alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

台風が来る! 続き

失礼な言い方で申し訳ないですが、夏休み最終日まで宿題を残している子供さんたち、今ならまだ間に合うはず。この本はいかがでしょう。

私がほんの駆け出しの頃からお世話になっている先生から頂戴した本、「ほんの」駆け出しの頃から・・・頂戴した「本」・・・です。

 

かつては東京管区気象台の管轄であった「富士山測候所」。気象衛星によって宇宙から台風をとらえられるようになって、富士山レーダーの必要性が薄れたこともあって、2004年に閉鎖されました。今は「富士山特別地域気象観測所」になっています。
しかし、自然現象の研究に携わる人たちにとっては、周囲に並び立つ山がない富士山だからこそ可能になるネタの宝庫。
おそらく、中学生くらいの読者を想定しているのでしょうが、富士山頂での観測の歴史、それを支えてきたひと、そして、フィールドでの観測・研究の魅力が、これでもかと言わんばかりに紹介されています。小学生の高学年くらいの皆さんなら、この本で読書感想文、というのも面白いと思います。 ぜひぜひ!

 

さて、台風5号は本日午前3時に弱い熱帯低気圧に変わりました。雨の心配はともかく、風の心配は一段落。そして6号 SON-TINH は明日朝には弱い熱帯低気圧に変わりそう。さらに、午前6時に発生した台風7号 AMPIL が関東地方に最接近もしくは上陸しそうだというのは、16日から17日にかけてのこと。お叱りを受けそうですが、2-3日の余裕があると言えなくもない・・・ちょっとだけムダ知識、やってみましょう。

 

台風とは・・・「風力8」

西部北太平洋または南シナ海にある熱帯低気圧のうち、最大風速が34 kt(ビューフォート風力階級で風力8)以上のものを台風と呼びます。って、とりあえず知らん顔して説明しましたが、じゃあ、熱帯低気圧とはどんな低気圧でしょう? また、風力8とはどんな強さの風でしょう? 

順番変えてビューフォート風力階級の方から紹介しましょう。

地表面(海面)から10m上の風、元々は、風速計によらない目安の意味があります

ラジオを聞きながら天気図を描く人なら「石垣島では 東北東の風 風力3・・・」のように読み上げられるのをご存知のはずです。この階級はもちろん「気象庁風力階級表」の区分と一致しています(i)

(i) breeze を英和辞典でひくと「そよ風、微風」とか。風力2(軽風)から始まって風力6(雄風)までの5階級に breeze が使われています。そよ風みたいなものと思っていたら、急に強くなってきたので fresh breeze 新鮮なそよ風とか。また、Strong breeze 強いそよ風・・・では高校の物理の先生を思い出しました。授業中にここぞというところで黒板をぶっ叩くのですが、私たち悪童は「強く黒板に触れる」と表現していたものです。おっと、つまらない話で失礼。

さて、風に関して気象庁が発表する海上警報は、予想される最大風速で以下のように区分されています(アジア太平洋域実況天気図 ASAS には [○○] の略号で書き込まれています):

海上風警報       [W]    WARNING          28-34 kt

海上強風警報   [GW]  GALE WARNING        34-48 kt

海上暴風警報   [SW]   STORM WARNING         48 kt - 

海上台風警報   [TW]  TYPHOON WARNING     台風によって 64 kt 以上

ということは、台風とは、海上強風警報 [GW] 以上が必要な風をともなう熱帯低気圧、ですね。 

 

台風とは・・・「渦」構造

で、もう一つの「熱帯低気圧」とは。実に大雑把なことで申し訳ないですが、日本付近の温帯域で一年中発生しては衰えてゆく低気圧が「温帯低気圧」。そうでない奴ら、主に夏から秋に(亜)熱帯域で発生する低気圧が「熱帯低気圧」。

