alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

大気の状態が不安定・・・積乱雲の話(5)

みなさんは「他人事」と書いてあったら何と読みますか?
元・水の分析屋さんは、もう「ひとごと」としか読みません。でも、まだ勤め人であった頃は、わざわざ「たにんごと」と読んであげることもありました。といいますのも、年上で役職も立派な人が「たにんごと」って読んだのに、平静を装ってその場で訂正するのは憚られるので(笑)(i)。まあ、おかしいと思ったら、国語辞典を引いてみて。「ひとごと」は見出し語になってますが、「たにんごと」なんて項目はないですから。そうです。許容される範囲でさえない、完全な誤読なのですよ。

(i) まだ「海洋気象台」があった時代のことです。上司からチェックを依頼された文書。「旧暦」とか「当時の暦」とかすべきところを「太陰暦」と書いておられたので修正意見をつけました。評判の悪かったことったらありません。上司さま、完全にご機嫌ナナメでした。でも、わざわざチェックさせておいて、その結果がお気に召さないとはね~。

ついでですが、「ひとごと」の対義語は何でしょう。正解はたぶん「あなたに関わりがあるあらゆること」です。「ひとごと」が「あなたに直接関わりのないこと」であれば、集合の授業で習う「ベン図」を描くまでもなく、ご理解いただけるはずです。ところが、年上で役職も立派な人が大勢集まった会議の場で「自分事」とおっしゃる。

辞書を引いてみてちょんまげ。そんな見出し語はありません。伝統的な表現なら「吾が事」「我が事」になると思いますが、それでさえ独立した見出し語ではないのです。自己啓発的な話題を取り上げるサイトで「自分事化(じぶんごとか)とは、物事や課題を自分のものとしてとらえ、主体的に取り組むこと。自分自身がその仕事に関心を持ち、かかわること」なんて美しい日本語で書かれているのを見たときには・・・げんなりしました(他人事にはどうやっても取り組めるわけがないって、分からないのかな~)。あなたの職場のエラい人も、似たようなことを考えているのでしょう。
ともあれ、「自分事」は、自分には関わりないなどと思わず、自分にも降りかかってくることだと思って考えてみて、といった文脈で登場します。「そのうちあなたにも・・・」と、ある意味、怖がらせるために発明された言い回しなのでしょうか。であれば、政府広報の語る本当の意味はこうではないか ―― 国民の皆さん、「安心・安全」は「自分事」として考えて下さい。

久しぶりに、\(・_\)それは(/_・)/おいといて、「他人」と書いてあれば何が何でも「たにん」と読むのでは、ちょっと困るのです(意味で読むのが訓読みの本来の姿ですから)。ひとひねりが必要な慣用句の問題ですが「情けはひとの為ならず」の意味、知ってますか? これは「他人に情けをかけたり親切にしたりしたことが、巡り巡って自分にとってよいことになる」みたいな意味合いで使われます。「他人」のことを「ひと」と言っているのですね。「ひと」のところを「人」と書いてあったとしても、明らかに「自分ではない他人」のこと。「他人」を「ひと」と読むべきケースは「他人事」だけではないと心得ておきましょう。
また、この慣用句の意味を「情けをかけるのはその人のためにならない」と誤解している人も多いと聞きます。「~ならず」は「~なり」の否定なので、「その人/他人の為ではない」と読むしかないのですが、なんでか知らんけど「その人/他人の為にならない」となってます。もしかしてだけど、「一般の人」を「特定の人」だと思った上に、「為ならず」を「為ならず」と勝手に一文字補ったか。

確かに「こんなところで助けてやったら、あいつの成長の妨げじゃぁ!」という形の愛情もあるのでしょうし、親切心かと思ったら見返りを期待しているとはみっともないという考え方も理解できますが、言葉を勘違いしている事実は消えません。残念!

変なことを思いつきました。どっちに転がってもいいように、「安心・安全はひとのためならず」なんてどうでしょうか。

 

またまたマクラが長くなりました。では、積乱雲のシビア現象の話題。帯電して雷、の話まで進んでいたつもり。

 

竜巻

10/2 朝日新聞社 によるストーリー:

2日午後2時すぎ、宮崎市で「竜巻のような激しい風が発生している」などと119番通報があった。市消防局によると、同市小松でビニールハウスが壊れるなどの被害が確認された。宮崎地方気象台は竜巻などの突風が起きた可能性があるとみて調査班を派遣し、詳しい事象の内容や原因を調べる。

市消防局によると、ビニールハウスが壊れるといった被害は6件ほどで、人的被害は確認されていない。調査班は3日にも結果を発表する、としている。

 

10/3 気象庁機動調査班の調査の結果(報道発表資料)より:

10 月 2 日 14 時 05 分頃、宮崎県宮崎市小松(こまつ)から跡江(あとえ)で発生した突風の種類は竜巻と認められます。その強さは風速約 35m/s と推定され、日本版改良藤田スケールで JEF0 に該当します。

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おお、竜巻だったのですね。積乱雲が原因になっている気象現象の中でも、被害の大きさで特記されるのはやはり竜巻でしょう。

竜巻とは、発達した積乱雲によって発生する激しい 風の渦巻きのこと。積乱雲の底から地上へと伸びる漏斗状、あるいは柱状の雲を伴います(ii)。北半球ではふつう低気圧性の渦となります。Wikipedia には、大規模なトルネードで気圧が 850 hPa まで低下した事例が紹介されており、「わずか数十秒間で100ヘクトパスカルもの急激な低下が起こり、すぐに元に戻った」との解説がついています。

