福島第一原発事故後の「除染土」のこと、お忘れではないでしょうね。
まずは、日本経済新聞の記事より(8/26):
政府は26日に開いた閣僚会議で、東京電力福島第1原子力発電所の事故に伴って発生した除染土の処分に向けた今後 5年間の工程表を正式決定した。放射能濃度が低い土の再利用を中央省庁や国の出先機関で始める。再利用への国民の理解を促すため、まずは国が前面に出て活用する。
こちら、福島民報の記事(8/27)
政府が26日に取りまとめた東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た土壌の福島県外最終処分に向けた今後約 5年間のロードマップ(工程表)に対し、内堀雅雄知事は「候補地選定後の最終処分場の用地取得、建設、運搬等について具体的なプロセスやスケジュールが明確に示されていない」と指摘した。「中間貯蔵施設の立地町をはじめ、県民が県外最終処分実現の見通しを実感できない状況にある」とし、県外最終処分に向けた2045年 3月までの具体的な工程の速やかな提示を求めた。おおむね2035年をめどに県外最終処分場の候補地を決定すると明記されたことは「一定の前進」と受け止めた。
日本経済新聞の記事、除染土の活用について「国民の理解を促すため」ときました。国は事故の責任を負わないことにしたようですね。また、内堀福島県知事の「候補地選定後の処分場用地取得や建設、運搬などの具体的な手順や日程が明確になっていない」といったコメントも書かれておりません。その代わりにと言ってはナンですが、web 版の記事の上方には、東京電力ホールディングスの株価の動きが表示されています。そうか、貴社の記者の問題意識はやっぱりそこにあるのですね。
言うまでもないですが、福島民報と福島民友新聞の記事には知事のコメント、政府への要望も記載されていました。とりあえず関係閣僚会議(i) で議論してマジメに取り組んでいるふりをしている政府と、この先除染土の扱いをどうするのか具体案がほしい地域との意識の違いが、はっきりクッキリ見えています。この違い、皆さんも分かりますよね!
(i) 内閣の責任で処理できる案件のうち、複数の省庁に関わる問題の検討や調整のために関係省庁の大臣を構成員として設置される協議機関。関係閣僚が素直に納得してしまうのであれば、何のことはない、閣議決定に先だって根回しを行うだけのこと。国会で議論することなく閣議で決定するシステム、相変わらずです。
参考までに、各紙の記事に添えられた「工程表」に関するまとめを拾っておきました。違いがよく分かってない某紙には、薄目の横目で「ダバダ~ダバダ~」をお送りするしかないようです。

「除染土」ってどんなモノでしたっけ?
福島第一原子力発電所事故による放射能汚染は、東日本の広い範囲にわたりました。ここでいう放射能は、放射性セシウム(134Cs, 137Cs)と考えて差し支えないでしょう。帰還困難区域を除く地域の除染はすでに終了しており、2021年度中にはすべての除去土壌=除染土が中間貯蔵施設に搬入され、2045年までに再生利用と福島県外での最終処分が実施されることになっているわけです。
そもそも、放射能汚染を除くという意味で「除染」と言ったのですが、どんなやり方でお掃除をしても、高々目の前から除去できるだけのことです。床の汚れをモップで拭いたらモップに汚れがうつるのと同じ。放射線を出す物質が消え去るわけではありません。ここはお忘れなきよう。
除染土は産業廃棄物であるはずはないし、もちろん一般廃棄物でもありません。ゴミの収集車は持って行ってくれないのです。日本アイソトープ協会に持ち込んで処理をお願いすることもできない。放射性物質汚染対処特措法に基づく基準に従って、中間貯蔵施設などで保管され、できるだけかさを減らし、濃縮などを行って、30年以内に県外の最終処分場へ搬出することになっています。福島県知事が「具体的な工程の速やかな提示を求めた」のは、まさにここんとこです。地元から出てくる当然の要望でもありますが、法律を守ってもらいたい、と言っているのです(除去土壌の県外最終処分は「国の責務」とされています)。
さて、政府が「することになっている」作業の工程をどう考えているのかは分かりませんが、除染土がどのようなものか、については、政府機関からもかなりの情報が出ています。ただ、ずいぶんとあやふやな知識・情報が多いようにお見受けします。そこで、「元・水の分析屋さん調べ」による怪しの知識を、ここらへんで惜しげもなく?放出してみようと思います。
(1) 放射性セシウム Cs は土壌表層にとどまった
空から降下した放射性 Cs は、環境中にさらされたあらゆるものに付着しました。除染の作業では、家屋の屋根・外壁を洗い流し、住居近傍の植生を除去し、さらには地表の土壌を除去しました。これらの除染により、環境中の放射性 Cs による線量率はかなり低下したのです。
セシウム Cs はアルカリ金属。ナトリウム Na, カリウム K などと同様、水に溶けて陽イオンとなるので、水とともに動くのが基本のはず。しかし、実際には、土壌の粘土層への吸着が多かった。それは、福島県内でも広くみられる粘土鉱物のひとつ、ヴァーミキュライト vermiculite のおかげでした。
ヴァーミキュライトは黒雲母などの風化で生成し、シリカ SiO2 と アルミナ Al2O3 が主成分の層状構造を作ります。化け屋さんなので「酸化数」を持ち出しますが、シリカの Si の酸化数は +4、アルミナの Al の酸化数は +3 です(酸素は -2 ですからね)。で、これらが作る層状構造がゆるんで開いたところでシリカがアルミナで置換されると、1価の陽イオンひとつ(酸化数の差 +1)が収まるサイトができる。それがうまいこと Cs+ にフィットする大きさなので、Cs を選択的に吸着するのです(通常は存在比が大きい K+ が収まる場所ですが、放射性の Cs が多量に降ってきたので競争に負けたのです https://www.nies.go.jp/fukushima/magazine/oshiete/202202.html による図を下に示す)。これ、Cs+ のイオン半径だけの問題ですから、Cs が放射性かどうかはまったく関係がありません。カリウム K でもなく、ルビジウム Rb でもない。セシウム Cs だから捕捉されやすくなるのです。

