『童子教』より
夫積善之家 必有余慶矣 それ積善の家には 必ず余慶(よけい)あり
亦好悪之処 必有余殃矣 また好悪の処には 必ず余殃(よおう)あり
人而有陰徳 必有陽報矣 人にして陰徳あれば 必ず陽報あり
人而有陰行 必有照名矣 人にして陰行あれば 必ず照名あり
先祖が行った善行は、その子孫に幸いをもたらす。
先祖が行った悪事の報いは、災いとなって子孫に残る。
人知れず良い事をするものには、必ず目に見える良い報いがある。
元を正せば『易経(坤卦)』にある言葉からきているのですが、特に後半部分は、善行を積めばよいことがある、悪事を繰り返せば悪い報いがある・・・と、単純に読めてしまいます。しかし、実はそうではない。余慶、余殃というのは、本人ではなく、子孫に及ぶもの。つまり、あなたひとりのことではなくて、先祖代々の行動が子々孫々にわたって影響する、と言っているのです。
上の続きに当たる部分を『易経』から拾っておきます:
臣弑其君 子弑其父 非一朝一夕之故
臣にして其の君を弑し、子にして其の父を弑するは、一朝一夕の故に非ず
※ 元・水の分析屋さんの訳。「臣下の者が主君を殺したり、子が父を殺したりするのは、一朝一夕の故ではない、よほどのことが積み重なったのであろう」
これは穏やかならぬことになってますね。主君殺しや親殺しは、先祖代々の行動がなってないから起こるのだという、厳しい戒め。
翻って、今の日本、弑するまではいかなくても、政界・財界では寝返り裏切りが横行しているようで。行いがよろしくない政治家や経済人のせいに違いない。『論語(子路)』にこう書かれています。
子曰、苟正其身矣、於従政乎何有。不能正其身、如正人何。
子曰わく、苟くも其の身を正しくせば、政に従うに於いて何か有らん。其の身を正しくすること能わずんば、人を正しくすることを如何せん。
利権にしがみつく政治家には、支援金や交付金といったおこぼれを狙う支持者が纏わりついてきます。全体の奉仕者たる者、目の前に現れる支持者のことだけ考えていてはいけないはずです・・・しかし、演説中にヤジられて「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い放った人がいましたね・・・おおよそ其の身を正しくしたとは言いがたい。不吉なことを書いて申し訳ないですが、何世代にもわたって国のトップに立つ政治家を出してきた家系にしみついた、反対意見にはいっさい耳を貸さないといった狭量な考え方が、あのような結果を招いたのかも、って思ってしまいます。
さて、二酸化炭素を回収する話、用語の問題を取り上げて、今回で一区切りとしましょう。
海洋生物に対応するのは「ブルーカーボン」、では、陸上生物だと?
二酸化炭素を回収するとは言っても、ずーっと余計に排出し続けていた人間のすることですから、自ずと限界があります。
まず、岩石の風化を人工的に促進する DACCS は、実際に稼働している施設も多く、有望な手法とされてはいますが、玄武岩その他を掘り出し、砕いて、大気中にさらし、CO2 を鉱物の形にする手間がかかります。そもそも大気中の CO2 濃度は 4% 程度でしかありません。そこから 1% でもよいから回収しようとするのですから、量的に過剰な CO2 を急に減らすまでにはなかなか至らないでしょう。生成物を農業肥料にする道もあるところは好感触ですけど。
次に、「海洋吸収」で期待されていたのは、海水のアルカリ度を高めることによって、海水が大気中の CO2 を吸収する力を強化しようという手法。これは、化学的には理解できるのですが、人為的に海水をアルカリ性にかたむける物質を投入しますから、環境影響がどうしても気にかかります。
そこで、生物の作用に頼って、余分だと思われる大気中の CO2 を生物圏以外のどこかに固定することに目が向けられます。海の方では「海洋生物」としてくくられた部分、沿岸域の植物や植物プランクトンによる炭素固定も含めた「グリーンカーボン」の管理という表現になっていました。
さて、「海洋吸収」も「海洋生物」も、大気中の CO2 を最終的に海底堆積物にする保証はないのですが、それなりに期待されていました。では、「陸上生物」には何も期待されていないのでしょうか? 確かに、陸上には、ホモ・サピエンスとかいう CO2 の放出に関しては最悪の貢献をする動物がいますが、陸上にもちゃんとした植物相はあります・・・ 実は、海洋での植物相による吸収・貯留を「ブルーカーボン」と呼ぶのに対応して、陸上植物による吸収・貯留のことは「グリーンカーボン」ともいうのです。