渦の直径は数十m から数km に及ぶものもあるとされ、竜巻の被害もおおよそその幅の領域に集中します。このたびの宮崎市の竜巻は「日本版改良藤田スケール JEF0」という瞬間風速(3秒平均)で 25-38 m/s という評価です。強力な台風よりも弱いではないかと思われそうですが、ふつうに用いられる「風速」は10分平均値なので、感覚的な違いが大きいはずです。接近する台風なら徐々に風が強まってきて、たまに強風が吹く。竜巻だと急にあたりが暗くなっていきなりの突風。身構えるだけの時間的余裕などありません。

(ii) 雲を伴わず風が渦を巻いているだけだと、「竜」に見立てることはなかったでしょう。空から降りてくる渦巻く雲に雷(=神鳴り)も加わるような状況、人々は竜と神様を重ね合わせて、恐れおののいたのに違いありません。人間は、突風だとか、空中放電だとか、余計な知恵を持ってしまいましたか。

この記事を書いている最中の10月4日、浜松市静岡県)でも突風被害のニュース。残念ですが「竜巻注意情報」は発表されていなかったようですね。予測困難な現象であることは間違いないのですけど・・・・・・政府広報オンラインでも「これらの情報を活用して、竜巻から身を守りましょう」って呼びかけておりますからね。

竜巻のイメージ:若干脱力してしまいそうなイラストですが・・・

竜巻は、激しい上昇気流を伴う渦巻きです。物理的には、地上付近の渦が、積乱雲の上昇流によって上空へと引き伸ばされ、回転の半径が小さくなると、角運動量保存則により角速度=回転速度が速まる・・・ということで概略は説明できると思います。

それはそうと、局地的に上昇気流があるなら、近くのどこかで下降気流がある、というのもふつうの考え方。実際、上昇気流と下降気流は積乱雲の中で共存しています。

 

積乱雲の中で生じる下降気流

前回までの説明は、積乱雲一つを扱ったものでした。しかし、発達した積乱雲は、群れを成したり、集合してひとつの巨大な積乱雲になったりして、長時間持続することがあります。マルチセルとかスーパーセルとか呼ばれるものです。マルチセルは、積乱雲からの下降気流が次世代の積乱雲を生むことにより、自己増殖して世代交代します。スーパーセルは、鉛直方向に風のシアーがあるときに、上昇気流と下降気流が「ねじれの位置」のような状況で共存して持続するのが特徴です。このように、自己増殖したり、自己再生したりで組織を維持することから、積乱雲は「生物」とも言える側面をもっているとされます。

さて、積乱雲は水蒸気を含んだパーセルが自力で上昇することでできるのでしたが、雲の周囲は相対的に乾いた空気が存在します。前回示した図では、パーセルが周囲の空気とはふれあわずに上昇するように考えましたが、現実には周囲にある相対的に乾いた空気が混入して、一緒に上昇します(ii)

(ii) もし、そうした混入がなければ、発達中の積乱雲の形は上昇流が速い真ん中あたりに「くびれ」をもつ「鼓型」になるはずです。

前回の図を改変して、周囲の空気が混入したケースを青い線で示した

雲の中のある高度 D のところで考えると、周囲とふれあわないパーセルであれば赤い湿潤断熱減率の線に沿って上昇しますが、実は周囲の空気を巻き添えにしているので、その高さでの気温は D' に近寄った P になります。D の状態よりも浮力は小さいことが分かるでしょう。

したがって、降水粒子と一緒になって下降する気流が生じると、D から出発して赤い線をたどるよりも、P から青い線に沿って下降する方が、気温も低くて浮力が足らない分だけより速い下降気流を作ることになるのです。また、降水粒子の重さが下降気流を発生させる一方、周囲の乾燥した空気が混じっていることにより、降水粒子が蒸発して気化熱を奪います。これでさらに温度が下がり、下降気流を強化することになります。

そして、積乱雲がもたらす下降気流は、ガストフロントやダウンバーストといったシビアな現象を引き起こすことがあります。

気象庁提供だと思いますが、政府広報オンラインに掲載された図です

ガストフロントは、積乱雲の下で形成された冷たくて重い空気塊が、その重みによって温かくて軽い空気の側に勢いよく流れ出して発生します。積乱雲からの下降流が地面にぶつかり、水平に発散するアウトフローの先端部分がぐるっと巻き上がって、周囲にある暖湿気との間に前線(フロント front)を作るのです。

ダウンバーストは、積乱雲から吹き降ろす下降気流が地表に衝突して水平に吹き出す激しい空気の流れです。地表での水平方向への広がりがおよそ 4km 未満だとマイクロバースト、4km 以上にわたるものをマクロバーストと分類するといいますが、そこまで分解能が高い観測網などあるはずがなく、被害状況から推定するしかありません。見極めは非常にムツカシイと思います。

 

10/3、静岡県浜松市中央区で発生した突風に関する静岡地方気象台の発表。

ひとつは竜巻。風速は約50m/s と推定され、日本版改良藤田スケールで JEF1 に該当。もうひとつは、現象の特定には至らないものの、風速約 30m/s と推定され、日本版改良藤田スケールで JEF0 に該当。

重ねて言います:風速の実測値はないから、推定するしかないのです。