こうして、放射性セシウムの多くは表層の粘土鉱物層にとどまりました。地表の土壌の除去が除染の効果を上げた理由はここにあったのです。
ちなみに、ヴァーミキュライトは、保水性や通気性に優れ、農地改良や園芸用培土の原料にも用いられています。ただし、ホームセンターで園芸用に販売されているヴァーミキュライトは、輸入された苦土蛭石(くどひるいし)を高温で焼成したもので、上に述べたような層状構造はなく、セシウム吸着性もほとんどないそうです。もちろん、放射性セシウムを吸着することもありません。安心してください、焼いてますよ・・・
(2) 除染土の総量とその放射能がもたらす影響
福島県内の中間貯蔵施設に保管されている除染土は、約1400万m3。分かりやすくなるかどうか不明ですが、東京ドーム11杯分くらいだそうです。で、繰り返しになりますが、除染土は2045年までに再生利用するか県外で最終処分することが法律で定められています。政府は、この最終処分の量を減らすために、放射性物質の濃度が低い土を、全国の公共工事の盛り土などで再生利用しようとしているのです。そもそも、除染土を海洋投棄することはできないので、どこかに埋め立てるほかはないはずです。しかも、むき出しで使うわけにもいかない。「盛り土などで再生利用」とは、「表面を覆って埋め立てる」を体よく言い換えただけだと、元・水の分析屋さんは考えます。
そして、7月には総理大臣官邸の庭に除染土が持ち込まれて、いよいよ再生利用が始まりました。とりあえず 2m3 だけですが、これで「まずは国が前面に出て」活用したつもりなんでしょう。運び込んだ除染土の放射能は 8000 Bq/kg(1kg あたり 8000 ベクレル)以下。これに通常の土をかぶせて植栽の下地としたということで、環境省の職員の測定によると、放射線量は 0.11 μSv/h (1時間あたり0.11マイクロシーベルト)。工事の前とほぼ同じでした。
さて、上の情報には ベクレル と シーベルト が出てきましたが、どういうことを言っているか、きっと分からないと思います。まずは、定義らしいことを書いてみましょう。
下の図で少しは分かりやすくなるでしょうか:
毎秒 1回放射性壊変する放射能が 1 ベクレル [Bq] です。放射線によって 1 [kg] の物質に 1[J] のエネルギーが吸収されたとき、その吸収線量が 1 グレイ [Gy] です。この吸収線量は「物質」「エネルギー」に基づく純粋な物理量といえます。これに対して、生体への影響を考えるために、放射線の種類ごとに定められた放射線荷重係数を乗じて求められるのが線量当量(等価線量と実効線量があります)で、その単位が シーベルト [Sv] です。

どうやら「運び込んだ除染土の放射能が 8000 Bq/kg」であることと、除染土に通常の土をかぶせた結果「放射線量は 0.11 μSv/h」となったこととは、本来別の話なのですが、どちらにせよ、いきなり人体に危険な影響を及ぼすものではない、ということで、まとめられちゃった・・・ようですね。いや、よほど勉強してきた記者さんでないと、「放射能(量)」と「等価線量」や「実効線量」を分けて考えることはできないと思います。
4000字を超えたところで、この話題、いったん区切りとします。もちろん次回に続きます。