるということでヨロシクです。

 

積乱雲の下で起こるシビアな現象

ここまで、対流雲が成長する過程を概略説明しました。成長期の雲の中は、ほぼ全体が上昇流となっています。水蒸気が凝結してできた水滴のほか、気温によっては氷滴(あられ等)も生成されて、雲粒となっています。でも、その大きさは直径 1 μm ~数十 μm。上昇流で持ち上げられるので、まだ雨として降ってくることはない。

対流雲が発達して最盛期を迎え、積乱雲になる頃には、雲粒同士の衝突・併合が進んで大きな雨粒、あられ、氷晶などがどんどん作られます。大きな氷晶が重力に逆らいきれずに下降すると、融解したり昇華したりして潜熱を奪うので、周囲の空気は冷やされて重くなります。結果的に、最盛期を迎えた積乱雲の中では、上昇流だけでなく下降流も生じているわけです。

あられや氷晶は上昇流が強いと持ち上げられ、下降流の巻き添えになると降下します。上昇と下降を繰り返すうちに、融解したり凍り付いたり、互いに衝突して合体したりでさらに大きなカタマリを作るようになります。それがカタマリのままで降ってくると、これはもう事件です(i)

(i) とても大きなカタマリの例:

https://weathernews.jp/s/curation/detail.html?cuid=202409190065

(2024/09/19 八王子市で巨大な雹。車のフロントガラスやカーポートの屋根も壊れました)

さて、雲の中。あられや氷晶は上昇・下降を繰り返します。また、その過程で互いに衝突を繰り返し、電荷を帯びるようになります。上昇流・下降流と重力の作用で、軽いものほど上層に集まりやすく、大きくて重いものほど下層に分布するようになりますが、プラスの電荷を帯びた軽い氷晶が上層に、マイナスに帯電した大きい粒子が下層に集まる結果になるのだそうです。しかも、下層にはプラス電荷のあられも見られるというのです(下図でいう「電荷3極構造」)。

高橋 劭 2003年度藤原賞受賞記念講演 による

元・水の分析屋さん調べ、の範囲では、今もこの説が支持されているようです。

いずれにいたしましても、(雹でなければ)氷晶やあられは落下する途中で溶け、地上では雨が降り出します(地上付近の気温が低ければ雪です)。また、降水となる粒子に引きずられて下降流も生じます。雲の中で大きな電位差があるので、ときには雷も発生します。地表に達する前に雨粒が蒸発すると、気化熱を奪われて空気が冷えて重くなり、下降流はさらに速度を増します。積乱雲の周辺の空気の状況にもよりますが、下降気流が強化されるようだと、ダウンバーストマイクロバーストといった突風(後述の予定です)が生じることがあります。

そして、降水を作る粒子が地上に落ち、下降流が雲全体に拡がるようになると、雲を形成する水滴も消滅していきます。単独の降水セルである積乱雲の一生はここまでです。

 

次回は、積乱雲がもたらす災害につながるようなシビアな現象をちょっとだけ詳しく。