対数の話をしましょう。

前回、log 3≒0.4771 などと平気で書きましたが、最初くらいは log10 3≒0.4771 のように書くべきでした。まあ、元・水の分析屋さんはこれで稼いでいるわけじゃないので。また、上の右半分に書いた二つの式、x が a の肩に乗っかっていれば「指数」と言うのに、x が何であるかを表すときには「対数」と呼ぶ。試験なんか関係ない生活の中でヒマに飽かせて(i) 考えておりますが、う~ん、やはり面白いですね。
(i) 「暇に飽かせて」と「暇にまかせて」は混同される傾向があるようですが、何かをするのに費やすだけの十分な暇がある、言い換えると持て余すほどの暇があるのなら、前者が適切で、後者を選ぶと・・・きっと誤用とされます。少なくとも「暇に飽かせて」と「まかせて」ではニュアンスがずいぶん違います。そんなことはなかろうとお考えなら、暇にまかせて調べてみればよいでしょう。
\(・_\)それは(/_・)/おいといて、四則計算や n乗根の記号に比べて「log」はあまりなじみがなく、何とも分かりづらい。10進数の「桁」に注目と言われて「0.4771 桁」がすぐ理解できるわけではないですし。よくある質問(愚問の典型ですが)「それは一体何の役に立つのか?」を突きつけようとする人、やるなら今でしょ~
対数の発見/発明
高校数学で対数が登場するとき、「ax= b のとき、x を a を底とする b の対数という」のように説明されます。確かに、そのように定義できるし、それで不都合はないのですが、歴史的にはそうじゃないんだよぉ、ってなります。
対数は、ジョン・ネイピア John Napier(1550-1617)によって「発見」されました。個人的には「発明」の方がよいように感じられます。といいますのも、彼は、指数の表現が用いられるよりも前に対数を構成したからです(ii)。
(ii) 指数の表現から対数を導く方向の考え方は、偉大なるレオンハルト・オイラー Leonhard Euler(1707-83)によるものです。1728年のことだそうです。それまでは 23 = 8 のような記法さえなかった。
ネイピアの発明は、1614年、『おどろくべき対数規則の記述』'Mirifici logarithmorum canonis descriptio' と名付けられた書物で世に出ました。彼は、この著書によって対数の性質を明らかにし、角度1分ごとの正弦 sine サインの対数表を示しました。昭和生まれの私たちが知っている対数表は「整数と10進小数」に対する値ですが、彼は三角比の対数を細かく求めました。ここに注目です。なぜ三角比・三角函数との関連からスタートしたのか。
16世紀には、ヨーロッパ世界からいわゆる新大陸はもとより、アジアの東の果て、日本までも航路が延びていました。世はまさに大航海時代。地球が丸いこともずーっと前から分かっていますから、球面幾何学の進歩も著しい。さらに、天文観測によって正確な緯度・経度を求めるだけではなく、陸地が見えなくても安全かつ効率的に航海したいという欲求が高まります。見知らぬ土地との交易を通じて莫大な富を手に入れる・・・今も昔も、欲と二人連れならどこにでも向かえますからね。各国の熾烈な競争があったことは言うまでもありません。
複雑な三角比や三角函数を駆使する航海術に関わる計算には対数表が欠かせません。そういう状況の中、角度1分ごと、ということは、経度方向なら約1852mの解像度をもつ情報が与えられたわけです。すごいですね~ 実際、GPS なんか存在しない時代ですから、船には天文観測や船位の決定、航路推算などを担当する専門職が乗せられています。乗組員全員の生命がかかっていることですし、相当ブラックな職場であったことは想像に難くないのですが、対数表のおかげで計算能力が各段に上がって、陸地が見えないところを航海していても、目的地に到達することを確信できるようになったはず。対数は、七つの海を制覇するための航海術の発展に役立ったわけです。
対数の計算・・・ほぼ「公式」
対数を使う計算では常識にしておきたい「公式」を見ていきましょう。まずは「基本のき」だと言われそうなところから。

