「そう言えば、あの件、どうなったっけ?」
「急ぎではないけど、考えといて」と上司から言われていた仕事。ここ二月(ふたつき)ほどの間、何の話題にもならなかったけど、休暇をもらおうとして帳簿に記入したタイミングで思い出されるとは・・・ こういうのが「勤め人あるある」です。でも、ここまできたら休んじゃうけどね。
さて、元・水の分析屋さんの仕事場だった「海」の話:
気象庁大気海洋部 5/9 発表の「お知らせ」では、「黒潮大蛇行の終息の兆しが見えた」とされていました。二月(ふたつき)ほど経過した 7/10 に発表された「お知らせ」では、どうなっていたでしょうか? 拍子抜けと感じる方も多いでしょうが、「大蛇行終息の兆しが見えている状況に変化はない」という表現になっていました。理由は「潮岬沖で黒潮が離岸していないことと、東海沖の蛇行がさらに東進し、四国沖の小蛇行は潮岬沖に移動しつつ縮小するとの予測から」。ほぼ変わってないんじゃん。いやはや、なんとも。
「お知らせ」を発表した気象庁大気海洋部は、元・水の分析屋さんがかつて所属していた部署(組織の名称などは変わりましたが)。自分の主担当と分野は違いますが、黒潮大蛇行がどうなるかだなんて、「うわぁ、専門の研究者に答えてもらうような話じゃないですか~」とは思いました(i)。
(i) 通常、黒潮の流路については、「海洋の健康診断表」で旬、月ごとの状況を解説します。そう、解説するだけなので、本当は「診断」ではないですね(変な名称は仕事の中身を歪めます)。「黒潮大蛇行」についての「お知らせ」も、現状の説明・解説です。そして、「引き続き、関係省庁と黒潮の監視を継続します」・・・今後どうなるという「予報」でもないのです。
大気・海洋の現象の時間スケールと空間スケールの関係については、昨年 6/22 に掲載した図をご覧いただくとして・・・

海洋の現象は、同じくらいの空間スケールを持つ気象現象に比べると、長~い時間的スケールであってふつう。日本列島南岸で生じた数百km 規模の現象は、気象現象ならほんの数日のうちに過ぎ去るでしょうが、黒潮大蛇行は・・・ 1年待って状況を見極めてから語ってもいいような気はします。「2か月も経過したのに、たいした変化がないとは、どういうことか(説明せい!)」とか、上司に言われるでしょうか。これまた「あるある」ですけど。 「引き続き、関係省庁と黒潮の監視を継続します」で、まあ、いいじゃないですか。 何はともあれ、お疲れさまです。
クサいモノの話が NHK「あさイチ」でも取り上げられました
7/29 の「あさイチ」で加齢臭を含むいくつかの悪臭が話題になりました。鈴木アナは今日も楽しそうでしたが、ゲストのお二人には、ある種の災難であったかと思います。お見舞いを申し上げます。まあ、浴槽に食酢を投入するのは・・・いくら有効だと言われても、実行しにくいですね。
さて、わたくしのブログでは、原因物質の化学式、構造式を示します。そして、見るからに強そうだとか、クサそうだとか、論評を加えることになります/があります。今日は前にちらっと書いた「ワンコたちお好みの飼い主さんの靴下」のニオイ。あるいは「足がクサイ!」と言われるのが怖くて、靴が脱げない話題から。
2016年 6月の花王からのニュースリリースによりますと、汗をかいた後に衣類から発生するニオイ成分とその原因菌が解明されました。ズバリ、
① 汗の不快度の高いニオイ成分は、短鎖および中鎖の複数の脂肪酸に由来
② ニオイ発生の主な原因菌は、皮膚常在菌であるマイクロコッカス属細菌
ということです。研究内容の一部は、平成28年度繊維学会年次大会(2016年6月9日、東京都)で発表され、『アタックNeo抗菌EX Wパワー』の改良につながりました。プレスリリース資料からニオイの元となっている脂肪酸をご覧いただきましょう:

これらを発生させるのが、オヤジ臭、加齢臭の発生にも関わっている皮膚常在菌の作用。とりわけニオイがキツいのが「イソ吉草酸」というわけです。詳しい話は後でね。
花王の回し者ではないので、個別の商品の売り込みまではいたしませんが、資料の末尾にある「今後も花王では、 ”洗う” というコア技術を通じて、「清潔」を徹底的に追求する本質研究を進めていきます」という一文。ここに込められた、「クサい」研究に携わった皆さんの矜持のようなものに、少なからず心を動かされるのです。
イソ吉草酸 isovaleric acid
私たちの足から出る汗の量は、両足を合わせて、一日でなんとコップ 1杯分にもなると言われています。スポーツする人、営業職でよく歩く人・・・などは、もっと多くの汗をかくはず。商談にはつきものだと思いますが、一献傾けながらってお誘いを受け、お座敷の席となって・・・「あ~、革靴やめとけばよかった~」。とにかく足がクサいですよね。
足がクサいのは、私たちが「悪いニオイ」だと経験的に知っているからです。クサい足は、汗まみれのチーズだとか、納豆がどうにかなったようだ(ii)とか、散々な評価になるのですが、脱ぎたての靴下が大好きなワンコは当たり前に存在します。ワンコにとっては、何らかの好ましい経験とつながった匂いなのでしょう。
(ii) 納豆の匂い? そんなの、はじめからどうにかなっているに違いない。そう思う人も当たり前に存在します。許してやってね。
さて、問題の物質。「イソ iso」という接頭辞から「吉草酸 valeric acid」の異性体であることが知れます。

