元・水の分析屋さんのような、ツッコミ入れるのが人生最大の楽しみだという人間にとって、ネタの宝庫とも言える「政府広報オンライン」。つい先日(2024年9月9日)、カテゴリー「安心・安全」のページ(https://www.gov-online.go.jp/safety_security/)にアップされた「全国地域安全運動/安全安心なまちづくりの日 みんなでつくろう安心の街」も、元・水の分析屋さんの期待に背かず愉快なものでした。
前置きは刑法犯の認知件数の話です。平成15(2003)年以降減少を続けていたところ、令和5(2023)年には前年を上回ったそう。また、特殊詐欺の被害が深刻で、犯罪に対して不安を抱く人が少なくない。そこで、犯罪を防ぎ、地域社会の安全安心を守るために、全国各地で住民が自主的に様々な地域安全活動に取り組んでいるそうです・・・
この「マクラ」の部分で、すでにちぐはぐな印象を抱くのは私だけでしょうか。

新聞でも、テレビ・ラジオでも、あたりまえにある話ですが、「安心」と「安全」が一緒くたにされているのが気になるのです。そもそも、意味的に対立する言葉を探せば、「安心 ↔ 不安」で「安全 ↔ 危険」にしかならない。両者をまとめて扱おうとする理由をはかりかねています。「安心感、不安感」とやればはっきりしますが、こちらはおそらく個人の感情や考え方の問題。もう一つの「安全性、危険性」の方は、科学・技術に裏打ちされたデータなどで客観的に評価されるものでしょう。ずいぶんと性格が違いますね。
世間的にはエラいはずの人がいくら「安全」だと訴えたところで、あまりにも怪しくて「安心」材料にはなりません(実例を挙げるまでもなく、皆さん、心当たりはおありでしょう)。ですから、元・水の分析屋さんは、世間的にはエラいはずの国会議員や大臣、行政組織のトップクラスの立場の人から(はっきり書いてしまった・・・)、安易に「安心・安全」と発言されるのは、不誠実の極みであると考えます。今回取り上げた政府広報の場合、地域住民の「安心・安全」に対しては「住民が自主的に」取り組むように勧めている事例。特殊詐欺などはもはや警察組織でさえ持て余している状況、「行政では面倒見切れないから、皆さんで頑張ってね」ということなのでしょうか。法整備が追いつかないのに、許認可とか取り締まりとかができるはずないですね。 極論だとは百も承知で言いたいのですが、それなら、税金取るなや。
たとえば、食品添加物や医薬品の安全性については、急性の毒性がないか、発がん性がないか、体内に蓄積しないか、など、様々な面から科学的な試験が行われて、適切な使用量や濃度の基準が決められます。それで納得できない人がいたとしても、まあ、客観性はあると言えます。
道路、港湾、ダム、一般家屋も含めた建築物その他の安全性についても、たとえば、高温、大雨、強風・突風などの気象現象(i) に耐えられるように基準が定められています。
(i) 三匹の子ブタたちの家の強さは、オオカミが「こんな家、一吹きだ」といって吹き飛ばすかどうかで評価されました。もちろん、評価基準は強風に耐えられるかどうかの一点です。通常、人間の住居を考えるなら、気象現象に限らず、地震や火災に対しても相当程度の耐久性が要求されます・・・わかっちゃいるのですが、耐震基準を満たしているはずの建物が基礎ごと流し去られるとか、防火性・耐火性の高いはずのお部屋から出火するとか、いろいろ見てきましたので、そういうのはとりあえず知らないことにしようと思います。
しかし、人間の身の安全を図るための基準については、住民の一人ひとりが安全だと判断して安心してもらうのが理想でしょうから、行政の側からは決めかねるとしたものです。だからといって、ことあるごとに「命を守る行動を取って下さい」と、あなた任せみたいな言葉で呼びかけられるのも、どうしたものかと思うのです。
\(・_\)それは(/_・)/おいといて、積乱雲一番の「あるある」は、何らかの嵐をもたらすことではないかと思います。とはいえ、ここは私のブログです。いざという時にすぐ役立つ「命を守る行動を取って下さい」なんていう話は、そればっかり得意な人がいるはずなのでお任せして、違うことを書きますね。
乾燥断熱減率 と 湿潤断熱減率
ということで、積乱雲が発達する仕組みからお話ししたいと考えました。
