alchemist_380 のひとりごと

元・水の分析屋さんがブツブツ言います

一体何がしたいのか

波瀾万丈・荒唐無稽と書いておいたイアソンとアルゴ号の冒険譚、「後略」ですませるのはあまりにもったいないので、その後の話も紹介しておきましょう。

 

コルキスに向かう途中の早い段階で、なんとヘラクレスが脱落。仲間を探しに行ったのに戻ってくるのを待たずに出航したのだから困ったもんです。その後も食うや食わずで痩せこけた予言者を助けたり、勝手に開いたり閉じたりする岩の間をすり抜けたり。何とかコルキスに到着します。

イアソンはコルキス王アイエーテスに黄金の羊の毛皮を求めてやってきた旨を伝えます。すると、アイエーテスは「野で暴れる牛を大人しくさせて聖地を耕し、ドラゴンの歯の種をまけたら毛皮のありかを教えよう」と答えます。しかし、これが罠。暴れ牛は鉄の脚を持ち、口から炎を吐く。まいた種からは兵士が生えてきてイアソンを襲う。そういうことになっている。

一方、イアソンびいきのオリュンポスの神々、アイエーテスの娘で魔術使いでもあるメディアに、エロスの矢を射かけてイアソンに一目惚れさせる作戦に出ます。メディアは狙いどおりにイアソンにぞっこん。炎を防ぐ薬草と兵士を混乱させる石を用意します。オマケに、暴れ牛の制作担当者はヘラの子だし・・・出来レースですね~

で、イアソンは牛を手なずけて聖地を耕し、ドラゴンの歯の種をまく。もちろん兵士がザクザク生えてきますが、そこに石を投げると、錯乱状態になった兵士たちは同士討ちを始めます。かくして、メディアのおかげでミッション・コンプリート。アイエーテスは渋々黄金の毛皮のありかを教えます。森の奥でドラゴンに守られておるわ!(i) 欲しければ持って行くがよい!

(i) フランスの画家、ジャン=フランソワ・ド・トロワ Jean François de Troy の「金羊毛皮の獲得」を見ると木の枝に引っかけてあったようです。大切な毛皮のはずですが、管理がまるでなってませんね。

メディアがドラゴンを眠らせてくれたので、簡単に羊の毛皮をゲット。イアソン一行は急いで出航、幼い弟を連れたメディアも一緒です。

さて、アイエーテス、ようやく頭が回ってきます。ここまで手際がよいのは、事前に対策が用意されていたからに違いない・・・自分の娘ではあるが、魔術が使えるメディアがやっぱり怪しい。もっと早く気づきなさいよですが、アイエーテスは追っ手を差し向けます。

アルゴ号に追っ手の船団が迫ると、メディアは弟を殺して、その亡骸をバラバラにして海に投げ込みます。コルキス船団がそれを拾い集める間にやっとこさ脱出した、という残虐の極みです。魔術使いもエロスの矢の魔法にはあらがう術がないのでしょうか。

メディアはその後もイアソンたちと行動を共にしますが、ゼウスの怒りに触れたらしく大嵐に遭います。アルゴ号船首のオーク材は、メディアが肉親殺しの罪を清めなければならないと告げ(こういうタイミングでしゃべるのですね)、魔女キルケによる浄めを受けに行く。

・・・と、オルフェウスとセイレーンの歌合戦をはじめとするあれやらこれやらがあったものの、一行はイオルコスにたどり着きます。そしてまたまたあれやらこれやら省略しますが、王位簒奪者のペリアスに復讐を果たしたまではよいのですが、自分たちも追放されてしまいます。アテナもヘラも、もう助けてくれないのですね。

それでも、イアソンとメディアはコリントスに逃れ、うわべだけは幸せに暮らします。しかし、メディアの残忍な行為に嫌気がさしていたせいか、イアソンはコリントス王から娘のムコになってほしいと言われると、すっかりその気になってしまいます(話がうまくまとまれば王様にだってなれるし)。先立つものなら用意するから、メディアよ、国を出て行ってくれないか。裏切られたと知ったメディアは、恐ろしい手段で復讐します。イアソンとの間に生まれた二人の子供を殺して、世継ぎをなくしたのです(ii)