元・水の分析屋さんレベルだと、言葉だけの説明でこれ以上は無理。図に頼ることにしましょう。まず台風が出てきている天気図から。

台風は上空まで「渦」の構造

天気図が3枚並んでいます。左は「地上」天気図(Surface Analysis)。様々な高さで観測された「現地気圧」を、高さ 0m に換算(海面更正)した「海面気圧」が等しい場所を結ぶ「等圧線」が描かれています(4 hPa 間隔)。真ん中と右は 700hPa と 500hPa の「高層」天気図。上空にいくほど気圧が低くなることはご承知でしょうが、高層天気図はある一定の気圧面(700hPa とか 500hPa とか)を考えて、その気圧になる高度が等しいところを結ぶ「等高線」が描かれています(60m 間隔)。
大切なことなのでここで繰り返しておきますが、よく見る地上天気図は、高度 0m の海面での気圧に注目した図。あまりみかけない高層天気図は、上空で 700hPa とか 500hPa とか、一定の気圧の面の高度に注目した図です。

台風(熱帯低気圧)は、地上天気図では等圧線が同心円状になっており、高層天気図でも等高線が同心円状になっている。つまり、地表から上空まで「渦」の構造を持っている。これが発生する場所以外の特徴。

次に、前線をともなった温帯低気圧が出てきている天気図。

地上では「渦」だが上空では「波動」

地上天気図で、東経130度付近にある低気圧の周囲の等圧線をたどると、前線のところで折れ曲がっているとはいえ、まあ、ぐるりと回って渦になっています。しかし、高層天気図を見ると、700hPa 面ではまだ渦がありますが、500hPa 面では等高線が波打っているだけです。「偏西風波動」っていうのですが、ここまでいくとずいぶん専門性が高いのでしょうね。

なお、気象庁のホーム(https://www.jma.go.jp/jma/index.html)から上で使ったような図にたどり着くのはなかなか大変です。気象情報を専門に扱う会社のページとか、たとえば、ですが HBC 北海道放送さんの「天気」のページ https://www.hbc.co.jp/weather/pro-weather.html とかをご覧になるのが早いと思います。図の見方の親切丁寧な解説もあったりしますし。

 

低気圧としてのエネルギー源も異なる

熱帯低気圧温帯低気圧の違いは、渦の構造が高層でも見えるかどうか、で分かる。そして、もう一つ、大切なことがあります。立体的な構造を見ながら、低気圧を維持・発達させるエネルギーにも注目しましょう。

この図は流用しないでね

台風(熱帯低気圧)は、熱帯・亜熱帯の海上で発生・発達します。周囲に冷たい空気がないところにできるので、温かく湿った空気だけでできているのです。そして、水蒸気が凝結して雲を作るときに放出する熱がエネルギー源。

一方、温帯低気圧は、北側にある冷たい空気と南側にある暖気との間、中緯度域で発生・発達します。典型的な温帯的圧は前線を伴っており、前線をはさんだ南北方向の温度差からエネルギーを得て発達します(ii)

(ii) 何らかの物理量に差があるところからは、うまくやればエネルギーを取り出すことができます。ダムに蓄えた水を低いところに落とせば、運動エネルギーが得られて、発電機のタービンを回すことができる。固定された磁界の中でコイルが動けば、誘導電流を取り出すことができる。膜をはさんだ溶液の浸透圧が異なれば、液面の高さの形で位置エネルギーを得られる。などなど。

ということで、低気圧のエネルギー源が違うのでした。

 

なお、Wikipedia には「(台風と)温帯低気圧との最大の違いは、前線を伴っていないことである」といった記述があり、さすがに [要出典] が付けられています。前線というものは、性質の異なる気団の境界が地表面と交わっているところ。前線を伴わない温帯低気圧もあたりまえにあります。台風の特徴の説明としては舌足らずです。

 

今日のお話は、夏休みの自由研究のネタにできるものばかりでしたね。そうです、元・水の分析屋さんは、手間を省くためもありますが、わざとだいぶ前に作った資料で説明しました。ここで出てきた天気図を最新の台風や低気圧のに取っ替えれば、とりあえず一丁上がりです。悪知恵を与えてしまったか。

 

次回も台風の話、続けます。