上が「イソ吉草酸」ですが、ギンナン臭のときに登場した「酪酸(ブタン酸)」の骨格をもっていて(直鎖の炭素が4つ)、3番目の炭素からメチル基(CH3)の枝が生えていると見ることができます。そこで 3-メチル酪酸、3-メチルブタン酸ともいうわけです。一方、下の「吉草酸」は、骨格にある直鎖の炭素が 5つ。「ペンタン酸」ですね。
いずれも常温で液体、危険物第4類第3石油類。悪臭防止法による規制の対象となっています(イソ吉草酸の一滴で東京ドーム程度の空間に阿鼻叫喚をもたらすことができるらしいです)。また、弱いながらも毒性があり、人体への腐食性もあります。これは大変。子供の足がクサいのはよくあることですが、クサいままで放置すると、足が腐るかも知れません。
何はともあれ、やはり、直鎖型のカルボン酸はクサい(iii)。メチル基の枝があってもクサいみたいです。
(iii) カルボン酸といえば、ギ酸 HCOOH や エタン酸(ふつうの呼び方は酢酸)CH3COOH からして刺激臭があります。カーボンが増えたって、クサいものはクサいんでしょう。乱暴な知識で申し訳ない!
で、イソ吉草酸その他の原材料になるのは、ノネナールやジアセチルと同様、皮脂と汗です。しかも、足の皮膚は角質化しやすい傾向があり、角質化した皮膚は、常在菌の繁殖を促すエサになる。そして、長時間にわたって足を突っ込んでいた靴の中は、常在菌の繁殖に最適な高温多湿の状態。つまり、クサいモノの原材料が十分に供給され、加工を担う常在菌の繁殖にも好条件となっている。足がクサくなりやすいのは、当然すぎるくらい当然のことでした・・・・・・ 私たちは無力でした。
アンモニア ammonia も参戦します
ここまでは、足がクサいのはイソ吉草酸をはじめとする短鎖・中鎖の複数の脂肪酸が原因という流れでやってきましたが、実はもう一つ、しばしば汗にも含まれているアンモニアも、足がクサい一因となっています。通常、アンモニアは肝臓で分解されて、尿素の形になって、ふつうトイレで排泄されるのですが、ストレスによる疲労で肝機能が低下していたり、便秘気味で未消化の食物が町内、じゃなかった、腸内に滞留していたりすると、分解しきれなかったアンモニアは血液を通じて汗で分泌されることになります。そう、体調不良はアンモニア臭の原因になるのです。
アンモニアの刺激臭は、説明するまでもありませんね。それでなくてもクサい足にアンモニア臭も参戦です。ああ、恐ろしや恐ロシア。ただし、悪臭防止法の規制値で比較するなら、イソ吉草酸の匂いの強さはアンモニアの1000倍。まずはイソ吉草酸の発生を抑制する方が先ですね。
足をキレイにしましょう
さて、足がクサい話にも飽きてきたので、そろそろ対策編と参りましょう。
○ 花王株式会社においては、体から汗や皮脂が出てくるのは当然なので、衣類を洗濯する時にマイクロコッカス属細菌を可能な限り除去する、という方向性が示されています。洗剤は日々改良されています。ちゃんと洗うか、洗わないかは、あなた次第です。
○ 角質化した皮膚は、常在菌の繁殖を助けてしまうのですから、できる限りきれいに除去しましょう。まさか顔をゴシゴシ洗うような人はいないと思いますが(いたとすれば、よほど面の皮が厚いのでしょう)、足の裏はゴシゴシ洗うべし。全体重を支える足の裏は、皮膚も厚くなっています。そして皮脂腺もありません。軽石で削り取るのは正解らしいです。
○ 皮脂(脂肪酸)と汗(アンモニア)を抑えるのも有効な対策。良質な脂肪分とタンパク質を摂取し、ストレス性の疲労をためないようにしたいものです。便秘も問題でしたから、適度な運動が有効でしょう(って、専門家さんは言うに決まってます)。
○ 毎日同じ靴を履いて通勤するのは避けた方がよいでしょう。靴屋さんの回し者でもないのですが、靴の手入れも大切だと思います。
今日のクサいモノの話、このくらいで勘弁しといてやりましょう。