ここでブロッカーのコンベアベルトを思い出していただきたいのですが、世界の海洋をめぐる熱塩大循環は2000年規模の現象です。とすれば、水とともに循環するブルーカーボンも、堆積物になり損ねたとしても、同じくらいの時間スケールで動くでしょう。
一方、大気中(地表)にある陸上植物の活動は、中・高緯度なら年単位、熱帯雨林などを考えても数年から数十年の時間スケールの現象かと。陸上の植物によって炭素を吸収・貯留しようとする方法が、それほど取り上げられていないのは、ブルーカーボンに比べて時間スケールが 2桁ほど短いからなのではなかろうか、と思います。長期にわたって使えるのでないと「ウケ」が悪いでしょうから。
それともう一つ。「グリーンカーボン」は、カーボンクレジット創出販売を行う事業者の社名でもあるからです。Green Carbon株式会社は、「生命の力で地球を救う」というビジョンを掲げ、自然由来のカーボンクレジット創出販売事業を展開しています。環境問題の専門用語であって然るべき言葉が、会社名になっていては仕方ないですね。
そんなこんなで、「ブルーカーボン」に比べて「グリーンカーボン」があまり使われないのだと思います。
「ホワイトカーボン」もあります
「すす」のような、いかにも「炭」であるような状態の炭素は「ブラックカーボン Black Carbon」と呼ばれます。海洋に吸収・貯留されそうなのは「ブルーカーボン」で、陸上植物に吸収・貯留されそうなのは「グリーンカーボン」でした。
ところで、ここまでの当ブログで登場したカーボンの色。ほぼ自明な「黒」のほか、「青」と「緑」がありました。ところが、あっと驚く「白」もありますよ・・・

鹿島が開発した製造過程で CO2 を吸収して固まるカーボンネガティブコンクリート「CO2-SUICOM®」。「CO2-スイコム(吸い込む)」とは何ともオヤジ的な命名ですが、従来のセメントを用いたコンクリートとはひと味もふた味も違うとのこと。どんな違いでしょうか。
そもそも、セメントは、カルシウム Ca,珪素 Si,アルミニウム Al,鉄 Fe などを含んでいて、水と混ぜると最初にカルシウムイオンが溶出。 その後徐々に他の元素のイオンも溶け出して、これらが水に溶けにくい「セメント水和物」という結晶状の物質を作ります。 それが時間の経過とともにセメント粒子間の隙間を充填し、固まっていくのです。しかし、セメントを得るには石灰石 CaCO3 を 1450℃の高温で焼成しなくてはなりません。この工程をはじめとして、セメントの製造工程では大量の CO2 が排出されます。
そこで「スイコム」です。従来セメントが果たしていた役割を「γ-C2S ガンマシーツーエス(ケイ酸二カルシウム 2CaO・SiO2)」という材料に置き換えました。γ-C2S は、水とは反応せず、空気中の CO2 と反応してコンクリートを硬化させる性質があります。「CO2-SUICOM®」は、製造過程でコンクリート材料を練り混ぜた後、火発の排気ガスなど、高濃度・大量の CO2 が存在する環境に置くことで、CO2 をコンクリートに吸収・固定します。一般的なコンクリートとの比較で、どのくらいの CO2 を削減できているか、「KAJIMA CONCRETE BASE」のサイトにある図をご覧あれ:

(https://www.kajima.co.jp/tech/c_sus_con/technology01/index.html を参照)
ということで、東京大学の野口貴文教授(建築学)はスイコムのような環境配慮型コンクリートを「ホワイトカーボン」と呼ぶことを提唱したのだそうで。なるほど、コンクリートは白っぽいですからね。
このほか、ゴム補強用の充填剤として利用される、非晶質の白色のケイ酸あるいはケイ酸化合物(SiO2・nH2O)も「ホワイトカーボン」と呼ばれます。自動車タイヤに使用される「カーボンブラック」は、ほぼほぼこの「ホワイトカーボン」に置き換えられているそうです。ゴムの柔軟性もブレーキ性能も向上するんですって。
「ブラックカーボン」、「ブルーカーボン」、「グリーンカーボン」に「ホワイトカーボン」・・・「炭素」を含んでいないものにまで「カーボン」を付けちゃうのは、元・水の分析屋さん的には賛成できかねるのですが。それでも、好ましい物質の話なんですから、まあ、いいじゃないですか。
今回はここまで。