alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

【化学】二酸化炭素を回収する話(6)

老子』第五十三章 です。

 

使我介然有知、行於大道、唯施是畏。大道甚夷、而民好徑。

朝甚除、田甚蕪、倉甚虚。服文綵、帶利劔、厭飮食、財貨有餘。是謂盗夸。非道也哉。

 

使(も)し 我介然として知有らば、大道を行きて、唯だ施(し)を是れ畏(おそ)る。大道は甚だ夷(い)なるも、而れども民は径(けい)を好む。

朝は甚だ除(よご)れ、田は甚だ蕪(あ)れ、倉は甚だ虚しきに、文綵(ぶんさい)を服し、利剣を帯び、飲食に厭き、財貨餘り有り。是れを盗夸(とうか)と謂う。道に非(あら)ざる哉。

 

もし、私にしっかりした知恵があったなら、大きな道をあるき、脇道にそれることだけを恐れるだろう。大きな道はとても平坦なのに、しかし、人民は近道を好む。

朝廷では汚職邪悪がまかり通り、田畑は荒れるにまかせていて、米倉はすっかり空っぽだ。それなのに、きらびやかな衣服を身にまとい、立派な剣を腰に帯び、飽きるほど飲み食いして、財産はあり余るほど。こういう輩を盗賊の頭目という。道をふみ外している。

 

老子は紀元前500年前後、春秋時代の人と記憶しています。すでにその頃から「朝甚除」だったのですね。権力は腐敗しますからね。かなり前(平成5年)にも書いたことですが、私たちの歴史は繰り返してさえいないと言えるのではないでしょうか。失敗の続きを延々と書き加えているだけ。

 

さてと、前回は玄武岩などを用いた「岩石風化促進法(ERW:Enhanced Rock Weathering)」が歴としたビジネスになっている話で終わりました。今回はアメリカでなんとなくうまくいっている例を紹介するところから始めましょう。驚いたことに、何と、石灰岩を使うというのです。

 

石灰岩といえば「炭酸カルシウム CaCO3 」なのだが・・・

いま一度整理しておきますが、二酸化炭素除去(CDR: Carbon Dioxide Removal)の話をしようと思っているのに、元締めであるはずの資源エネルギー庁なんかは、言葉を「ネガティブエミッション技術(NETs: Negative Emission Technologies)」にすり替えてました。わが国の二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage) 技術がまだお寒い状況にあることから目をそらそうとしているようにさえ見えますね(あ、元・水の分析屋さんの個人的感想です)。

\(・_\)それは(/_・)/おいといて、昨年(2024年)12月、三井物産三菱商事DAC ビジネスを進めている米国のエアルーム社(Heirloom Carbon Technologies, Inc)に出資する旨プレスリリースしました。そして、エアルーム社の DAC 技術は、地表にあたりまえに存在する石灰岩に CO2 を吸着させようというものなのです。ええ~っ!?

話を聞こうじゃないか(ボケて のお題写真から)

石灰岩の主成分は「炭酸カルシウム」。CaCO3 ではないか。それを利用して大気から CO2 を除去しようというのですから、まあ、私もはじめは眉に唾つけました。しかし、コストの話をさておくと、決しておかしな話ではないみたいなんですよ。

 

エアルーム社の DAC システムの概念図がこちら。

三菱商事の web ページに出ていた図です

そして、システム主要部が収まった建物に、大きなファンで空気を送り込んで・・・ ということですね。キルンの廃熱も利用できそう。

こちらは設備全体の想像図

それでは、CO2 回収の仕組みを確認しましょう:

ステップ 1 石灰岩(炭酸カルシウム CaCO3)を粉砕して再生可能エネルギーで稼働する「キルン(kiln, 回転するドラムを持つ窯・炉)」に投入する。

ステップ 2 キルンでの加熱によって追い出される CO2 を回収して貯留する(生コンクリートに混ぜたり、地中深くに注入したり。ここを担当するパートナー企業もあります)。キルンには酸化カルシウム CaO(i) が残る。 

(i) 「お節介」じゃなかった、「生石灰」です。お菓子や海苔の乾燥剤としてよく使われていて、特に「シケナイ」という商品名のものは、安全航海のお守りとされます(笑)。

ステップ 3 酸化カルシウム CaO に水を加えて水酸化カルシウム Ca(OH)2(ii) に変える。

(ii) 生石灰に水を加えると猛然と発熱します。冬の最中にお外で一杯やるために開発された「富久娘 燗番娘」という商品は、この反応熱を利用したものです。ただし、燗酒用の仕組みとしては過激だと思います。安全な熱源に置き換わって然るべきかと思います。反応後の水酸化カルシウムは「消石灰」です。元・水の分析屋さん世代は、運動会などでグラウンドにラインを引くために使いました。固体の場合は、カルシウムイオンと水酸化物イオンのイオン結晶になっているのがふつうらしい。水溶液は、小・中学生の理科で二酸化炭素の検出に用いる石灰水。

ステップ 4 水酸化カルシウム Ca(OH)2 をトレイに撒き、3日間空中にさらして CO2 を吸着させる。吸着した後は、ステップ 1 に戻る。

 

いかがでしょうか。驚くほどシンプル。真ん中にある円筒で表現されたキルンの熱源エネルギーだけは系の外からもらうのですが、それ以外は大きなエネルギーを必要としないようです。そして、日経サイエンス3月号の記事によると、今のところこの方法による  DAC のクレジット価格は、植樹による CO2 除去より数倍も高いのだそうです。それでも、エアルーム社の CEO サマラ氏は、コストは急速に低下すると、楽観視しているらしい。 曰く「トレーの上に石を並べているだけなのだから」。おお、何とも頼もしい起業家だこと。キルンで回収した CO2 を貯留するところを切り離しているのが「ミソ」だと思いますが、三井物産三菱商事といったところまで資本参画するくらいですから、エアルーム社のビジネス、見通しは明るいと考えてよいのでしょう。

カリフォルニア州のプラントで稼働中の CO2 吸着トレイの塔

 

それはさておき、この DAC システムで利用されている化学反応式。これは試験に出てきそうなレベルだと思います。カルシウムの水酸化物 Ca(OH)2 が2価なのが多少気になる程度で、ムツカシイなんて到底言えません。高校受験を控えているなら、このくらいは理解しておいてほしいです。

厳しいと言われても、このレベルで苦労するようだと先が思いやられます

それでは、今日はここまで~