alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

揺れる、ゆれる 回る、まわる

鞦韆院落夜沈沈

4/8のこと、「ブランコ」は春の季語です、って、NHK北海道、夕方のニュースでやってました。一方、「滑り台」は季語ではないということでした。まあ、「ジャングルジム」「シーソー」「鉄棒」なども含めた広場や公園の遊具は、冬じゃないよねとは思いますが、季語としては使いにくいかも知れません。

※ バット、ミット、プロテクターは季語ではないはずですが、マスクは冬の季語です(状況は変わりつつあると言いますけどね)。

さてと、「ブランコ」は蘇東坡の詩に出てくる・・・とか語っていましたから、この七言絶句が典拠だというのでしょうか:

 

蘇軾(蘇東坡) 「春夜」

春宵一刻直千金   春宵(しゅんしょう)一刻 値千金
花有清香月有陰   花に清香有り 月に陰有り
歌管楼台声細細   歌管(かかん)楼台 声細細
鞦韆院落夜沈沈   鞦韆(しゅうせん)院落 夜沈沈

<元・水の分析屋さんの訳>
春の宵、一刻に千金の価値がある
花は清らかに香り、月はおぼろに霞んでいる
歌や笛でにぎやかだった高殿も、今は音もかすかになり
ブランコのある宮殿の中庭では、静かに夜が更けてゆく

 

この詩に言及するからには、起句の「春宵一刻直千金」をもっともっと前面に出していただきたいもの。この七文字が、まさに値千金の名句ですからね(直は値と読みましょう)。

\(・_\)それは(/_・)/おいといて、結句に登場する「鞦韆」がブランコ。唐宋のころまでの中国では、宮廷の美女たちが好んでブランコを楽しんでいたといいます。西洋世界でも、やはり高貴な女性たちが定職もなくブラブラしていたようで(あたりまえか~)、このような絵があります:

左:「中国語スクリプト」のページより,右:「ブランコ」 by フラゴナール

左の絵は、女性の裳裾がひらひらとしていますから、当時としてはかなりのお色気が発揮された状況を描いたものと想像できます。蘇東坡の詩に出てきたのは、夜も更けた宮殿の中庭のブランコですから、もう誰も乗っていないのでしょうが、昼間これをこいで黄色い笑い声をたてていたのは、きっと年若く美しい宮廷の女性でしょう。庭のブランコは、皇帝の夜伽のお相手を探す場でもあったかと(i)

右の絵は、不倫の当事者を描いている(左下に描かれたオッサンがエロ男爵)という、まったくもって「不適切にもほどがある」事例。まあ、洋の東西を問わず、「ブランコに乗るのは女性」というのがお約束だということを言いたかったのでした。

(i) こういう想像を働かせるからこそのエロティシズムが存在することは否定できません。右の絵のエロ男爵だって、ひらひらとしたスカートの裾の中をまじまじと見ていますね。ひらひらとしたものに心惹かれるわけですねぇ・・・モーツァルトに「コシ・ファン・トゥッテ Così fan tutte」(女は皆そうしたもの)というオペラ作品がありますが、男だってみんなそうしたものなのです(笑)。

人気お笑いコンビの「男性ブランコ」。ブランコゆうたらおなごはんに決まっとるところを裏切るコンビ名になっています。

 

単振り子と等速円運動

ブランコは、誰かに押してもらったり、自力でこいだりして、揺れの幅を大きくするものですが、物理の試験に登場する振り子は、手伝ってもらうのは動き出すときだけ。この振り子の運動をどのように記述したか、軽く、軽~く復習しましょうか。

糸の片方の端を固定して、反対の端におもりをつける。これを鉛直面の中で振らせるのが単振り子。理想的なものとして、糸は伸び縮みしないで張力のみ働く、おもりは質点とみなせる、振れ幅は微少、重力のほかに外力はない、などを仮定します。

ω は「角周波数」「角振動数」  [rad/s] で表現

上の図の説明、一部不備があるのですが、作り直す元気がありません。高校物理だと、単振動の微分方程式の解を天下り式に教えてしまうのだと思うので、そこは許してもらいましょう。何はともあれ、(5) の解は 2回微分すると符号が変わるだけの三角関数(正弦関数、余弦関数)で表現できそう。そして、三角関数は円と仲良しなので(強引にもってきました!)、等速円運動と結びつけることができます。

http://juken-butsuri.jp/category4/entry23.html よりいただいてます

角周波数 ω で円の上を動く点 P の x 座標だけに注目すると、図の右のような正弦曲線が現れます。ωt の 2π ごとに元通りに戻る周期関数ですね。揺れていたはずのものを回るものとして表現することができました。

 

振り子の等時性

上の (7) 式の右辺は、振り子の長さ l 以外の変数をもちません。したがって、同じ長さの振り子の振動周期は、おもりの重さ m や振れ幅 θ にはよらないことになります(ii)。これを「振り子の等時性」といいます。

(ii) ただし、(3) 式の関係が成り立つ微小な振幅でなくてはなりません(ここ、重要です)。θ のどのくらいの範囲までいけるかは、たとえば、sin θテイラー展開第2項の大きさを評価すれば分かります。ゆるーく考えると30° くらいの振れ幅でもまあいいか、ですが、厳しいことを言えば10° でも気になる人もいます。あなた次第の近似です。あと、おもりの「重さ」で通してきましたが、高校生の物理では「質量」でお願いします(ここも重要です)。

これは、ガリレオ・ガリレイが1583年に発見したそうですね。教会の天井から吊されたランプの揺れ方を見て、大きく揺れても小さく揺れても、一往復するのにかかる時間はほとんど同じだと気づいた。イチャモンをつけるとすれば、ランプが風によって揺られているなど、余計な外力がかかった状態かも知れないので、これだけでははっきりしたことは言えない・・・なのですが、すぐれた観察力の持ち主であったことは間違いありません。

そして、振り子のこの性質を利用して、機械で等間隔に時を刻む仕組みを作って、振り子時計のできあがり。ガリレオと親交のあったホイヘンスが1656~58年ころに発明したとされています。今日では、クオーツの時計だったり電波時計だったりのところ、デザイン的にクラシカル・・・という、正確さには関係ない振り子時計も、数多く出回っていますが。

 

中原中也の目に映ったサーカス小屋のブランコ、「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」と揺れていました。不安定な心の状態そのままに、一定の周期などもってない揺れであったのでしょう。