(ii) ウジェーヌ・ドラクロワ Eugène Delacroix に「わが子を手にかけようとするメディア」という作品があります。鬼気迫るメディアが二人の男の子を抱えて・・・いや、これは確かに・・・ぞっとするような美女です。

何もかも失ったイアソン、コリントスにいられるわけもありません。何年かの後、アルゴ号の残骸の下敷きになって最期を迎えたということです。

 

自業自得で破滅するヒーロー&ヒロイン。何ともやりきれない感覚が残ります。ギリシャ神話の英雄たちは、一体何がしたいのか。

まあ、\(・_\)それは(/_・)/おいといて、アルゴ号 Argo の神話の中心人物は王子イアソンでした。この名前、英語圏だとジェイソン Jason (IとJは簡単に交替します )です。海面高度を測定する人工衛星 Jason の名前になっているのです(2016年に上がった Jason-3 がまだ運用中だと思います)。こうして Argo は海の中から、Jason は宇宙空間から、海洋を観測しております。だからもう、一体何がしたいのか、なんて言わないで下さいね。

 

時間・空間スケールのグラフ上の化学物質のグループ

そうそう、化学物質が関わる方のグラフを再掲しますが、縦軸が時間で(しかも、秒、時間、日、年・・・の刻み)横軸が空間になっています。「大気・海洋現象の時間・空間スケール」の図は時間を横軸にとっておりましたから、まずはそこんところよろしくです(iii)

再掲します。縦軸が時間です。

(iii) 用語としては「時間・空間」の順に並べるのがふつうみたいですが、どちらを縦軸にするのかは専門家の間でも統一されていないようです。説明しやすければ・・・ね。

さて、図中⚫の近くに物質の化学式などが書かれていますが、ちょっと見慣れないものばかりではないでしょうか。

左下隅の破線で囲まれているところは、Short-lived Species, 短寿命の成分 です。OH, NO3, HO2, CH3O2 ・・・どれも「ラジカル」の類いです。分単位以上の時間にわたって安定して存在できるものではありません。特に気をつけていただきたいのは、H2O ではなく HO2 のところ。ふつうに考えつくような構造にはなりません。

真ん中辺の囲みは、Moderately Long Lived Species, 比較的長寿命の成分 です。「比較的」というからには、数値できちんと定義されてないことを白状しているわけです(笑)。C5H8, C3H6 などは nコの C と 2n+2コ の H じゃないので、どこかに二重結合・三重結合があることが容易に想像できます(なんちゃらジエン、とか言われると、なるほど安定度も低そうに聞こえます)。DMS は dimethyl sulfide, ジメチルサルファイド(あるいはスルフィド)。その構造は、イオウ S にメチル基がふたつ H3C-S-CH3。海洋の植物プランクトンが作る有機イオウ化合物からできる物質で、いわゆる磯の香りの一部を形成すると思われます。Trop O3 は対流圏オゾン。Aerosols エーロゾル もここに入ってますね。H2O2 過酸化水素。すりむいた傷口にオキシフルを垂らされて、ぎゃーって大声を上げませんでしたか。消毒に役立っているのは活性状態の酸素、傷口のいろいろなものを酸化していたのでした。痛いよね、しみるよね。知っているのは昭和世代だけど。

最後は右上の囲み、Long Lived Species, 長寿命の成分 です。CH3Br, CH3CCl3 はその次に出ている CH4 メタンの仲間ですが、臭素 Br, 塩素 Cl を含んでいます。オゾン層破壊の元凶の一つ CCl4 四塩化炭素 の仲間でもあることに気付いていただきたいです。N2O やCFCs (Chlorofluorocarbon 類)もあります。

以上、好ましく思える「化学的に安定である」という性質が、何だか悪いことのように思えてしまう結果でした。まあ、神様の創造物である人間が作った化学物質のことですから。一体何がしたいのか、よく分からないのも仕方ないのでしょう。

 

最後になりますが、私たちがとらえやすい大気圏内の現象について、時間・空間スケールの関係をまとめておきました。

物質が上層に向かうには時間がかかる、です