前回紹介した資料にあるとおり、積乱雲は「背の高い雲の塔」。雲が対流によって鉛直方向に発達してできる雲です。そして、積雲、積乱雲といった「対流性の雲」がどんどん成長するのは「大気の状態が不安定」だからです。この言葉、天気予報の時間にほとんど無反省に使われていますが、実は、結構ムツカシイ内容を含んでいます。
地上付近にある空気のカタマリ(エア・パーセル air percel と呼ばれます)は、暖められると膨張して軽くなる(正確には密度が小さくなる、でしょう)ので上昇します。このとき、パーセルは周囲の空気とは熱のやりとりをしない、と考えてよい・・・こういうのを断熱変化といいます。また、気圧が低い上空へと向かうと、当然パーセルは膨張します・・・これを断熱膨張といいますが、膨張するとパーセルの外に向かって「仕事」をするので、その分の熱を失ってパーセルの温度は下がります(ii)。
(ii) 物理の用語での説明になってしまいますが、元・水の分析屋さんが気象学を復習しながらの話なので、そこは許してちょんまげ。
空気が水蒸気を含んでいても、凝結が始まる露点温度になるまでは、100m 上昇するごとに約1℃(0.976℃/100m)という一定の割合で温度が下がります(これを乾燥断熱減率といいます)。一方、空気が水蒸気で飽和していると、やはり暖められたら軽くなって上昇するのですが、そのときに水蒸気が凝結して潜熱を放出するので、その分温度の下がり方は緩やかになります。このときの高度 100mあたりの温度低下の割合を、「乾燥」断熱減率に対して「湿潤」断熱減率といいます。
乾燥断熱減率は潜熱が関係しないので、地球上ならいつでもどこでも同じ値ですが、湿潤断熱減率の方はそうはいきません。その値は、気圧が高く、低温であるほど大きくなって乾燥断熱減率に近づき、逆に、気圧が低くて高温であるほど小さくなります(高校生までのレベルなら、湿潤断熱減率を 0.5℃/100m として計算せよ、がふつうかと思います)。 乾燥断熱減率 と 湿潤断熱減率 には違いがある、ここまで OK でしょうか?
安定、不安定、中立
今、地上にある空気の一部を切り取って、ひとつのパーセルと考えましょう。切り取っただけなので、周囲の空気と温度は同じですね。このパーセルを少しだけ上空に持ち上げたら、さて、何が起こるでしょうか。
もし、パーセルの周囲の方が高温であれば、パーセルの方が「重い」ことになるので、元の高さに戻されるように下向きの力を受けます。現状から外れようとすると「復元力」が働いて元に戻る、こういう状態は「安定 stable」です。
逆に、もし、パーセルの周囲の方が低温であれば、パーセルの方が「軽い」ことになります。すると、さらに「浮力」が得られるので、パーセルはもっと上昇することができます。現状から外れるとさらにそれが加速してパーセルの上昇がとまらない、こうした状態が「不安定 unstable」です。
もうひとつ、持ち上げられたパーセルと周囲の温度が同じだと、浮力も復元力も働かないので、パーセルは上下方向にはどちら向きの力も受けません。これが「中立 neutral」の状態です。
さて、今日のまとめ:
パーセルが上昇するときの温度低下は、水蒸気が飽和していなければ乾燥断熱減率にしたがい、飽和して凝結が始まると湿潤断熱減率にしたがいます。そして・・・
(1)パーセルが上昇するときの気温低下の割合が、湿潤断熱減率よりも小さい場合は、水蒸気が飽和していてもいなくても、パーセルの温度よりも行き先の温度が高い。必ず復元力が働くこの状況は「絶対安定」です。
(2)パーセルが上昇するときの気温低下の割合が、乾燥断熱減率よりも小さい場合は、パーセルの温度は行き先の温度よりも高いことになります。上昇とともに浮力が増すこの状態は「絶対不安定」です。
(3)パーセルが上昇するときの気温低下の割合が、湿潤断熱減率と乾燥断熱減率の間にあるときは、パーセルが水蒸気で飽和するまでは安定ですが、飽和してしまうとそこからは不安定になります。面倒だと言われそうですが、これが「条件付き不安定」です。
概念図だけは示しておきますね。

天気予報なんかで「大気の状態が不安定」と表現するのは、ちょっとしたことで「絶対不安定」になってしまう状況だと言いたいのだろうと思います。
じゃ、次回は対流が発達する話。