alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

【化学】なんと素敵なフラクタル (6)

わが国の国会、引き続きネタ提供に余念がないようで・・・

 

「ガソリン減税」法案をめぐり、衆議院・財務金融委員長に対する解任決議案が可決されちゃいました。与野党のやりとりから・・・

立憲民主党 桜井周 氏:
いざ野党が結束して法案を提出し、可決が見込まれる状況になったら審議拒否。これでは与党の責任を全く果たせていません。

自民党 深沢陽一 氏:
こんな法案が通ったら財源はどうするのですか。関係する事業者はどうなりますか。国民生活に混乱を来すことは必至です。

 

端から話し合う気がない与党と、話し合いに乗らないことを見越して仕掛けようとしている野党。まあ、自民のいう「財源はどうする」の話は、長らくやってきたように、どこかでこっそり(時にはあからさまに)増税すればすむことですから、今回議論しない理由としては甚だ薄弱。対する野党も、やがて始まる参院選の争点にするためには、今国会では結論に至らない方がありがたいのではないか。 な~んて、いらないことを考えてしまうのでした。 どっちに転んでも OK なのは、おそらく財務官僚・・・

 

フラクタル的構造をもつ物質

さて、「フラクタル」シリーズのはじめに、自然界に見られる「フラクタル的」なものとして、ロマネスコブロッコリー、シダの葉、雪の結晶、対流性の雲・・・などをご覧いただいたところですが、これらはあくまでも「フラクタル的」な例です。実際、買ってきたロマネスコをゆでて二つに割ると、小さな粒状のものの集合体であることが分かります。そもそも植物なのですから、どう考えても細胞のサイズ以下には縮小できません。これらの中では雪の結晶が最小だと思いますが、これとて形を形成する最小単位は高額、もとい、光学顕微鏡で見える大きさ。そこで今回は、走査型トンネル顕微鏡とか極低温電子顕微鏡でないと見えない分子レベルまで規則的なフラクタルの話を二つ。

 

一つ目は 2015年の Nature 論文(Assembling molecular Sierpiński triangle fractals(i))。

(i) Shang, J.; Wang, Y.; Chen, M.; Dai, J.; Zhou, X.; Kuttner, J.; Hilt, G.; Shao, X.; Gottfried, J. M.; Wu, K. Nature Chem. 2015, 7, 389.

シェルピンスキー・ガスケット状になっていますね

論文中の掲載図です。「くの字型に曲がったジブロモオリゴフェニレンを清浄な銀の (111) 面に真空蒸着し、すぐに極低温まで冷却することで、隣接分子間の臭素-臭素間相互作用を利用して分子を固定」して作られた・・・そうですが(???)、そんなことはおいといて。シェルピンスキー・ガスケット状の構造になっているのですよ。

私が見たサイトでも「このような分子配列を狙って作ったとはとても思えない」が、設計できるなら「空間が大きく、しかも電子伝導性や引張強度などの物性にすぐれた新材料ができる可能性はある」と評価されていました。

もう一つ。2024年の Nature 論文(Emergence of fractal geometries in the evolution of a metabolic enzyme. (ii))。

(ii) Franziska L Sendker, +17 more Nature. 2024, 10 Apr 2024 628, 894-900.

細かいし分からない絵で申し訳ないですが・・・

この分子は、光合成細菌シアノバクテリア Synechococcus elongatus 由来の天然タンパク質、クエン酸シンターゼ citrate synthase で、極低温電子顕微鏡を使用して、フラクタルが六量体の構成要素からどのようにできているのかを明らかにしています・・・なんだそうですが(???)、やっぱりそんなことはおいといて。こちらの書き方では「シェルピンスキーの三角形 Sierpiński triangle set」ですが、自然界にあったフラクタル構造に間違いないです。

そうか、分子レベルでフラクタルな物質がちゃんとある、ということですね。多少化学に興味がある程度の私らは「へぇ」って感心するしかないですが・・・ともかく、物質が出てきましたから、今回のタイトルは【数学】じゃなくて【化学】。

 

折れ線グラフ ≒ 複雑な「線」のフラクタル次元を考える

前回の最後にお見せしたとおり、測定する刻み幅を小さくすればするほど、それにつれて海岸線(国境線)の全長はいくらでも長くなります。ふつうの曲線であれば、'well-defined'(明確に定義された・・・みたいな意味)な長さを持ち、それは 'rectifiable' (有限長)である、に決まっています(Mandelbrot の論文にある表現です)。

ディバイダの刻み幅を d とした n 個の折れ線で近似する・・・ d → 0 とすれば n → ∞ となるが、そのとき折れ線の長さの極限値が存在すれば、それが曲線の長さである・・・ なんて期待していたのは間違いでした。海岸線の/国境線の全長が測定の刻み幅に依存するなんて、これはビョーキです。

 

で、まだ若かった元・水の分析屋さんは次のように考えた:

ふぅん・・・これは、海岸線/国境線は 1次元の「線」ではなく、コッホ曲線のような、ある程度「線」からにじみ出している状態と思って良さそうだ。そして、モヤモヤした海面水温場に等温線が引けるとするならば、それもまたある程度「線」からにじみ出したような姿なのではないか。だったら、Mandelbrot の論文に出てきた D の値を使って一仕事できるはず・・・ おお、このビョーキは応用範囲が広いような気がする!

マンデルブロ様、ありがとうございます。わたくし、インスパイアされましたので、あなたと「フラクタル」、しっかりとレスペクトします。これで 2次元空間(平面)にある「線」のフラクタル次元の概念が手に入りましたから!

しかし、まだ足らないものがあります。海岸線や国境線は、x軸も y軸も「長さ」の次元を持つ 2次元空間にある「線」です。元・水の分析屋さんの興味は、空間的あるいは時間的に等間隔で並ぶデータの列を折れ線グラフで表現して、「グラフの(図形的な)複雑さ」みたいな量を評価できないか、ということでした。つまり、相手にしようとしているのは、x軸 が空間(長さ)や時間で y軸 が水温などの物理量(測定値)になっている・・・ x軸と y軸の単位が違う「線」なのです。

そんなことで、なぜ困るのか? それは「折れ線グラフ」という図形の「長さ」とは何か、という問題にかかっております。たとえば、時系列データのグラフだと、時間軸のスケールを変化させると、認識される「図形」としての形状も変化してしまいます。それによって「グラフの図形的な複雑さ」まで異なってくるようでは、使い物にならないってことになります。

時間軸を引き延ばしただけで同じグラフには見えなくなります

「グラフの長さ L」が横軸のスケールによらないように定めようとすると・・・そうです、縦軸側の変動量だけを積算していくしかありません。海岸線/国境線のときには「長さ」vs「長さ」、すなわち 1次元の量同士で両対数グラフを作りましたが、今度はそうはいきません。横軸方向にはステップ数しか数えてないので「無次元」で、縦軸方向に関してのみ 1次元になっています。両対数グラフに同様にプロットして、えいやっと回帰直線を引くと、その傾きは D-1 ではなく、D そのものを表すはずです(D がフラクタル次元)。なんだかややこしいのですが、ここで企てた仕事では、こんなのを「グラフの長さ」だと考えることにするのです。「長さモドキ」を定義したといえば、少しはカッコいいかも知れません。

 

このへんから、いっそう込み入ってきますので、今回はここまで。 次は【数学】に戻して頑張ろうかと。

それにしても、ここのところ聞こえてくるニュースは、戦争、不祥事、訃報がやたらと多いような気がします。そういう話題を見れば見るほど、次に表示されやすくなる、というのも大いに作用してはいるでしょうが。