※ a > 0, a ≠ 1, M > 0, N > 0 などの条件は、特にことわる必要がなければ省略します。
真数の掛け算・割り算が対数の世界では足し算・引き算になり、真数の累乗は対数の掛け算になっています。有効桁数が多い数値を実際に扱うとしたら、掛け算・割り算よりも足し算・引き算の方が楽。三角函数のお勉強では、倍角、3倍角、半角・・・などなど、多数の公式が出てきますが、それらはたいてい三角函数同士の掛け算・割り算の組み合わせになっています。対数を用いれば、そこを足し算・引き算で済ますことができる。航海術や天文学の業界にとっては、革命的な「発明」だったとは思いませんか。「天体力学概論」を著したピエール゠シモン・ラプラス Pierre-Simon Laplace(1749-1827)をして「天文学者の寿命は2倍になった」と言わしめたのも当然です。
地震のマグニチュードとエネルギーの関係式
地震学は元・水の分析屋さんにとって専門外なので、なぜそうなるのか、を知らないのですが、地震のマグニチュード M と震源から送り出された揺れのエネルギー E [J] の間には次のような関係があります。

専門外と言いながらこれを持ち出したのは、地震の震度やマグニチュードについて、いろいろなサイトで解説されているからですが、どうも出所が分からない。1956 年に書かれた論文があるのかな~と思われますが、ググっても見つかりません。ご存知の方がおられましたら、ご教授いただけると幸いです。
で、出所が分からないままに先を続けます。震源から送り出された揺れのエネルギー E を「ジュール J」で表した値の対数が(本当は揺れだけでなく熱なんかも発生する(iii) でしょうが、とりあえず目をつぶって)マグニチュード M の一次式である、と主張していますね。そして M の係数が 1.5 だというのですよ。
(iii) 地震のエネルギーによって上空にまで電磁波が届いたり、特徴的な雲が発生したり・・・という説もありますが、さて、どうでしょう。
では、具体例で計算してみましょう。
たとえば、M = 5 の地震の場合、log10 E = 12.3 となるので、E = 1012.3 J です。分かりにくいかも知れませんが、1 TJ (1012 J) よりも 100.3 だけ大きい・・・のですね。0.3 と言えば log10 2 ~ 0.3 ですから、E はだいたい 2× 1012 J でいいんじゃないでしょうか。
次です。M = 6 だと、log10 E = 13.8 ⇒ E = 1013.8 J です。10 TJ (1013 J) よりも 100.8 大きい。乱暴は百も承知ですが、log10 2 ~ 0.3, log10 3 ~ 0.5 として 0.8 ~ log10 2 + log10 3。公式 (1) を使って だいたい 2×3 倍見当、6×1013 J と見ます。
もひとつ行きましょう。M = 7 の地震のエネルギー E は、log10 E = 15.3 となるので、E = 1015.3 J です。M = 5 のときと比べて指数の整数部分が 12 → 15 に変わりましたが、小数部分は同じですから、だいたい 2× 1015 J で OK です。
・・・という感じで見てきましたが、地震のエネルギーは M = 5 → 6 で 30倍くらい(より正確には 31.62倍)、M = 6 → 7 でもほぼ 30倍になっています。ここで間を飛ばして M = 5 → 7 の様子を見ると、ぴったり 1000倍(103 倍)になっております。
地震のマグニチュードの解説を試みた多くのサイトで、マグニチュードが 1大きくなるとエネルギーは約30倍とか約32倍とか書かれています。ここでやめてしまうと、マグニチュードが 2大きくなるとエネルギーは 30×30倍とか 32×32倍とかの表現になってしまいかねません。悪いことに? 32=25 なので、半端に理科系の人ほど考えすぎて 32×32倍は 210 =1024倍だと考えそうな気がしますね。
元・水の分析屋さんの個人的な意見ですが、対数を知らないという人に対しても、遠慮なく「マグニチュードが 1大きくなると・・・」のところはやめて、「マグニチュードが 2大きくなると、エネルギーはぴったり 1000倍(103 倍)になる」のだと言いきってやってほしいのです。
高校生で習う対数で理解できるはずだから、ちょっと頑張ってください・・・って言いましょう。繰り返しますが、個人的意見です。
対数の説明は文字数が多くなりがち。長文になってますが、中身はそれほどでもないかと勝手に思っています。
ではまた~